【医師解説】熱が下がらないとき、強い薬や坐薬に頼るべき?
【医師解説】熱が下がらないとき、強い薬や坐薬に頼るべき?
~カロナールを選ぶ理由と、解熱剤の正しい使い方~
こんにちは、きだ内科クリニックです。
風邪やインフルエンザ、新型コロナなどで発熱が続くと、「この熱、どうにかならないの?」とつらくなることもあると思います。
市販薬のロキソニンやイブに手を伸ばしたくなる方もいらっしゃるでしょう。
でも実は、発熱は体の自然な防御反応であり、どんな薬でも使っていいわけではないということをご存知でしょうか?
この記事では、発熱のメカニズムから解熱剤の安全な選び方まで、医師の視点でわかりやすく解説します。
🔶 発熱は「体が病気と戦っているサイン」
ウイルスや細菌に感染すると、体は免疫細胞を活性化させて攻撃します。
このとき「サイトカイン」という物質が脳の体温中枢を刺激し、意図的に体温を上げる命令を出すのです。
熱が上がることで…
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ウイルスや細菌の増殖を抑える
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白血球などの免疫細胞がよく働く
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回復を早める
などのメリットがあります。
つまり、熱は体の“防御反応”であって、敵ではありません。
🔶 解熱剤は「熱を下げる」ためでなく「体を楽にする」ために使う
解熱剤は、発熱そのものを止めるための薬ではありません。
本来の目的は、
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つらくて眠れない
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水分がとれない
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頭痛や関節痛が強い
といった時に、体を一時的に楽にして、休息や水分補給をしやすくすることです。
🔶 すべての熱を下げる必要はない
状況 | 解熱剤の必要性 |
---|---|
食欲があり、水分も摂れる | 不要なことが多い |
倦怠感が強く眠れない | 使用を検討 |
水分が摂れずぐったりしている | 使用をおすすめ |
無理に熱を下げることで、かえって免疫の働きを邪魔してしまう場合もあります。
🔶 解熱剤には2タイプあります
種類 | 主な薬剤 | 特徴 |
---|---|---|
NSAIDs(非ステロイド系) | ロキソニン、イブ、ボルタレン、アスピリンなど | 効果は強いが副作用も多い |
アセトアミノフェン系 | カロナール、タイレノールなど | 効果は穏やかで安全性が高い |
⚠️ NSAIDs(ロキソニン・ボルタレン・イブなど)使用時のリスクについて
解熱鎮痛剤としてよく使われる**NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)**ですが、かぜや発熱時に安易に使用すると、いくつかの健康リスクがあります。以下に、特に注意すべき点をまとめます。
❶ インフルエンザ脳症のリスク(特に小児)
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ロキソニン、ボルタレンなどのNSAIDsは、インフルエンザ脳症のリスク因子になる可能性があるとされています。
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厚生労働省は、ボルタレン(ジクロフェナク)やポンタール(メフェナム酸)をインフルエンザ時に使用することを禁忌と明記しています。
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小児だけでなく、成人でも報告例があり、注意が必要です。
❷ ライ症候群のリスク(15歳未満)
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アスピリン(サリチル酸系)を15歳未満の子どもに使用すると、ライ症候群(重篤な肝障害・脳症)を引き起こす可能性があります。
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日本では、インフルエンザや水痘などのウイルス感染時に、アスピリンを15歳未満へ使用することは原則禁止されています。
❸ 妊婦へのリスク
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NSAIDsは、妊娠初期に使用すると先天奇形のリスク、妊娠後期に使用すると胎児の動脈管が早期閉鎖するリスクが報告されています。
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妊婦さんには、原則としてアセトアミノフェン(カロナール)の使用が推奨されます。
❹ 胃腸障害のリスク
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NSAIDsは胃の粘膜を傷つけやすく、胃痛・胃炎・胃潰瘍・吐血などの消化管出血のリスクがあります。
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特に、以下の方はリスクが高くなります:
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空腹時に服用する方
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高齢者
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胃が弱い・胃潰瘍の既往がある方
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❺ 腎機能への悪影響
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NSAIDsは腎臓の血流を減らす作用があり、腎機能障害を悪化させる可能性があります。
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以下の条件に当てはまる方は特に注意が必要です:
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脱水状態の方
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高齢者
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高血圧・糖尿病・慢性腎臓病などの持病がある方
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🔶 新型コロナ感染時はどうなの?
