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原因不明の脇腹痛・みぞおち痛は滑脱肋骨症候群かも|第12肋骨症候群との違いも解説【山形県米沢市 きだ内科クリニック】

[2026.03.11]

脇腹やみぞおち、下胸部の痛みが続いているにもかかわらず、レントゲンCTMRIでは「異常なし」と言われた経験はありませんか。そのようなケースで見逃されやすい疾患のひとつが、滑脱肋骨症候群(SRS:Slipping Rib Syndrome)第12肋骨症候群(TRS:Twelfth Rib Syndrome)です。

 

これらは、下部胸郭の異常な可動性によって起こる慢性疼痛疾患です。鋭い刺すような痛みや鈍い持続痛を生じ、体をひねる、深呼吸をする、立ち上がるなどの日常動作で悪化しやすく、患者さんの生活の質(QOL)を大きく低下させます。

 

一方で、一般的な画像検査では異常が確認しにくいため、長いあいだ原因不明の腹痛や背部痛として扱われることも少なくありません。この記事では、滑脱肋骨症候群と第12肋骨症候群について、病態、症状、診断、治療を医学的にわかりやすく解説します。

 

 

 

滑脱肋骨症候群(SRS)と第12肋骨症候群(TRS)の違い

 

滑脱肋骨症候群と第12肋骨症候群はいずれも「肋骨の異常な動き」が関与する疾患ですが、痛みが生じる部位や発症機序に違いがあります。

 

滑脱肋骨症候群(SRS)は、主に第8〜10肋骨に関係します。これらの肋骨は胸骨に直接つながらず、上位の肋軟骨や靭帯を介して連結されています。そのため、靭帯のゆるみや損傷が起こると、肋軟骨が不安定になり、上位肋骨の下にもぐり込むように動いて肋間神経を刺激し、痛みを引き起こします。

 

一方、第12肋骨症候群(TRS)は、前方でどこにも結合していない第12肋骨の過剰な動きによって起こります。第12肋骨は浮遊肋と呼ばれ、可動性が高い構造です。この肋骨が通常以上に動くことで、第12肋間神経(下肋神経)や周囲の軟部組織が刺激され、側腹部や腰背部の痛みにつながります。

 

なぜ起こるのか?肋骨の解剖学と病態生理

 

胸郭は、呼吸を助けるだけでなく、内臓を保護し、体幹を安定させる役割を担っています。この安定性は、肋骨・肋軟骨・靭帯・筋肉が連動することで保たれています。肋骨は解剖学的に大きく3つに分けられます。

 

真肋(第1〜7肋骨) 肋軟骨を介して胸骨に直接つながっており、比較的安定しています。
仮肋(第8〜10肋骨) 胸骨に直接はつながらず、上位の肋軟骨や靭帯を介して肋骨弓を形成します。滑脱肋骨症候群(SRS)の主な発生部位です。
浮遊肋(第11〜12肋骨) 前方の固定を持たず筋肉内に終わるため、もともと可動性が高い構造です。第12肋骨症候群(TRS)に関与します。

 

滑脱肋骨症候群では、支持組織が外傷、加齢、先天的な弛緩などで弱くなり、肋骨の先端が異常に動きやすくなります。その結果、肋軟骨がずれたり、亜脱臼のような状態を起こしたりして、神経痛が生じます。第12肋骨症候群でも同様に、過剰な可動性による機械的刺激が慢性痛の原因となります。

 

滑脱肋骨症候群(SRS)の主な症状と特徴

 

滑脱肋骨症候群では、下部胸壁や上腹部に痛みが出やすいのが特徴です。痛みは鋭い刺痛として突然起こることもあれば、鈍く持続する不快感として続くこともあります。

 

症状は、体幹の捻転、前屈、深呼吸、咳などで悪化しやすく、日常生活や運動時に強く意識されます。また、患者さんによっては、肋骨がずれて元に戻る際に「クリック音」や「ポッピング感」を自覚します。これはSRSを示唆する特徴的な訴えのひとつです。

 

発症はスポーツ活動と関連することもあり、特に水泳、ゴルフ、体幹の回旋動作が多い競技でみられることがあります。また、関節過可動性を背景に持つ人では、支持組織の不安定性から生じやすいと考えられています。

 

第12肋骨症候群(TRS)の主な症状と鑑別疾患

 

第12肋骨症候群では、痛みの中心が側腹部(フランク部)や腰下部にあることが多く、肋間神経の走行に沿って下腹部や鼠径部へ放散することがあります。

 

このため、腎結石や腎盂腎炎などの泌尿器科疾患、あるいは虫垂炎などの腹部疾患と誤認されやすい点が大きな特徴です。痛みは、体を横に曲げる動作、椅子から立ち上がる動作、長時間の歩行などで増悪しやすく、姿勢や運動との関連がはっきりしていることがあります。

 

