糖尿病のシックデイ対応|発熱・下痢・嘔吐・食欲不振の時に薬はどうする?
糖尿病治療中におけるシックデイ(体調不良時)の基本知識
糖尿病で治療中の方が、風邪、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、胃腸炎などにかかり、発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などの症状によっていつも通りに食事がとれない状態を「シックデイ」といいます。
シックデイの期間中は、食事をしていなくても血糖値が高くなるケースがある一方で、食事量が少ない中で薬をいつも通り使用すると、低血糖を引き起こすリスクもあります。つまり、血糖値の変動が激しくなりやすい危険な状態です。日本糖尿病学会でも、感染症などに伴う諸症状で血糖値が著しく乱れやすくなった状態をシックデイと定義し、注意を促しています。
シックデイになった際にとるべき4つの初期対応
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安静と保温
無理に外出や運動をすることは避け、体を温かくして十分に休息をとってください。 -
こまめな水分補給
脱水を防ぐため、医師からの制限がない限り1日1.0〜1.5Lを目安に水分をとりましょう。一度に飲めない場合は、5〜10分おきに一口ずつ摂取してください。 -
糖質の摂取(絶食禁止)
食欲がなくても、糖質を含む消化のよいものを少しずつ摂取してください。可能であれば1日100g以上の炭水化物をとることが推奨されます。 -
血糖値の頻繁な測定
自己血糖測定(SMBG)やCGMを利用している方は、3〜4時間ごとを目安に血糖値を確認し、体温や食事量とともに記録を残してください。
摂取しやすい食品と飲料の例
| 分類 | 具体的な食品・飲料 |
|---|---|
| 主食 | お粥、うどん、そうめん、雑炊 |
| 飲み物・汁物 | 味噌汁、スープ、果汁、経口補水液 |
| 軽食 | ゼリー、プリン、アイスクリーム |
記録しておくべき項目
| 記録項目 | 内容の目安 |
|---|---|
| 体温 | 測定時の体温(℃) |
| 血糖値 | 測定時刻と数値(mg/dL) |
| 食事量 | 普段の食事を10割とした場合の摂取比率 |
| 水分量 | 1日の総摂取量 |
| 尿量・回数 | 尿が極端に少なくなっていないか |
| 体重 | 急激な減少がないか(脱水の指標) |
| ケトン体 | 尿ケトン・血中ケトンの測定結果(可能な方のみ) |
薬の種類別・服用および使用の中断ルール
糖尿病の薬は、その種類によってシックデイ時の対応が大きく異なります。すべての薬を自己判断で中止しないことが最も重要です。特にインスリンを中止すると、著しい高血糖やケトアシドーシスを招く恐れがあります。
原則として休薬が必要な薬剤
以下の薬剤は、発熱や下痢、嘔吐がある場合、食事量に関わらずいったん中止するのが基本です。
| 薬の種類 | 代表的な薬剤名 | シックデイ時の対応 | 理由 |
|---|---|---|---|
| ビグアナイド薬 | メトグルコなど | 中止 | 脱水時や腎機能低下時に乳酸アシドーシスを起こす危険があるためです。 |
| SGLT2阻害薬 | フォシーガ、ジャディアンス、スーグラ等 | 必ず中止 | 脱水の悪化や、血糖値が高くない状態での正常血糖ケトアシドーシスを防ぐためです。 |
| α-グルコシダーゼ阻害薬 | ベイスン、セイブル、グルコバイ等 | 中止 | 下痢や腹痛などの消化器症状を悪化させる可能性があるためです。 |
| イメグリミン | ツイミーグなど | 中止が望ましい | 腎機能低下時に血中濃度が上昇する懸念があり、慎重な対応が求められます。 |
| GLP-1受容体作動薬 | マンジャロ、オゼンピック等 | 症状がある時は中止 | 吐き気や下痢を悪化させ、急性腎障害を伴う脱水につながる恐れがあります。 |
食事量に合わせて調整が必要な薬剤
以下の薬は、食事が摂れない時に通常通り服用すると低血糖を起こす危険があります。
| 薬の種類 | 代表的な薬剤名 | 食事量ごとの対応目安 |
|---|---|---|
| SU薬 | アマリール、グリミクロン等 | 半分なら減量、ほとんど食べられないなら中止を検討します。 |
| グリニド薬 | グルファスト、シュアポスト等 | 食事を摂らない場合は原則として服用しません。 |
状況により休薬を検討する薬剤
| 薬の種類 | 代表的な薬剤名 | 対応方針 |
|---|---|---|
