【医師監修】森田療法とは?「あるがまま」に生きる実践法と4つの段階をわかりやすく解説|きだ内科クリニック
森田療法の実践方法と4つの段階|「あるがまま」に生きるための治療と日常実践
森田療法(もりたりょうほう)は、「あるがままに成すべきことを成す」という姿勢を、行動と体験を通して身につけることを目的とする精神療法です。
その根底には、「不安や症状をなくそうとするのではなく、それを抱えたまま現実の行動を積み重ねる」——という目的本位の生き方があります。
治療は大きく入院療法と外来療法の2つの形式で行われ、いずれも「気分や症状にとらわれず、現実に即した行動を重ねる」ことを中心に据えています。
I. 入院森田療法:行動と体験による4段階プログラム
森田療法の原点は入院治療であり、平均3か月ほどをかけて進行する**4つの段階(4期法)**があります。
第Ⅰ期:絶対臥褥期(がじょくき)―「あるがまま」を体感する静止の時間
期間: 約1週間
患者は個室で完全な安静生活を送り、読書・スマホ・会話など一切の気晴らしを禁じられます。
この間、さまざまな不安や恐怖、煩悶を体験しますが、やがて「何もせずとも死にはしない」ことを悟り、**自然な生への欲求(生の欲望)**が湧き上がるのを待ちます。
これが「不安を取り除くのではなく、受け入れる」という森田療法の第一歩です。
第Ⅱ期:軽作業期 ― 気分に左右されずに行動を始める
期間: 約4日〜1週間
庭の観察・木彫り・陶芸などの軽作業を通じて、気分や不安を抱えたままでも行動できる体験を積みます。
この時期から日記指導と主治医面談が始まり、「行動が感情を変える」という実感を育てます。
第Ⅲ期:重作業期(作業期)― 目的本位で生活する力を養う
期間: 約1〜2か月
患者同士の協働作業を中心に、園芸・掃除・動物の世話など実生活に近い活動を行います。
不安や緊張を抱えながらも「必要なことをやり遂げる」体験を重ね、症状中心の生き方から目的中心の生き方へ転換します。
第Ⅳ期:社会復帰期 ― 「あるがまま」の生活を実社会で実践
期間: 約1週間〜1か月
外出や外泊、職場復帰などを試みながら、森田療法で得た体験を社会生活へと移します。
「恐れながら行動する」力を、実際の生活の中で発揮する準備段階です。
II. 外来森田療法:日記と面談による現実的な心の訓練
近年では、仕事や家庭の事情から外来森田療法が主流になっています。中心となるのは日記指導と個人面談です。
1. 日記療法(行動記録と自己省察)
患者は毎日、行動や出来事を**「感情にとらわれず、事実中心に」記録します。
愚痴や反省ではなく、「今日行動したこと」「感じたこと」を具体的に書くのが特徴です。
医師はコメントを添えて助言し、このやりとりを通して自己理解と症状への正しい向き合い方**が身につきます。
この過程は、面接療法に匹敵する治療効果があるとされています。
2. 自助グループ(生活の発見会)
森田療法の理念は医療機関外でも実践できます。
代表的なのが、**NPO法人「生活の発見会」**による集談会です。
体験者の語りや学び合いを通して、「不安とともに生きる力」「あるがままの姿勢」を実生活に取り入れていきます。
III. 行動の原則:「理屈よりも実行」こそ治療の核心
森田療法では、「考えるより、まず行動する」ことを重視します。
不安が消えてから行動するのではなく、不安を抱えたまま行動に踏み出す——それが回復への道です。
1. 恐怖突入
恐れを避けず、むしろ恐怖に正面から向き合い、突入していく姿勢を学びます。
行動を通じて「恐怖は思っていたほど恐ろしくない」と実感することで、症状の悪循環を断ち切ります。
2. 「あるがまま」の実践
症状や不安を無理に消そうとせず、あるがままに受け入れた上で、目の前のすべきことを行う。
これが森田療法の核心であり、行動による「心の自然治癒力」を引き出す方法です。
IV. 日常生活での森田的実践:現実的な心の姿勢
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完璧主義を手放す:「完全を求めず、できる範囲で最善を尽くす」
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休息の転換:仕事を止めるのではなく、種類を変えることが真の休息
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生産的・奉仕的行動:他者に役立つ行動が、結果的に自分を生かす
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優先順位と集中:今できることは一つに絞り、目の前の現実に没頭する
まとめ
森田療法は、不安や症状を「なくす」治療ではなく、それらと共に生きながらも行動できる自分を取り戻す治療です。
現代のストレス社会において、心身症・不安障害・身体症状症などに悩む多くの方に、実践的かつ有効な治療法として再評価されています。
