その抗生剤、必要ですか?|“効かない理由”と“使うべきタイミング”を医師が解説
【医師が解説】かぜ・インフル・コロナに抗生剤は必要?
~使うべき症状・使わない方がよい理由をわかりやすく~
こんにちは、きだ内科クリニックです。
風邪や発熱で受診されたとき、こんなご質問をよくいただきます。
「抗生物質を出してもらえますか?」
「前に飲んだら治った気がするので、今回もお願いします」
でも、実はほとんどの風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症では、抗生剤は必要ありません。
むしろ、「使わなくていいときに使ってしまう」ことのほうが、体にとってリスクになることもあるのです。
今回は、なぜそうなのか、そしてどんなときに抗生剤が本当に必要なのか、医学的根拠にもとづいて、わかりやすくご説明します。
🔶 そもそも抗生剤(抗生物質)は“細菌”にしか効きません
抗生剤は「細菌」による感染症を治療する薬です。
たとえば肺炎、膀胱炎、中耳炎、細菌性の扁桃炎などがそうです。
一方、風邪・インフルエンザ・新型コロナの原因はウイルス。
ウイルスに対して抗生剤はまったく効果がありません。
✅ 抗生剤が「効く/効かない」主な病気の一覧
病名 | 原因 | 抗生剤の効果 |
---|---|---|
かぜ | ウイルス | ❌ 効かない |
インフルエンザ | ウイルス | ❌ 効かない |
新型コロナ | ウイルス | ❌ 効かない |
扁桃炎 | 細菌/ウイルス | ⭕ 症状と所見で判断 |
肺炎 | 細菌 | ⭕ 効果あり |
膀胱炎 | 細菌 | ⭕ 効果あり |
⚠️ 抗生剤を「必要ないとき」に使うと、体に悪いこともあります
抗生剤を“予防”のつもりで飲む方もいますが、これはおすすめできません。
理由は以下のとおりです。
❶ 腸内環境が乱れて下痢・腹痛の原因に
抗生剤は悪い菌だけでなく、腸内の「善玉菌」も殺してしまいます。
これによって下痢・便秘・食欲不振・腹部不快感などが起こることがあります。
❷ 耐性菌ができてしまう
抗生剤を不必要に使うと、体内に**効かない菌(耐性菌)**が増える恐れがあります。
将来、重い感染症になったときに「効く薬がない」という事態になるリスクも。
❸ アレルギーや副作用のリスク
発疹やかゆみ、吐き気、めまいなどの副作用、まれにアナフィラキシーショックといった重篤な症状を引き起こすこともあります。
🔶 それでも「飲んだら治った気がする」のはなぜ?
「以前、抗生剤を飲んだら治った気がする」というご経験があるかもしれませんが、これは、
-
ちょうど自然に回復するタイミングだった
-
飲んだ薬は実は解熱剤や咳止めだった
-
もしくはそもそも抗生剤が必要な細菌感染だった
という可能性がほとんどです。
「なんとなく効いた気がする」ではなく、医師の診断が必要です。
🔶 では、どんなときに抗生剤が“必要”なの?
症状の種類と続いている期間から、ある程度の目安があります。
✅ 抗生剤が「原則不要」な症状と経過
症状 | 経過 | 抗生剤の必要性 |
---|---|---|
のどの痛み、鼻水、咳 | 発症~7日目まで | ❌ 不要 |
38℃前後の発熱 | 2~3日以内 | ❌ 不要 |
咳が1~2週間残る | 改善傾向あり | ❌ 不要 |
味覚・嗅覚の異常(コロナ) | 数日~数週間 | ❌ 不要 |
⚠️ 抗生剤が「必要かもしれない」症状と経過
症状 | 経過・状況 | 考えられる疾患例 |
---|---|---|
高熱が3日以上続く/いったん下がった熱が再上昇 | インフル・コロナ後の二次感染 | 細菌性肺炎、気管支炎など |
のどの腫れ+膿・飲み込めないほどの痛み | 強い扁桃炎症状 | 細菌性扁桃炎 |
咳・痰が2週間以上続く/痰が黄色・緑・血混じり | 息切れ・胸痛あり | 細菌性気管支炎・肺炎 |
鼻水が濁って顔や頭が痛い | 改善なく1週間以上 | 副鼻腔炎(蓄膿症) |
排尿時の痛み・頻尿・血尿 | 急に悪化 | 膀胱炎、尿路感染症 |
🔶 まとめ:抗生剤は「必要なときに正しく使う」薬です
抗生剤は素晴らしい薬ですが、誰にでもいつでも使える万能薬ではありません。
風邪・インフルエンザ・コロナなどウイルス感染には基本的に必要なく、
「必要な場面で、適切な量を、適切な期間だけ使う」ことが大切です。
きだ内科クリニックでは、患者さん一人ひとりの症状や経過を丁寧に見極め、不要な抗生剤は処方せず、必要なときにはしっかりご説明して処方します。
不安なことがあれば、遠慮なくご相談ください。
お大事になさってください。