内臓脂肪が危険な理由|生活習慣病との関係と効果的な減らし方を医師が解説
「体重はそれほど増えていないのに、おなかだけが出てきた」「健康診断で腹囲や中性脂肪、血糖値を指摘された」という方は少なくありません。このようなときに注意したいのが、胃や腸などの周囲に蓄積する内臓脂肪です。
内臓脂肪は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、さまざまなホルモンや炎症に関わる物質を分泌する組織です。過剰に蓄積すると、糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝など複数の生活習慣病を同時に引き起こす土台になります。ただし、内臓脂肪は皮下脂肪と比べて代謝が活発で、生活習慣の改善によって減少しやすい側面もあります。最初から大幅な減量を目指すのではなく、まず現在の体重の数%を減らすことが、健康状態を改善する現実的な第一歩です。
内臓脂肪の種類と皮下脂肪・異所性脂肪との違い
体内に蓄積する脂肪は、主に皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪に分けて考えられます。
| 脂肪の種類 | 主な蓄積部位 | 特徴 |
|---|---|---|
| 皮下脂肪 | 皮膚のすぐ下 | お尻、太もも、腹部などに蓄積しやすい |
| 内臓脂肪 | 腹腔内の腸間膜や大網など | 代謝が活発で、血糖・血圧・脂質異常と関係しやすい |
| 異所性脂肪 | 肝臓、骨格筋、膵臓、心臓周囲など | 本来、脂肪を大量に蓄える場所ではない臓器にたまる |
内臓脂肪が腹部を中心に蓄積した体型は、一般にリンゴ型肥満と呼ばれます。一方、下半身を中心に皮下脂肪が蓄積する体型は洋ナシ型肥満と表現されることがあります。皮下脂肪が多くても健康への影響がないわけではありませんが、同じBMIや体重で比較した場合、内臓脂肪や肝臓に蓄積した脂肪が多い人ほど、糖代謝や脂質代謝の異常を伴いやすいと考えられています。
内臓脂肪が生活習慣病を引き起こす仕組み
内臓脂肪が増えると、単におなかが大きくなるだけではありません。脂肪細胞の機能が変化し、全身の代謝や血管に影響を及ぼします。
アディポサイトカインの分泌バランスの乱れ
脂肪組織は、ホルモンのような働きをするアディポサイトカインまたはアディポカインと呼ばれる物質を分泌する内分泌組織です。
脂肪細胞が適切な大きさに保たれているときには、インスリンの働きや脂肪酸代謝を支えるアディポネクチンが分泌されます。しかし、脂肪細胞が過度に肥大するとアディポネクチンが低下し、炎症性物質や血栓形成に関係する物質が増加する方向へ傾きます。善玉物質が減り、悪玉物質が増えることで、糖尿病や動脈硬化が進みやすくなります。
脂肪組織における慢性的な炎症
内臓脂肪が増えて脂肪細胞が肥大すると、脂肪組織の中にマクロファージなどの免疫細胞が集まります。その結果、炎症性サイトカインが持続的に作られ、脂肪組織に慢性低度炎症が起こります。
これは高熱や強い痛みを伴う急性炎症ではなく、症状に気づかない程度の小さな火事が長期間続いているような状態です。この炎症が肝臓や筋肉でのインスリンの働きを妨げ、血糖値を下がりにくくします。肥満に伴うインスリン抵抗性は、少なくとも一部が脂肪組織から始まる慢性炎症によって生じることが示されています。
遊離脂肪酸による肝臓や筋肉への影響
内臓脂肪は脂肪の合成と分解が活発です。内臓脂肪が過剰になると、血液中に放出される遊離脂肪酸が増え、肝臓や骨格筋でのインスリンの情報伝達を妨げます。
肝臓でインスリンが効きにくくなると、本来は抑えられるはずの糖新生が十分に抑制されず、空腹時血糖値が上昇します。また、筋肉でインスリンが効きにくくなると、食後のブドウ糖を筋肉に取り込みにくくなり、食後高血糖が起こりやすくなります。内臓脂肪は重要な危険因子ですが、肝臓脂肪や筋肉量、生活習慣などを含めて総合的に評価することが必要です。
内臓脂肪とメタボリックシンドロームの診断基準
内臓脂肪の蓄積を基盤として、高血圧、高血糖、脂質異常が重なった状態がメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)です。
日本の診断基準では、まず、へその高さで測定した腹囲が次の値に該当することが必須です。
- 男性:85cm以上
- 女性:90cm以上
これに加えて、次の3項目のうち2項目以上に該当すると、メタボリックシンドロームと診断されます。
| 項目 | 診断基準 |
