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若年者の下痢・腹痛は便中カルプロテクチンで見分ける|IBDとIBSの鑑別|きだ内科クリニック(山形県米沢市)

[2026.01.18]

若年者の下痢・腹痛に役立つ「便中カルプロテクチン(FC)検査」|IBSとIBDを見分けるポイントと注意点

 

 

下痢や腹痛が続くと、「過敏性腸症候群(IBS)」のような“機能性疾患”なのか、それとも「潰瘍性大腸炎(UC)」「クローン病(CD)」などの“炎症性腸疾患(IBD)”なのかを早めに見分けることが大切です。特に小児・思春期・若年成人では、学校生活や部活動、受験、仕事に影響しやすく、検査の負担もできるだけ抑えたいところです。

 

そこで注目されているのが、便を使って腸の炎症の有無を推定できる 便中カルプロテクチン(Fecal Calprotectin:FC)検査です。内視鏡(大腸カメラ)ほどの侵襲がなく、「内視鏡が必要な可能性が高い人」を絞り込む用途や、IBDの状態をモニタリングする用途で活用されます。

 

※本記事は一般的な医療情報です。症状の強さや背景疾患によって判断が変わるため、最終的な検査・治療方針は医師と相談してください。

 

便中カルプロテクチン(FC)とは?(何を測っている検査?)

 

カルプロテクチンは、主に**好中球(白血球の一種)**に多く含まれるタンパク質です。腸の粘膜に炎症が起きて好中球が集まると、カルプロテクチンが腸管内へ放出され、便の中で増えます。つまりFCは、ざっくり言えば **「腸の炎症(好中球性炎症)の濃さ」**を反映するマーカーです。

 

FC検査が広く使われる理由は次の通りです。

  • 非侵襲的:採便だけででき、採血や内視鏡より身体的負担が小さい

  • 腸の炎症に比較的フォーカス:血液の炎症反応(CRPなど)より「腸由来」の情報に近い

  • 検体として比較的扱いやすい:カルプロテクチンは便中で分解されにくく、検査の実用性を支える性質があります

 

若年者の下痢・腹痛で「IBSとIBDの鑑別」が重要な理由

 

若年者の慢性下痢・腹痛では、原因が大きく2系統に分かれます。

 

機能性疾患(代表:IBS)

  • 腸に明らかな炎症や潰瘍が見つからない

  • ストレス・自律神経・腸の過敏性などが関与

  • つらい一方で、内視鏡で強い炎症が出るタイプとは限らない

 

器質的疾患(代表:IBD)

  • 腸に炎症(びらん・潰瘍など)が起きる

  • 放置すると栄養状態や成長、貧血、生活の質に影響

  • 治療は薬物療法(5-ASA、ステロイド、免疫調整薬、生物学的製剤など)や栄養療法など、早期介入が重要

 

症状だけで完全に見分けるのは難しいため、「内視鏡に進むべき人」を判断する材料としてFCが役立ちます。

 

FC検査が得意なこと:内視鏡の前に“炎症の可能性”をふるい分ける

 

FCは、特に **「IBDなどの炎症性(器質的)疾患が疑わしいかどうか」**を考える時に意味があります。

たとえば成人(16〜50歳)を含む臨床データでは、**FCが低い(例:50 μg/g未満)場合、状況が適切なら“IBDの可能性がかなり低い”**ことを示唆し、不要な侵襲的検査を減らす考え方が紹介されています。

 

ただし重要なのは、「FCが低い=絶対にIBDではない」ではないことです。症状や危険サイン(後述)がある場合は、FCの数値にかかわらず内視鏡など精密検査が必要になることがあります。

 

数値の見方:基準値・グレーゾーンをどう考える?

 

FCは施設・測定キット・年齢で解釈が変わり得ます。ここでは、臨床でよく使われる「考え方」を整理します。

まず押さえる単位:μg/g と mg/kg は同じ

  • 1 μg/g = 1 mg/kg
    表記が違っても数値は同等として扱われることが多いです。

 

“目安”として使われるゾーン分け(例)

英国のプライマリケア向けの運用例では、概ね次のようなトリアージが示されています。

  • <100 μg/g:IBDの可能性は低め(症状が軽ければIBSなどを含めて経過観察・治療検討)

  • 100〜250 μg/g:中間(グレーゾーン)(一定期間で再検、症状次第で消化器専門へ)

