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「人は変えられない」──医療者が患者さんと信頼を築くための本質的なアプローチ|きだ内科クリニック

[2025.10.10]

【医療者の本質】他人は変えられない─患者を変えるのではなく、患者と共に歩む医療を

 

 

1. 医療の現場で感じる「人は変わらない」という現実

 

私たち医療者は日々、生活習慣病、禁煙、減量、服薬継続など、**「行動の変化」**を患者さんにお願いする場面に直面します。
しかし現実は、こちらがどれだけ正しい説明をしても、なかなか行動が変わらない。
それは、**人間は“外から変えられる存在ではない”**からです。

他人を変えることはできません。
それは自分の子どもでさえ同じです。
変わることができるのは、本人自身が「変わりたい」と思った瞬間だけです。

 

2. 医療者ができることは「変化のきっかけ」を作ること

 

私たちが提供できるのは、「変化を促す環境」と「気づきの種」です。
つまり、患者さんの中に“内発的動機”を生み出す支援です。

  • 医療者が患者を“導く”のではなく、

  • 患者が自らの意思で“一歩を踏み出す”ための土壌を整える。

これこそが、真の「寄り添う医療」です。

 

3. 無理強いは信頼を壊す

 

患者指導において最も避けるべきことは、「押しつけ」や「強制」です。

医療者が正論で迫れば迫るほど、患者さんは**防衛反応(reactance)**を起こし、むしろ行動を拒むようになります。
「やらなければならない」ではなく、
「自分からやってみようかな」と思える心理的安全性が重要です。

だからこそ、「矯正」ではなく「共感」
一方的に変えようとするのではなく、「一緒に考える」姿勢が信頼を築きます。

 

4. コーチングの考え方を医療に取り入れる

 

コーチングとは、相手の中にすでにある力を引き出す対話の技術です。
「あなたはどう思いますか?」「何から始めてみたいですか?」
このような問いかけは、患者さんの中にある“自己決定感”を呼び覚まします。

医療者が知識や方法を提供するのは大切ですが、
**「決めるのは患者さん」**という姿勢を徹底することが、長期的な行動変容につながります。

 

5. 習慣を変えるのは難しい──だからこそ「小さな一歩」から

 

人の習慣は、長年の積み重ねで形成された**脳の自動反応(オートパイロット)**です。
それを一度に変えるのはほぼ不可能。
だからこそ、**成功の鍵は「ハードルを下げること」**にあります。

 

 運動習慣の“最初の一歩”を小さく設定する

 

「健康のために毎日1時間歩こう」と思っても、忙しい日常の中で続く人はわずかです。
最初の目標は、“やろうと思えば今すぐできるレベル”まで落とすこと。

  • いきなり1日1時間の運動 → まずは「1日1分だけのストレッチ」から
      朝歯を磨く前に腕を伸ばす、夜テレビを見ながら足首を回す。
     “やらなかった罪悪感”より、“少しでもできた達成感”を積み上げる。

この「できた!」という小さな成功体験が、脳の報酬系(ドーパミン分泌)を刺激し、
「明日もやってみよう」という意欲につながります。
それが次第に、“やらないと気持ち悪い”という新しい習慣へと変わっていくのです。

 

 食習慣の改善も“全体”ではなく“部分”から

 

食事内容を全て変えるのは、心理的にも負担が大きく続きません。
まずは「一日のうち、どこか一食だけ」を意識的に見直すことがポイントです。

  • 食事内容を全部変える → 「夜だけご飯を半分に」から
     👉 夜は代謝が落ちるため、炭水化物を控えるだけでも血糖コントロールに有効。
     👉 “夜だけ”に絞ることで、無理なく続けやすい。

さらに、「白米を雑穀米に」「味噌汁の具を野菜多めに」など、
“足す”形の改善(=制限ではなく充実)を取り入れると継続率が高まります。

 

 禁煙も「ゼロ」ではなく「減らす」から始める

禁煙は、最も難しい行動変容のひとつです。
だからこそ、“やめる”をゴールにせず、“減らす”を一歩目に設定します。

  • 禁煙を即断 → 「まず1本減らす」から
     👉 1日20本吸う人なら、最初の1週間は19本に。
     👉 それが「自分でも少しコントロールできる」という実感につながる。