|---|---|
| 脂質 | 中性脂肪150mg/dL以上、かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満 |
| 血圧 | 収縮期血圧130mmHg以上、かつ/または拡張期血圧85mmHg以上 |
| 血糖 | 空腹時血糖110mg/dL以上 |
腹囲の基準は、腹部CTで測定した内臓脂肪面積100cm²以上に相当する目安として設定されています。反対に、腹囲が基準未満であれば生活習慣病にならないという意味ではありません。腹囲はあくまでもスクリーニングの一つであり、血圧、血糖、脂質、肝機能などと組み合わせて判断します。
肥満・肥満症・メタボリックシンドロームの違い
これらの言葉は混同されやすいものの、医学的には意味が異なります。
| 肥満 | 日本国内ではBMIが25以上の状態を指します。 |
|---|---|
| 肥満症 | BMIが25以上で、肥満に関連する健康障害がある、または医学的な減量治療が必要な状態です。 |
| メタボ | 内臓脂肪の蓄積に血圧・血糖・脂質の異常が重なった状態です。 |
BMIは「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計算されます。BMIが25未満でも、腹囲と検査値が診断基準を満たせばメタボリックシンドロームに該当するため、体重やBMIだけで判断することはできません。
内臓脂肪の蓄積から起こる11の健康障害
日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン2022」では、肥満症の診断に関係する健康障害として、次の11項目が示されています。
| 分野 | 主な健康障害 |
|---|---|
| 糖代謝 | 耐糖能障害、2型糖尿病 |
| 脂質・血圧・尿酸 | 脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風 |
| 心臓・脳血管 | 冠動脈疾患、脳梗塞、一過性脳虚血発作 |
| 肝臓・腎臓 | 脂肪性肝疾患、肥満関連腎臓病 |
| 女性の健康 | 月経異常、女性不妊 |
| 呼吸・睡眠 | 閉塞性睡眠時無呼吸症候群、肥満低換気症候群 |
| 運動器 | 変形性膝関節症・股関節症・手指関節症、変形性脊椎症など |
2型糖尿病
内臓脂肪によってインスリン抵抗性が進むと、膵臓は血糖値を下げるために多くのインスリンを分泌しなければなりません。やがて膵臓の分泌能力で補えなくなると、空腹時血糖やHbA1cが上昇します。
脂質異常症
内臓脂肪型肥満では、特に中性脂肪が高く、HDLコレステロールが低い状態になりやすくなります。小型で酸化されやすいLDLが増えるなど、動脈硬化を起こしやすい脂質パターンになる場合があります。
高血圧
肥満に伴う交感神経の活性化、腎臓でのナトリウム貯留、インスリン抵抗性、睡眠時無呼吸症候群などが重なることで、血圧が上昇しやすくなります。
脂肪性肝疾患
肝臓に脂肪が過剰に蓄積すると、脂肪性肝疾患を発症します。現在は代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)、炎症を伴う状態を代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)と呼びます。
脂肪肝の多くは無症状ですが、一部では炎症と線維化が進行し、肝硬変や肝がんにつながる可能性があります。ASTやALTが正常でも脂肪肝が存在することがあるため注意が必要です。
心筋梗塞・脳梗塞
個々の検査値の異常が軽くても、複数の危険因子が集まることで動脈硬化が進みやすくなり、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞の危険性が高まります。
睡眠時無呼吸症候群
内臓脂肪によって横隔膜が押し上げられることで、睡眠中の呼吸が妨げられることがあります。強いいびきや日中の眠気がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の検査が必要です。
肥満関連腎臓病
体が大きくなると、腎臓は多くの血液をろ過するために過剰に働くようになります。これが長期間続くと、慢性腎臓病へ進行する場合があります。
大腸がんや乳がんとの関係
肥満は、大腸がん、閉経後乳がん、子宮体がん、肝がん、膵がん、腎がんなど、複数の悪性腫瘍と関連することが知られています。国際がん研究機関は、肥満を少なくとも13種類のがんの原因として認めています。インスリン抵抗性や慢性炎症、性ホルモンなど、複数の要因が複雑に関係しています。
