「自己免疫性胃炎(A型胃炎)」とは?放置で貧血や胃がんのリスクも!早期発見のポイントを医師が解説
自己免疫性胃炎(AIG)とは
自己免疫性胃炎(AIG:Autoimmune Gastritis)は、体の免疫システムが誤って自分自身の胃粘膜、特に胃底腺領域を攻撃することで生じる慢性胃炎の一種です。A型胃炎とも呼ばれますが、この「A型」という名称はStricklandとMackayによる胃炎分類に由来するもので、「Autoimmune」の頭文字ではありません。なお、現在ではA型胃炎=自己免疫性胃炎、B型胃炎=ピロリ菌感染による慢性胃炎と対応づけられることが一般的です。
病態と原因
自己免疫性胃炎では、胃酸を分泌する壁細胞が主に標的となり、免疫反応により破壊されます。この反応は、壁細胞に存在するH⁺/K⁺-ATPase(プロトンポンプ)や、ビタミンB12吸収に不可欠な内因子(Intrinsic Factor)に対する自己抗体によって引き起こされると考えられています。また、一部ではピロリ菌感染との関連も示唆されていますが、詳細なメカニズムは未解明です。
壁細胞の破壊により胃酸分泌は著しく低下し、これに伴い以下のような影響が生じます:
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鉄吸収障害:胃酸は鉄の吸収を助けるため、分泌低下により鉄欠乏性貧血をきたすことがあります。
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高ガストリン血症:胃酸分泌低下に対するフィードバックにより、幽門前庭部のG細胞からのガストリン分泌が亢進します。
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胃内細菌叢の変化:胃酸の殺菌作用が失われ、ピロリ菌以外の口腔内細菌などが定着しやすくなります。これが**ピロリ菌陰性でも除菌を繰り返す原因(除菌の泥沼化)**となることもあります。
さらに、内因子の欠損によりビタミンB12の吸収障害が起こり、以下のような症状を引き起こすことがあります:
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巨赤芽球性貧血(悪性貧血)
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手足のしびれ、歩行障害、記憶障害などの神経症状
なお、鉄欠乏がビタミンB12欠乏に先行して出現することが多いとされています。
臨床像と合併症
本疾患は無症状のまま緩徐に進行することが多く、貧血や神経症状、消化器症状が出現してから診断されることも少なくありません。進行例では、次のような症状が見られます:
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胃もたれ、膨満感などの消化不良
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舌乳頭萎縮、灼熱感(Hunter舌炎)
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鉄欠乏・ビタミンB12欠乏に伴う全身倦怠感や神経障害
合併症として特に注意すべき疾患は以下の通りです:
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胃がん:慢性炎症により発がんリスクは約3倍とされ、日本では10〜20%に胃がんが認められたとの報告もあります。
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神経内分泌腫瘍(NETs):持続的な高ガストリン血症により、ECL細胞の過形成を経てNETsが発生します(発生頻度は約10%、悪性度は一般に低い)。
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自己免疫疾患の合併:1型糖尿病や橋本病、バセドウ病などとの合併が多く、**多腺性自己免疫症候群(APS)**の一部として捉えられることがあります。
診断
診断には、内視鏡所見・病理組織所見・血液検査を組み合わせて評価します。
内視鏡所見
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胃体部・胃底部の高度萎縮に対し、前庭部は萎縮を伴わないのが特徴(=逆萎縮パターン)。
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進行期では、胃体部に均一な血管透見像を伴う高度萎縮が見られます。
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その他:固着粘液、偽ポリープ様の残存腺、過形成性ポリープ、淡い発赤、斑状発赤など。
病理所見
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進行度に応じて「早期」「進行最盛期」「終末期」に分類。
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壁細胞の減少・消失、偽幽門腺化生、腸上皮化生、ECL細胞の過形成などが認められます。
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クロモグラニンA染色やH⁺/K⁺-ATPase染色が有用です。
血液検査
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抗壁細胞抗体:感度高いが特異度低い
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抗内因子抗体:特異度高いが感度低い
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ガストリン値:高値(ただし診断基準には不採用)
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ペプシノゲン値、ghrelin値:胃粘膜萎縮の指標として有用
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鉄・ビタミンB12:進行例では低下
新診断基準(日本消化器内視鏡学会の提案)
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確診例:内視鏡所見または組織所見がAIGを示し、かつ抗壁細胞抗体または抗内因子抗体が陽性。
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疑診例:所見のいずれかがAIGを示すが、抗体陰性。早期例では、組織所見のみで診断することもある。
治療と管理
自己免疫性胃炎そのものを治療する方法は確立されていません。鉄やビタミンB12の補充が基本となります。悪性貧血はビタミンB12補充で改善します。
胃がんやNETsのリスクがあるため、定期的な内視鏡検査(サーベイランス)が重要です。頻度については、
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日本では年1回の胃カメラが推奨されることが多い
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欧州では高度萎縮・腸上皮化生例で3年ごとの検査を推奨
NETsの治療方針は腫瘍の大きさや数により、経過観察・内視鏡的切除・外科的治療などが選択されます。
終わりに
自己免疫性胃炎は、無症状で進行し、ピロリ菌感染と合併することもあります。見逃されやすく、診断されていない症例も多いと考えられています。早期診断・リスク層別化・合併症予防の観点から、一般内科医も本疾患を正しく理解することが重要です。