検査で内臓の異常が見つからないにもかかわらず、脇腹から腰にかけての痛みが続く場合には、第12肋骨症候群も鑑別に入れる必要があります。

 

画像検査で見逃されやすい理由と動的評価の重要性

 

滑脱肋骨症候群や第12肋骨症候群が見逃されやすい最大の理由は、通常のX線、CT、MRIでは異常な可動性が評価しにくいことです。

 

一般的な画像検査は、患者さんが仰向けで安静にしている状態で撮影されます。しかし、これらの疾患では、痛みの原因は「静止した形の異常」ではなく、動いたときに起こる肋骨のずれや神経刺激です。安静時には肋骨が一時的に正常な位置に戻り、画像上では問題が見えなくなることがあります。

 

その結果、検査では異常なしと判断されても、実際には胸郭の動的な不安定性が存在している場合があります。

 

正確な診断のための身体診察と専門的評価

 

これらの疾患の診断では、画像だけに頼るのではなく、身体診察と動的評価が重要になります。

  • 点圧痛の評価:罹患している肋骨の先端や肋骨弓に一致して強い圧痛があるかを確認します。
  • フッキング・マニューバー:医師が肋骨弓の下に指をかけ、前上方へ引き上げることで、痛みやクリック感を再現する診察法です。
  • 動的超音波検査:腹筋を使う動作をしながら、リアルタイムで肋骨の滑り込みや異常な接触を観察します。
  • 診断的神経ブロック:原因と思われる肋間神経に局所麻酔薬を注入し、痛みが著しく改善するかを確認します。

 

滑脱肋骨症候群・第12肋骨症候群の治療ステップ

 

治療は、症状の強さや生活への支障の程度に応じて、保存的治療から段階的に進めるのが基本です。

 

  1. ステップ1:保存的治療と生活指導
    体幹のひねりや過度な前屈を避ける動作の調整、冷却・温熱療法、NSAIDsによる薬物療法を行います。あわせて理学療法で体幹の安定性を高めます。
  2. ステップ2:介入的疼痛管理
    保存療法で改善しない場合、超音波ガイド下の肋間神経ブロックや、組織の癒着を解消するハイドロリリースを検討します。
  3. ステップ3:外科的治療(手術)
    難治例では、原因となる不安定な肋軟骨を切除する肋軟骨切除術や、胸郭の安定性を回復させる肋骨弓再建術(Hansen法)が検討されます。

 

どのような人がこの疾患を疑うべきか

 

次のような特徴がある場合には、滑脱肋骨症候群や第12肋骨症候群を疑う価値があります。単なる筋肉痛や内臓痛だけでなく、胸壁由来の慢性疼痛として評価することが大切です。

  • 下部胸部、上腹部、脇腹、腰背部にかけての痛みが長く続いている。
  • 体をひねる、深呼吸する、立ち上がるといった動作で痛みが悪化する。
  • 動作時にクリック感や引っかかる感覚がある。
  • 消化器や泌尿器の検査を受けたが、明らかな異常が見つからない。

 

まとめ

滑脱肋骨症候群(SRS)第12肋骨症候群(TRS)は、下部肋骨の異常な可動性によって起こる、見逃されやすい慢性疼痛疾患です。通常の画像検査では見つけにくいため、丁寧な身体診察や動的超音波が診断の鍵になります。

原因不明の脇腹痛や上腹部痛、クリック感を伴う胸壁痛が続く場合には、これらの疾患の可能性を考慮し、適切な専門知識を持つ医療機関を受診することが、早期改善への第一歩となります。

 

よくある質問(FAQ)

 

Q1. 滑脱肋骨症候群はレントゲンでわかりますか?

必ずしもわかりません。滑脱肋骨症候群は動いたときの異常が本質であるため、安静時に撮影する一般的なレントゲンやCTでは異常が見えないことが多々あります。

 

Q2. 第12肋骨症候群は内臓の病気とどう違うのですか?

第12肋骨症候群は、腎結石や虫垂炎などと似た部位に痛みが生じますが、姿勢や体幹運動で痛みが変化しやすいこと、特定の部位に圧痛や誘発所見があることが大きな違いです。

 

Q3. クリック感がある脇腹の痛みは滑脱肋骨症候群の可能性がありますか?

可能性は十分にあります。特に下部肋骨周囲の痛みとともに、動作時のクリック感や引っかかり感がある場合は、SRSを疑う重要な手がかりになります。

 

Q4. 治療は手術が必要ですか?

すべての患者さんに手術が必要なわけではありません。まずは活動調整や理学療法などの保存的治療が行われ、それでも生活に支障がある難治例において外科的治療が検討されます。

 

Q5. 原因不明の脇腹痛が続く場合、何を伝えて受診すればよいですか?

「体をひねると痛む」「クリック感がある」「画像検査で異常がないと言われた」など、痛みの誘因と特徴を具体的に伝えると、的確な診断につながりやすくなります。

 

執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)

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