| DPP-4阻害薬 | ジャぬビア、トラゼンタ、エクア等 | 単独では低血糖を起こしにくいですが、嘔吐・下痢がひどい時は休薬を検討します。 |
| チアゾリジン薬 | アクトスなど | シックデイの間は中止可能です。主治医の指示を仰いでください。 |
インスリン・マンジャロを使用中の方への特別ルール
インスリン治療を継続されている方
持効型や中間型などの基礎インスリンは、食事の有無に関わらず自己判断での中止は絶対に行わないでください。体内のインスリンが枯渇すると、命に関わるケトアシドーシスを引き起こす危険があります。食事用のインスリン(超速効型・速効型)については、摂取量や血糖値に応じて調整が必要なため、事前に受けた指示に従うか医療機関へ連絡してください。
マンジャロ(週1回注射薬)を使用中の方
マンジャロを投与する日に、吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振がある場合は、その回の注射をスキップしてください。無理に注射をすると、激しい胃腸障害から重篤な脱水に陥るリスクがあります。また、2回分を一度にまとめて打つことは絶対に避けてください。
低血糖症状の確認と緊急時の対応方法
体調不良時は血糖値が下がりすぎることもあります。以下の症状に注意してください。
- 冷や汗、手のふるえ
- 強い空腹感、動悸
- ふらつき、ぼーっとする
- 意識がもうろうとする
血糖値が70mg/dL未満、あるいは上記症状がある場合は、すぐにブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料(150〜200mL)を摂取してください。なお、α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の方は、砂糖(ショ糖)では吸収が遅れるため、必ずブドウ糖を使用してください。
速やかに医療機関へ連絡・受診すべき症状の目安
以下の「危険サイン」が一つでもある場合は、我慢せずにすぐにかかりつけ医へ連絡、または夜間・休日であれば救急外来を受診してください。
| 危険サイン | 具体的な状況 |
|---|---|
| 消化器症状 | 嘔吐・下痢が止まらない、水を飲んでも吐いてしまう |
| 持続する高熱 | 38℃以上の熱が下がらない |
| 食事不能 | 24時間、全く食べられない状態が続いている |
| 顕著な高血糖 | 血糖値350mg/dL以上が続いている |
| 意識の変化 | 意識がはっきりしない、反応が鈍い、会話がおかしい |
| ケトアシドーシスの疑い | 強いだるさ、腹痛、息苦しさ、息が荒い |
| 重度の脱水 | 尿が極端に少ない、急激な体重減少、ひどい口渇 |
体調回復後の再開目安と日頃の備え
体調が改善してきた際の薬の再開は、慎重に行う必要があります。「少し良くなった」程度の自己判断で再開せず、以下の条件を満たしているか確認してください。
- 発熱、嘔吐、下痢が完全に治まっている
- 普段通りに食事と水分が摂取できている
- 尿量や体重が元に戻っている
- 血糖値が安定している
特に、メトホルミンやSGLT2阻害薬、マンジャロなどを再開する際は、事前に主治医や薬剤師へ確認することをお勧めします。
緊急時に備えた「シックデイ・セット」の準備
急な体調不良に備え、日頃から以下のものを一箇所にまとめておきましょう。
- お薬手帳、かかりつけ医・夜間休日の連絡先メモ
- 体温計、血糖測定器一式(チップの期限も確認)
- ブドウ糖、経口補水液、ゼリー飲料などの消化によい食品
- 尿ケトンまたは血中ケトン測定用品(指示がある場合)
私のシックデイルール(備忘録)
かかりつけ医療機関:
電話番号:
夜間・休日の連絡先:
シックデイの時に休薬する薬
□ メトホルミン(メトグルコなど)
□ SGLT2阻害薬:薬剤名( )
□ α-グルコシダーゼ阻害薬:薬剤名( )
□ イメグリミン(ツイミーグ)
□ マンジャロ
□ その他( )
インスリン・食事調整の指示
| 基礎インスリン名 | ( ) シックデイ時の量: |
|---|---|
| 食事用インスリン名 | ( ) 半分時: 食べられない時: |
| 補正インスリン | 指示内容: |
受診を判断する基準値
血糖値: mg/dL以上
尿ケトン:
最後に大切なこと
シックデイでは、「食べていないから血糖は上がらない」とは限りません。また、「食べていないから全部の薬を止めればよい」わけでもありません。少しでも対応に迷った時は、決して自己判断せず、早めにかかりつけ医へ相談してください。
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
