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【医師解説】便失禁とは?高齢者に多い「便漏れ」の原因と治療法をわかりやすく解説

[2025.06.16]

【医師が解説】便失禁とは?高齢者に多い「便漏れ」の原因と治療法

便失禁とは、自分の意思とは無関係に便が漏れてしまう状態を指します。日常生活や衛生面に大きな影響を与えるこの症状は、日本国内で推定500万人以上が悩んでいるとされ、特に65歳以上の高齢者に多く見られます

便失禁はデリケートな問題であるため相談しにくい傾向がありますが、適切な診断と治療で改善が期待できます。ここでは、便失禁の原因や種類、治療方法についてわかりやすく解説します。

 

🔶 便失禁の種類と特徴

便失禁は、症状や原因によって以下のように分類されます。

■ 漏出性便失禁(溢流性・受動性)

便意がないまま、知らないうちに便が漏れるタイプで、便失禁の中でも最も多く見られる形です。
主な原因

  • 内肛門括約筋の機能低下

  • 糞便塞栓症(ふんべんそくせんしょう)

▶ 糞便塞栓症(便づまり)とは?

重度の便秘によって、硬く乾燥した便が直腸内に長期間とどまり、「糞詰まり」の状態になることがあります。すると、新たに腸から運ばれてきた液状または半固形の便がその周囲を通り抜けて漏れ出し、**「溢流性便失禁」**を引き起こします。

特に寝たきりの高齢者に多く見られ、加齢に伴って直腸の感覚が低下すると、便意を感じにくくなり、便が溜まりやすくなることが背景にあります。

また、直腸に便があるにもかかわらず、うまく排出できない**「便排出障害」**もこのタイプに含まれます。

全体の約半数がこのタイプとされます。

■ 切迫性便失禁

急な強い便意に襲われ、トイレまで間に合わずに漏れてしまうタイプ。
主な原因

  • 外肛門括約筋の衰え

  • 直腸の蓄便機能低下

  • 神経の伝達異常

■ 混合性便失禁

上記2つのタイプが併発するケースで、便失禁患者の約3割以上が該当。

■ その他の便失禁

  • 腹圧性便失禁:咳やくしゃみ、重い物を持ったときなどに漏れる

  • ガス失禁:ガスだけが漏れる症状


🔶 便失禁と直腸肛門機能の関係

便のコントロールは、直腸と肛門の機能が正常に働くことで成り立ちます。以下の3つが重要です。

1. 肛門括約筋

  • 内肛門括約筋(自動で締まる筋肉)

  • 外肛門括約筋(自分の意思で締められる筋肉)

どちらも緩むと便失禁のリスクが高まります。

2. 直腸の感覚機能

便が溜まったことを正確に感じ取れないと、漏れに気づかず便失禁が起こる可能性があります。

3. 骨盤底筋

膀胱・子宮・直腸を支える筋肉群で、便や尿をコントロールする役割を担います。

これらの機能は脳や脊髄、末梢神経の連携によって維持されており、神経障害があると排便機能が乱れます。


🔶 神経障害が原因の便失禁

以下のような神経系の病気や障害が、便失禁の原因になります。

原因 説明
脳卒中(脳梗塞・脳出血) 排便をコントロールする脳の機能障害
脊髄損傷 神経伝達が途絶し、便意や筋肉制御ができなくなる
糖尿病性神経障害 末梢神経の感覚鈍麻や筋制御障害
パーキンソン病/多発性硬化症 進行性に神経系を障害
仙骨神経障害 骨盤底が下垂し、肛門の制御が困難に
脊椎疾患(椎間板ヘルニアなど) 馬尾神経の圧迫による機能障害
認知症 便意の認識・排便行動が困難に
出産時の神経損傷 陰部神経の圧迫による感覚低下

🔶 便失禁の検査と診断

原因を明らかにするために、以下のような専門的な検査が行われます。

  • 直腸肛門内圧検査:肛門括約筋の圧力を測定

  • 直腸感覚検査:便意を感じる直腸の感覚を評価

  • 肛門超音波検査:筋肉の損傷を確認

  • 筋電図・神経伝導検査:神経・筋肉の状態を調査

  • 排便造影検査:排便時の動きをレントゲンで確認


🔶 便失禁の治療法|保存療法から先進医療まで

症状や原因に応じて、以下のような治療法が行われます。

■ 保存的治療(まず行われる治療)

  • 食事療法・生活習慣改善
     便を適度な硬さに保つ食物繊維・水分摂取、排便リズムの確立など

  • 薬物療法
     便を硬くする薬(止痢薬)や排便を促す薬(緩下剤)などを調整

  • 骨盤底筋トレーニング
     肛門周囲や骨盤底の筋肉を鍛える体操

  • バイオフィードバック療法
     筋肉の動きを視覚化しながら訓練する再教育法

  • 排便習慣指導
     決まった時間の排便を促し、反射を回復させる

■ 外科的治療(保存療法で改善しない場合)

  • 仙骨神経刺激療法(SNM)
     電気刺激で神経伝達を改善

  • 肛門括約筋修復術
     損傷した筋肉の再建手術

  • 人工肛門造設
     最終手段として行われる選択肢


🔶 まとめ|便失禁は治療で改善できます

便失禁は、「年齢のせい」や「しかたないこと」として放置されがちですが、適切な診断と治療で十分に改善が可能です

「急に便が漏れる」「トイレまで間に合わない」「ガスが勝手に出る」といった症状に心当たりがある方は、一人で悩まず、早めに肛門科や消化器内科の医師に相談しましょう。

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