この“自己コントロール感”が、禁煙の成功率を大きく左右します。
医療者は、「完全にやめる」よりも、「一部を変える勇気を評価する」姿勢が大切です。

 

 小さな変化の積み重ねが「行動定着」を生む

 

この“できそうな小さな変化”を繰り返すうちに、
患者さんの中に**「自分にもできる」**という確信が芽生えます。

これは心理学でいう**自己効力感(Self-efficacy)**であり、
この感覚こそが、行動を持続させる最大のエネルギーです。

私たち医療者にできるのは、
この“最初の小さな一歩”を一緒に見つけ、
できたことを一緒に喜び、次の一歩を応援することです。

 

6. スタッフが意識すべき3つのポイント

 

① 「変える」ではなく「支える」

 

目標は、患者を変えることではなく、患者が自分の中にある“変化の力”に気づけるよう支えること。

多くの医療者は、「よくなってほしい」という思いから、つい患者さんを“導こう”とします。
しかし、NLPの基本原理のひとつに

「相手の中にすでにすべてのリソース(資源)は存在する」
という考え方があります。

つまり、患者さんの中には、すでに「変わる力」が備わっているのです。
医療者が行うべきは、それを引き出す質問・関わり方をすること。

🔹実践のヒント:

  • 「なぜできないの?」ではなく、「どうすればできそうですか?」と聞く。

  • 「やりましょう」ではなく、「やってみようと思えそうなことはありますか?」と尋ねる。

  • 指導ではなく、“伴走”を意識する。

こうした「支える言葉」は、相手の**自己決定感(autonomy)**を守り、
行動変容の内発的動機を高めます。

 

② 「共感」ではなく「同情」しない

 

“わかってもらえた”と感じることが、信頼の基盤になる。

患者さんが心を開くきっかけは、「この人は自分の気持ちをわかってくれている」と感じた瞬間です。
しかし、ここで注意が必要なのは、「共感(Empathy)」と「同情(Sympathy)」は違うということ。

  • 同情:「かわいそうに」「仕方ないですね」→ 相手の立場を下に置く構図になりやすい

  • 共感:「そう感じておられるのですね」「つらかったですね」→ 相手の感情を“同じ高さ”で受け止める

NLPでは、共感とは「相手の世界地図(World Map)を理解しようとする姿勢」とされています。
人は、自分の世界を理解しようとする人を信頼します。
この“心の安全基地”ができたとき、初めて行動変化の準備が整うのです。

🔹実践のヒント:

  • 相手の言葉を**オウム返し(リフレクション)**する:「~と感じていらっしゃるのですね」

  • 感情の名前をつけてあげる:「不安」「悔しさ」「頑張り」などを言語化する。

  • 「こうあるべき」ではなく、「その気持ちは自然ですよ」と受け止める。

 

③ 「成功体験」を一緒に見つけ、褒めて強化する

 

行動変容を継続させる最大の鍵は、“小さな成功を一緒に喜ぶこと”。

人は「変わった自分」を実感できたときに、脳内でドーパミンが分泌され、次の行動につながります。
この仕組みを利用して、「小さな成功」を“見える化”し、認めることが重要です。

🔹実践のヒント:

  • 「よく頑張りましたね」よりも、「この1週間、夜の間食を我慢できたんですね。すごいです」と具体的に褒める

  • 成功を医療者が“評価”するのではなく、“共感して一緒に喜ぶ”。

  • 「できた」ではなく、「できるようになったプロセス」に注目する。

 

7. まとめ:寄り添う医療とは、「相手の変化を信じること」

 

医療者にできることは、患者さんを変えることではありません。
ただ、患者さんが自分の力で変わっていけるように信じ、支えることです。
その信頼と寄り添いこそが、最終的に患者さんの人生を変えます。

 

✨きだ内科クリニックの理念

「私たちは、患者さんを変えるのではなく、
患者さんが“自ら変わる”力を信じ、共に歩む医療を実践します。」

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