第3の脂肪「異所性脂肪」の正体
皮下脂肪や内臓脂肪で余剰エネルギーを処理できなくなると、脂肪が肝臓や骨格筋など、本来は蓄積しない臓器にたまります。これが異所性脂肪です。肝臓に脂肪が蓄積するとインスリン抵抗性が強まり、空腹時血糖や中性脂肪が上昇しやすくなります。内臓脂肪を評価するときは、体重や腹囲だけでなく、脂肪肝や肝機能なども確認することが重要です。
BMIが正常でも内臓脂肪が多い隠れ肥満
日本人を含む東アジア人は、欧米人と比較して低いBMIでも生活習慣病を発症しやすい傾向があります。BMIが25未満でも、内臓脂肪面積100cm²以上が確認される場合は、生活改善が必要になることがあります。特に、次のような人は体重だけで安心せず、腹囲と検査値を確認しましょう。
- 手足は細いがおなかだけが出てきた
- 若い頃より腹囲が大きくなった
- 運動習慣がなく、筋肉量が少ない
- 健診で脂肪肝や中性脂肪高値を指摘された
- 家族に糖尿病や心筋梗塞が多い
内臓脂肪を効果的に減らす7つのステップ
-
現在の体重の3%減量を目指す
内臓脂肪を減らすために、最初から標準体重を目指す必要はありません。まず現在の体重から3%以上の減量を目標とします。3%程度の減量でも、血糖や血圧、肝機能などが改善する可能性があります。 -
食事習慣の改善
糖質や脂質を完全に排除するのではなく、過剰摂取につながりやすい習慣を見直します。甘い飲料を無糖へ替える、大盛りを控える、野菜や食物繊維を確保するといった工夫が有効です。 -
アルコールの見直し
アルコールは食欲を増進させ、中性脂肪の上昇を招きます。脂肪肝や高血圧がある場合は、飲酒量と回数を記録し、休肝日を設けることが重要です。 -
運動の組み合わせ
有酸素運動でエネルギーを消費し、筋力トレーニングで筋肉量の低下を防ぎます。1日8,000歩程度を目安にし、階段の利用など実行できることから始めます。 -
睡眠の確保
睡眠不足は食欲を乱す原因となります。成人は6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保することが勧められています。 -
体重・腹囲・行動の記録
減量を長く続けるためには、自分の傾向を把握することが大切です。1日の増減で一喜一憂せず、1~2週間の傾向で評価します。 -
サプリメントの補助的利用
サプリメントはあくまで補助であり、特定の成分だけで内臓脂肪を改善できるわけではありません。持病がある方は、必ず医師や薬剤師に相談してください。
医療機関での専門的な治療
一定期間の生活改善でも不十分な場合は、薬物療法が検討されることがあります。現在、肥満症に対して使用される薬剤には厳格な適応条件があり、美容や痩身目的で使用するものではありません。高度肥満症の場合は、外科的な手術が検討されることもあります。
医療機関に相談したい目安
次のような場合は、生活習慣病と肥満症の評価を受けることをお勧めします。
- BMIが25以上である
- 腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上である
- 健診で血糖、血圧、肝機能などを指摘された
- 脂肪肝や高尿酸血症がある
- 強いいびきや睡眠中の無呼吸がある
- 食事や運動に取り組んでも体重が減らない
内臓脂肪に関するよくある質問
腹筋運動でおなかの脂肪を減らせますか?
腹筋運動だけでおなかの脂肪だけを選択的に燃焼させることはできません。全身を使う有酸素運動と食事の調整を組み合わせることが不可欠です。
BMIが25未満なら安心ですか?
体重が正常範囲でも内臓脂肪が多い人はいます。体重だけでなく、腹囲と健診結果を確認してください。
どのくらいの期間で効果が出ますか?
個人差はありますが、まず数か月単位で取り組みます。体重だけでなく、血圧や中性脂肪などの数値が改善しているかを確認しましょう。
まとめ
内臓脂肪の過剰蓄積は、糖尿病や心筋梗塞などにつながる重要な危険因子です。一方で、生活習慣の見直しによって減らしやすい脂肪でもあります。目標は短期間での激痩せではなく、内臓脂肪を減らして健康障害を改善することです。
山形県米沢市の「きだ内科クリニック」では、生活習慣病の状態を総合的に評価しています。脂肪肝やメタボリックシンドロームが心配な方は、放置せず早めにご相談ください。
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
