【医師解説】便失禁とは?高齢者に多い「便漏れ」の原因と治療法をわかりやすく解説
【医師が解説】便失禁とは?高齢者に多い「便漏れ」の原因と治療法
便失禁とは、自分の意思とは無関係に便が漏れてしまう状態を指します。日常生活や衛生面に大きな影響を与えるこの症状は、日本国内で推定500万人以上が悩んでいるとされ、特に65歳以上の高齢者に多く見られます。
便失禁はデリケートな問題であるため相談しにくい傾向がありますが、適切な診断と治療で改善が期待できます。ここでは、便失禁の原因や種類、治療方法についてわかりやすく解説します。
全体の約半数がこのタイプとされます。
■ 切迫性便失禁
急な強い便意に襲われ、トイレまで間に合わずに漏れてしまうタイプ。
主な原因:
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外肛門括約筋の衰え
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直腸の蓄便機能低下
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神経の伝達異常
■ 混合性便失禁
上記2つのタイプが併発するケースで、便失禁患者の約3割以上が該当。
■ その他の便失禁
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腹圧性便失禁:咳やくしゃみ、重い物を持ったときなどに漏れる
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ガス失禁:ガスだけが漏れる症状
🔶 便失禁と直腸肛門機能の関係
便のコントロールは、直腸と肛門の機能が正常に働くことで成り立ちます。以下の3つが重要です。
1. 肛門括約筋
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内肛門括約筋(自動で締まる筋肉)
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外肛門括約筋(自分の意思で締められる筋肉)
どちらも緩むと便失禁のリスクが高まります。
2. 直腸の感覚機能
便が溜まったことを正確に感じ取れないと、漏れに気づかず便失禁が起こる可能性があります。
3. 骨盤底筋
膀胱・子宮・直腸を支える筋肉群で、便や尿をコントロールする役割を担います。
これらの機能は脳や脊髄、末梢神経の連携によって維持されており、神経障害があると排便機能が乱れます。
🔶 神経障害が原因の便失禁
以下のような神経系の病気や障害が、便失禁の原因になります。
原因 | 説明 |
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脳卒中(脳梗塞・脳出血) | 排便をコントロールする脳の機能障害 |
脊髄損傷 | 神経伝達が途絶し、便意や筋肉制御ができなくなる |
糖尿病性神経障害 | 末梢神経の感覚鈍麻や筋制御障害 |
パーキンソン病/多発性硬化症 | 進行性に神経系を障害 |
仙骨神経障害 | 骨盤底が下垂し、肛門の制御が困難に |
脊椎疾患(椎間板ヘルニアなど) | 馬尾神経の圧迫による機能障害 |
認知症 | 便意の認識・排便行動が困難に |
出産時の神経損傷 | 陰部神経の圧迫による感覚低下 |
🔶 便失禁の検査と診断
原因を明らかにするために、以下のような専門的な検査が行われます。
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直腸肛門内圧検査:肛門括約筋の圧力を測定
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直腸感覚検査:便意を感じる直腸の感覚を評価
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肛門超音波検査:筋肉の損傷を確認
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筋電図・神経伝導検査:神経・筋肉の状態を調査
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排便造影検査:排便時の動きをレントゲンで確認
🔶 便失禁の治療法|保存療法から先進医療まで
症状や原因に応じて、以下のような治療法が行われます。
■ 保存的治療(まず行われる治療)
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食事療法・生活習慣改善
便を適度な硬さに保つ食物繊維・水分摂取、排便リズムの確立など -
薬物療法
便を硬くする薬(止痢薬)や排便を促す薬(緩下剤)などを調整 -
骨盤底筋トレーニング
肛門周囲や骨盤底の筋肉を鍛える体操 -
バイオフィードバック療法
筋肉の動きを視覚化しながら訓練する再教育法 -
排便習慣指導
決まった時間の排便を促し、反射を回復させる
■ 外科的治療(保存療法で改善しない場合)
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仙骨神経刺激療法(SNM)
電気刺激で神経伝達を改善 -
肛門括約筋修復術
損傷した筋肉の再建手術 -
人工肛門造設
最終手段として行われる選択肢
🔶 まとめ|便失禁は治療で改善できます
便失禁は、「年齢のせい」や「しかたないこと」として放置されがちですが、適切な診断と治療で十分に改善が可能です。
「急に便が漏れる」「トイレまで間に合わない」「ガスが勝手に出る」といった症状に心当たりがある方は、一人で悩まず、早めに肛門科や消化器内科の医師に相談しましょう。