「腹部膨満感・下痢・便秘・ゲップや胃酸逆流の原因はSIBO?小腸内細菌異常増殖症について解説」
SIBOとは?
SIBO(小腸内細菌異常増殖症)は、通常小腸に少量しか存在しないはずの腸内細菌が、何らかの原因で異常に増殖し、さまざまな消化器症状を引き起こす病気です。近年、SIBOは過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシアなどと症状が重なることから注目され始めていますが、まだ日本では十分に認知されていない疾患です。
小腸は通常、栄養を吸収する場として機能しており、大腸に比べて細菌が少ないのが特徴です。しかし、SIBOでは小腸内に細菌が増殖し、私たちが食べた食物を発酵させ、ガスを発生させることになります。このガスの蓄積によって腹部膨満感、腹痛、ゲップ、便秘や下痢などの症状が現れることが特徴です。
特に小腸はガスに耐える構造をしていないため、異常増殖した細菌によって発生するガスが腹部に強い圧力をかけることになり、生活に大きな支障をきたすことがあります。また、水素ガスを発生する細菌が多い場合は下痢、メタンガスを発生する細菌が多い場合は便秘になりやすいという特徴もあります。
このような症状がエコーやCTなどの検査で原因不明とされた場合には、SIBOを疑う必要があります。SIBOの診断や治療は、まだ広く行われていないため、消化器病専門医でも見逃されることがありますが、最近ではSIBOとIBSの関連性も注目されており、適切な治療が重要です。
SIBOの症状
SIBOは、小腸内で腸内細菌が異常に増殖し、さまざまな症状を引き起こす病気です。一般的に見られる症状には、次のようなものがあります。
よく見られる症状
- 腹部膨満感
お腹がガスで張って苦しくなる症状です。通常は空気がたまらない小腸ですが、SIBOでは腸内細菌の増殖によりガスが大量に発生し、お腹が膨れます。 - 腹痛
ガスによる腸内圧力が高まるため、腹痛を伴うことがあります。お腹がシクシク痛む、または鋭い痛みを感じる場合もあります。 - 下痢や便秘
SIBOでは、腸内細菌が作るガスの種類により便通に影響が出ます。水素ガスを多く作る細菌が増えると下痢になりやすく、メタンガスを作る細菌が増えると便秘になりやすいとされています。下痢と便秘を交互に繰り返すこともあります。 - ゲップや胃酸逆流
胃や小腸にガスが溜まることで、ゲップが多くなったり、胃酸が逆流することがあります。
その他の関連症状
- 栄養吸収不良
SIBOが進行すると、腸内細菌が食べ物から栄養を奪ってしまい、体が十分に栄養を吸収できなくなります。これにより、体重減少や栄養不足が引き起こされ、疲労感が強くなることもあります。 - 疲労感
栄養が十分に吸収されないため、エネルギー不足になり、常にだるさや疲れを感じることがあります。また、消化不良や慢性的な腹部不快感によるストレスも疲労感を悪化させる原因です。
SIBOの原因
SIBO(小腸内細菌異常増殖症)は、様々な要因で小腸内の細菌が異常に増殖することによって引き起こされます。ここでは、SIBOの原因となる主な要素について説明します。
1. 消化管の動きの異常
腸の動き(蠕動運動)は、食べ物を適切に消化・吸収するために非常に重要です。蠕動運動が低下すると、小腸内の内容物が停滞しやすくなり、細菌が過剰に増殖します。
腸の動きが低下する原因は、糖尿病やパーキンソン病、甲状腺機能低下症などの全身性疾患、さらにストレスや自律神経の乱れも影響します。腸が正常に動かなくなると、消化の過程で食べ物が腸内に長く留まり、それを餌とする細菌が増殖しやすくなります。
2. 食事や生活習慣との関係
高糖質な食事や不規則な生活習慣もSIBOのリスクを高めます。糖質の多い食事は、腸内の悪玉菌の増殖を促進し、腸内フローラのバランスが崩れることで、SIBOが発症しやすくなります。また、慢性的なストレスや睡眠不足は自律神経に悪影響を与え、消化管の正常な動きを妨げます。
さらに、胃酸を抑える薬や抗生物質の使用も小腸内の細菌増殖を助長します。胃酸は、食べ物の消化だけでなく、細菌を殺菌する役割も担っていますが、胃酸分泌が抑えられると、細菌が小腸内で増殖しやすくなります。
3. 他の疾患との関連性
SIBOは、他の消化器疾患や全身疾患とも深く関係しています。たとえば、過敏性腸症候群(IBS)やクローン病、潰瘍性大腸炎などの消化器疾患は、小腸内の環境を変化させ、細菌の異常増殖を引き起こしやすくなります。また、糖尿病や全身性硬化症(強皮症)などの慢性疾患も、消化管の動きを鈍くさせ、SIBOのリスクを高めます。