新型コロナが流行し始めた2020年、イブプロフェンやNSAIDsの使用が重症化を招くのではという疑惑が報じられ、WHOが注意喚起したこともありました。 その後の研究で明確な因果関係は否定されていますが、
現場では引き続き「アセトアミノフェンを第一選択に」との方針が保たれています。
🔶 「飲み合わせのリスク」もあります
ロキソニン(ロキソプロフェン)やボルタレン(ジクロフェナク)などの**NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)**は、効果が強い分、他の薬との飲み合わせに注意が必要です。
特に以下のような薬をすでに服用中の方は、NSAIDsを一緒に飲むことで副作用のリスクが高まることがあります:
併用薬 | 起こりうる副作用や注意点 |
---|---|
高血圧の薬(利尿薬など) | 腎臓への負担が増え、腎機能障害のリスク |
抗凝固薬(ワーファリンなど) | 血を止めにくくなり、出血のリスク |
ステロイド薬 | 胃の粘膜が弱くなり、胃潰瘍・出血のリスク |
アスピリンなどとの重複 | 解熱剤成分が重なり、副作用の増加 |
こうした理由から、当院ではまず安全性の高い「カロナール(アセトアミノフェン)」を第一選択としています。
🔶 なぜカロナールが選ばれるのか?
カロナール(アセトアミノフェン)は、
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インフルエンザ・コロナでも使える
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妊婦・子ども・高齢者にも安心
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胃や腎臓への負担が少ない
という特徴があり、「安全性」を最優先した薬です。
症状がつらいとき、体を守りながら楽にしてくれる“ちょうどいい解熱剤”といえます。
🔶 「カロナールは効かない」は誤解?
カロナールは作用がマイルドなため、
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1℃程度しか下がらない
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効果持続は3~4時間程度
といった特徴があり、「劇的に下がらない=効かない」と誤解されがちです。
でも実際には、必要以上に体温を下げず、体にやさしく働いてくれる薬です。
🔶 坐薬は「強い薬」ではありません
「坐薬の方がよく効くのでは?」と思われがちですが、
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カロナールの坐薬も成分は内服と同じアセトアミノフェン
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効果の出方や持続時間も大きく変わりません
-
坐薬は、飲めないときや吐き気があるときに使う選択肢です
坐薬にしたから熱が劇的に下がるということは基本的にありません。
🔶 発熱時にできるセルフケア
薬に頼りすぎず、体の自然な治癒力を助けましょう。
✅ 水分補給:こまめに、経口補水液などを
✅ 安静:体は「休ませて」と言っています
✅ 体温調節:寒気があれば温め、暑ければ薄着に
✅ 冷却:首・脇・足の付け根を氷枕などで冷やす(おでこは気持ちよいが効果は少なめ)
🔶【基本の目安】発熱だけの場合の受診タイミング
症状 | 受診の目安 | 解説 |
---|---|---|
発熱のみ(他に症状なし) | 3日以内は経過観察でOKなことが多い | ウイルス性の風邪やインフルでも数日で下がることが多い |
4~5日続くようなら受診を検討 | 長引く場合は肺炎や他の疾患が隠れている可能性あり | |
7日以上続く場合は必ず受診 | ウイルス性でも通常は1週間以内に解熱することが多いため |
🔶【例外・早期受診が必要なケース】
以下のいずれかがあれば、発熱が1~2日でも早めの受診が必要です:
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息苦しさ、胸の痛み、強い咳
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意識がもうろうとしている
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水分がとれず脱水が心配
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高齢者・妊婦・乳幼児
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基礎疾患(心臓病、糖尿病など)がある
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インフルエンザやコロナの流行期で、家族内に感染者がいる
🔶 まとめ|「安全かどうか」が何より大切です
熱が出ると、「もっと効く薬を…」と思ってしまうのは自然なことです。
でも、安全性を最優先することが、最終的には最も早い回復への近道です。
きだ内科クリニックでは、患者さん一人ひとりに合った、安全で適切な解熱剤をご提案しています。
不安なことがあれば、いつでもご相談ください。
どうかお大事になさってください。