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大腸鋸歯状病変の理解と対応|SSA/Pの診断・治療・予後まで

[2025.05.03]

大腸鋸歯状病変(serrated lesions of the colorectum)は、近年、従来のadenoma-carcinoma sequenceに加わる新たな大腸癌発生経路として注目されている前癌病変群であり、特に右側結腸に発生する大腸癌の重要な起源として位置づけられています。近年の分子病理学的解析により、これらの病変がserrated pathway、すなわちserrated-neoplasia sequence(SNP)を経由して大腸癌に進展することが明らかとなり、大腸癌全体の約20〜30%を占めると推定されています。

鋸歯状病変は、形態学的および分子遺伝学的背景に基づき、以下の3つに分類されます:

  1. 過形成性ポリープ(Hyperplastic polyp:HP)

  2. 古典的鋸歯状腺腫(Traditional serrated adenoma:TSA)

  3. Sessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)

これらは組織学的に移行型を呈する場合もあり、診断には病理医の熟練が求められます。


過形成性ポリープ(HP)

HPは主に左側結腸および直腸に多発し、臨床的には最も頻度の高い鋸歯状病変です。大部分は5mm未満の小病変で、発癌ポテンシャルは極めて低いとされ、通常は経過観察が選択されます。

組織学的には以下のサブタイプに分類されます:

  • MVHP(microvesicular HP):粘液微小胞を有し、BRAF変異陽性が多く、SSA/Pへの前駆病変と考えられます。

  • GCHP(goblet-cell rich HP):豊富な杯細胞を有し、主にKRAS変異を伴います。

  • MPHP(mucin-poor HP):稀少型で臨床的重要性は限定的です。

6mm以上のHPでは、SSA/Pとの鑑別が重要であり、切除を検討する必要があります。


古典的鋸歯状腺腫(TSA)

TSAは腺腫性異型性を有する鋸歯状構造を特徴とし、主に左側結腸に好発します。好酸性細胞質と異所性陰窩(ectopic crypt formation)が組織学的所見として典型的です。

TSAはすべて異形成を伴い、特に高度異形成を有するものでは腺癌への進展が危惧されます。腺腫類似の発育パターンを持つため、内視鏡下での確実な切除および病理学的評価が不可欠です。

分子病理学的にはBRAFまたはKRAS変異を伴うことがあり、CIMPとの関連も指摘されています。


SSA/P(Sessile Serrated Adenoma/Polyp)

SSA/Pは右側結腸に好発し、平坦で粘膜同色、表面に粘液を伴うことが多いため、内視鏡的に発見困難な病変です。

組織学的診断には以下の特徴所見が必要とされます:

  • 陰窩の基底部拡張(dilated crypts)

  • 陰窩の不規則分岐(irregular branching)

  • 基底部での水平走行(L字・T字型)

これら3項目中2項目以上が病変の10%以上に存在することがSSA/Pの診断要件となります。

SSA/Pは高率にBRAF変異(約80%以上)を有し、CIMP-high、MLH1プロモーター領域のメチル化に伴うMSI-H型大腸癌への進展が知られています。

一方で、p53変異やMSS型への進展例もあり、後者では予後不良とされます。SSA/Pはサイズを問わず癌化の可能性があるため、特に5mm以上、異形成合併例、あるいは10mm以上の病変では内視鏡的完全切除が推奨されます。


SSA/P由来癌の病理学的特徴

SSA/Pに由来する大腸癌は以下の所見を有することが多い:

  • 鋸歯状構造の保持(特に早期癌部)

  • 粘液癌、低異型度癌の混在

  • MUC5AC, MUC6などの胃型粘液形質の保持

  • MSI-H型に分類される腫瘍が多く、免疫療法の対象となる可能性も

粘膜内癌部では鋸歯状構造・低異型度癌が顕著ですが、SM浸潤部に至ると脱分化、粘液癌への移行が認められ、腫瘍の進展とともに形質変化が起こることが示唆されています。


鋸歯状ポリポーシス症候群(Serrated Polyposis Syndrome:SPS)

SPSは多発性の鋸歯状病変を特徴とする症候群で、2010年WHO分類に診断基準が記載されています。SPS患者では大腸癌の発症リスクが極めて高く(25〜54%)、他臓器癌との合併率も高い(約28%)とされます。

定期的な大腸内視鏡検査(少なくとも年1回)が推奨され、家族歴のある第一度近親者にも検査を勧めるべきです。


診断と治療戦略

  • 高解像度拡大内視鏡やNBI、色素内視鏡による病変の可視化が有用。

  • SSA/Pはbrownish areaを示さないが、小樹枝状血管(varicose microvascular pattern)が示唆所見となる。

  • 病変のサイズ、形態、異形成の有無を考慮して切除適応を判断。

  • EMRおよびESDは病変の大きさや位置に応じて選択される。

  • 切除後は病理学的に悪性度、浸潤の有無、切除断端の状態を評価し、再発リスクに応じた surveillance を行う。


結論

大腸鋸歯状病変は、serrated pathwayを経て進展する大腸癌の起点となる重要な前癌病変群であり、特にSSA/Pは高リスク病変として注視すべきである。正確な診断には病理学的識別能力と内視鏡診断技術の向上が不可欠であり、包括的なサーベイランス戦略と適切な治療介入を通じて、鋸歯状病変由来大腸癌の予防に寄与することが期待される。

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