さらに、手術や慢性的な消化器疾患によって胃酸や胆汁の分泌が減少すると、腸内の自然なバランスが崩れ、細菌が過剰に増殖することが考えられます。
SIBOの診断方法
SIBO(小腸内細菌異常増殖症)の診断にはいくつかの検査方法がありますが、最も標準的とされているのは「空腸吸引液培養法」です。この方法は小腸から直接液体を採取して、細菌の培養を行い異常増殖を確認します。しかし、侵襲的で特殊な内視鏡設備が必要なため、日常的にはあまり行われていません。そのため、臨床の現場では以下のような検査が主に利用されています。
1. 呼気水素・メタンガス検査
この検査では、ブドウ糖やラクツロースなどの糖質を摂取し、その後一定時間ごとに呼気中の水素ガスやメタンガスの濃度を測定します。小腸内の細菌が糖質を発酵させると水素やメタンが発生するため、これらのガスが高値を示せばSIBOが疑われます。
特にラクツロースを摂取後、120分以内にガス濃度が上昇した場合は、小腸内で細菌が増殖している可能性が高いです。この検査は侵襲的でなく、手軽に実施できるため広く使用されています。
2. 便中遺伝子検査 (GIMAP)
便サンプルから細菌のDNAを抽出し、腸内細菌叢の構成を調べる検査です。特に小腸由来の細菌が多く検出される場合、SIBOの存在が示唆されます。この検査は小腸の状態を直接的に調べることはできませんが、腸内フローラのバランスの乱れを確認するために有用です。
3. 腹部画像検査(レントゲン、CT、超音波)
画像検査では、小腸の拡張や内容物の停滞、腸管壁の肥厚などの異常が確認できることがあります。ただし、これらの所見はSIBOに特有ではなく、他の消化器疾患とも重なることが多いため、単独での診断には適していません。他の検査と組み合わせて総合的に判断します。
SIBOの診断には、複数の検査を組み合わせることでより正確な結果が得られます。呼気検査が最も一般的な方法ですが、便中遺伝子検査や画像検査も併用し、患者の状態を詳細に把握することが重要です。
SIBOの治療方法
SIBO(小腸内細菌異常増殖症)の治療は、主に以下の3つのアプローチに基づいて行われます。
1. 抗菌薬による治療
SIBOの治療でよく用いられるのは、異常増殖した細菌を減らすための経口抗菌薬です。通常、10~14日間の投薬が行われ、好気性および嫌気性の細菌に対して効果を持つ薬が使用されます。代表的な薬剤として、以下のものがあります。
- アモキシシリン/クラブラン酸
- セファレキシン
- リファキシミン(メタンガスが優位な場合はフラジオマイシンと併用)
- メトロニダゾール
抗菌薬は効果が見られることが多いですが、再発も比較的多いため、症状が再発した場合には周期的な投薬が行われることもあります。
2. 食事療法
SIBOの症状を改善するためには、食事療法が非常に重要です。腸内細菌の餌となる炭水化物を減らす食事を推奨し、脂肪が多く、繊維や炭水化物が少ない食事が有益とされています。また、低FODMAP食もSIBOの症状緩和に効果的とされています。
- 低FODMAP食
発酵しやすい糖類(オリゴ糖、乳糖、果糖、ポリオール)を含む食品を避けることで、腸内でのガス発生を抑え、症状を軽減することができます。 - エレメンタルダイエット
必要な栄養素を分子レベルまで細かくした成分栄養を内服し、腸内細菌の餌になることを避けつつ、体に必要な栄養を補給します。通常、2週間程度の実施が推奨されます。
3. 腸の蠕動運動の促進
SIBOの原因の一つとして、腸の蠕動運動が低下することが挙げられます。蠕動運動が正常に行われないと、ガスが腸内に溜まりやすくなり、細菌の増殖を助長してしまいます。治療には、以下の薬が用いられます。
- モサプリド
- エリスロマイシン(少量)
- 漢方薬 これらの薬は、腸の動きを正常に保つことで、SIBOの再発を防ぐ効果があります。
その他の治療アプローチ
- サプリメントと天然抗菌ハーブ
抗生物質に加え、天然の抗菌ハーブを使用して細菌の除去を図る方法もあります。特にカンジダなどの真菌増殖が合併している場合、バイオフィルム対策が必要となることがあります。 - 心理療法
SIBOやIBSは、自律神経の乱れが原因となる場合が多く、ストレス管理が重要です。心理カウンセリングやストレスマネジメントによって、自律神経のバランスを整え、症状を改善することが期待されます。
再発予防
SIBOは再発しやすい病気ですので、治療が終了した後も維持療法が大切です。低糖質食、間食を避けること、適切な水分摂取、タンパク質の補給、ストレス管理などが再発予防に効果的です。
SIBOについてのQ&A
Q1. SIBOはどのようにして診断されますか?
A. SIBOの診断は主に呼気検査によって行われます。ブドウ糖やラクツロースなどの糖質を摂取し、その後一定時間ごとに呼気中の水素ガスやメタンガスの濃度を測定します。これらのガスが増加している場合、小腸内で細菌が異常に増殖している可能性が高いと判断されます。また、便中遺伝子検査や腹部画像検査も補助的に使用されることがあります。
Q2. SIBOはどんな症状を引き起こしますか?
A. SIBOの主な症状には、お腹の膨満感、ガスの多発、腹痛、下痢や便秘の繰り返し、消化不良などがあります。また、栄養不良による疲労感や体重減少、ビタミンB12欠乏症なども見られることがあります。
Q3. SIBOの治療はどのように行われますか?
A. SIBOの治療には、抗菌薬による治療や、腸内細菌の餌となる糖質を抑えた食事療法が行われます。リファキシミンなどの抗菌薬が処方されることが多いですが、低FODMAP食などの食事療法やエレメンタルダイエットも効果的です。また、腸の蠕動運動を促進する薬剤を使用することで、症状の改善を図ります。
Q4. SIBOの治療後、再発する可能性はありますか?
A. はい、SIBOは再発しやすい疾患です。そのため、治療後のフォローアップが重要です。再発を防ぐためには、食事療法の継続や腸内環境を整える生活習慣の見直しが必要です。当院では、治療後も定期的にカウンセリングや栄養指導を行い、患者様の健康を長期的にサポートしています。
Q5. SIBOはなぜ起こるのですか?
A. SIBOの原因には、腸の蠕動運動が低下することや、胃酸分泌の不足、消化器疾患や糖尿病などが影響しています。これらの要因によって、通常は少ない小腸内の細菌が異常に増殖し、消化不良やガス発生を引き起こします。また、抗生物質の長期使用もSIBOの原因になることがあります。
Q6. SIBOはどうすれば予防できますか?
A. SIBOの予防には、低FODMAP食などの食事管理やストレスを軽減することが有効です。また、腸の動きを正常に保つことが大切で、適度な運動や規則正しい食生活も予防に役立ちます。当院では、再発予防のための継続的なサポートプログラムもご提供しています。
Q7. SIBO治療にはどれくらいの期間がかかりますか?
A. 治療期間は患者様の症状や状態によって異なりますが、通常、抗菌薬の投与期間は10~14日間です。その後、食事療法や生活習慣の改善を継続し、治療効果を長く維持するためにフォローアップを行います。必要に応じて再発予防のための治療が継続されます。
Q8. SIBO治療は保険適用ですか?
A. 現在、SIBOに関する検査や治療は自費診療となります。詳しい料金や治療内容については、当院までお気軽にお問い合わせください。
当院でのSIBO治療の特徴
SIBOはまだ医療界でも新しい概念で、多くの医師が十分に認識していない疾患です。そのため、原因不明の消化器症状で苦しんでいる方の中には、SIBOが診断されずに長期間悩まされているケースも少なくありません。
SIBOに関する治療や検査は全て自費診療となりますが、当院では症状改善に向けた総合的なサポートを行っています。特に、管理栄養士による個別の食事指導が特徴で、日常生活に取り入れやすいアドバイスを提供します。患者様の症状やライフスタイルに合わせた食事プランを作成し、対症療法にとどまらず、長期的な健康管理をサポートします。
SIBOは再発するリスクが高い疾患です。当院では、治療後のフォローアップ体制を強化し、再発防止に向けた継続的なケアを行っています。定期的なカウンセリングや食事指導を通じて、患者様の健康を長期的にサポートし、再発リスクを最小限に抑えます。