  • >250 μg/g:IBDを含む炎症性疾患をより疑う(専門評価を検討)

この「グレーゾーン」が現実にはいちばん悩ましく、**再検(リピート)**や、感染・薬剤などの影響を外して読み解く、という流れがよく取られます。また同資料では、NSAIDs(痛み止め:ロキソプロフェンなど)でFCが偽高値になり得る点にも触れられています。

 

小児・若年者は「基準値の考え方」に注意

小児では、健常でもFCが高めになり得ることがあり、成人と同じ感覚で機械的に判断しないことが大切です(年齢層別の参照範囲や臨床状況が重要)。

 

FCが高い=IBD確定ではない(偽陽性の代表例)

 

FCは「腸の炎症」を拾いやすい一方で、炎症の原因がIBDとは限りません。代表的には次のような要因で上がることがあります。

  • 感染性胃腸炎(細菌・ウイルスなど)

  • 薬剤(NSAIDsなど)

  • 肛門病変や出血を伴う状態(状況により解釈がぶれる)

  • そのほか、腸に炎症が起きる病態全般

 

だからこそFCは、単独で白黒をつける検査というより、「内視鏡や画像検査に進むべきか」を判断する材料、または治療中の炎症モニタリングとしての価値が高い検査です。

 

IBD診断後にこそ真価を発揮:モニタリングと再燃予測

 

FCは「IBDかどうかの入口」だけでなく、IBDと診断された後の管理にもよく使われます。

 

1) 症状が落ち着いていても“腸の炎症”が残っていることがある

症状(腹痛・下痢)が軽くても、粘膜の炎症が残っている場合があります。FCを繰り返し測ることで、寛解の確認や、再燃を疑うサインとして役立つ可能性が示されています。

 

2) 「粘膜治癒」やより深い治癒の推定に使われることがある

小児クローン病の前向き研究(ImageKids)では、FCが **粘膜治癒の推定(例:300 μg/g未満)**や、より厳しい **deep healing(例:100 μg/g)**の指標として検討されています(あくまで研究・運用上のカットオフで、個々の患者で最適値は変わり得ます)。

 

検査の流れと採便のコツ(失敗しにくくするポイント)

 

FC検査は基本的に「自宅で採便 → 医療機関へ提出」という流れです。

  • 指定容器に便を採取

  • 施設の指示に従って提出(保存条件や期限が決まっていることがあります)

  • 乳幼児でオムツ採便が必要な場合、便がオムツにしみ込むと影響が出る可能性があるため、ラップを敷いて採便するなどの工夫が案内されることがあります

「水様便で取りにくい」「採便がストレス」という若年者も多いので、遠慮なく医療機関に採り方を相談してOKです。

 

保険適用となる必須条件(※すべて満たす必要があります)

 

厚生労働省の規定により、以下の条件をすべて満たした場合に限り
内視鏡検査前のスクリーニング検査として保険診療で算定可能とされています。

 

① 症状が3か月以上持続していること

  • 下痢、腹痛、体重減少などの消化器症状が
    一過性ではなく、3か月以上続いていること

② 感染性腸炎が否定されていること

  • 細菌性・ウイルス性などの腸管感染症ではないと判断されていること
    (必要に応じて便培養などで確認)

③ 肉眼的な血便がないこと

  • 目で見て明らかな血便が認められないこと

 

理由:
明らかな血便がある場合は、便中カルプロテクチン検査を行うまでもなく、
速やかに大腸内視鏡検査を行うべき状態と判断されるためです。

 

検査の目的と実施タイミング

 

● 検査の目的

症状が非常によく似ている

  • 過敏性腸症候群(IBS)などの機能性疾患

  • 潰瘍性大腸炎・クローン病などの器質的疾患(IBD)

見分けるために行います。

● 実施タイミング

  • 大腸内視鏡検査を行う前の補助検査として実施します。

検査結果の考え方

  • 50 mg/kg(=50 μg/g)を超える場合
     → 腸管炎症が疑われ、内視鏡検査へ進む判断材料となります

  • 基準値以下の場合
     → IBDの可能性が低く、身体的負担の大きい内視鏡検査を回避できる可能性があります
    (※症状や経過によっては例外あり)

 

重要な注意点:内視鏡検査との同月併算定はできません

 

便中カルプロテクチン検査と大腸内視鏡検査を
同じ月に両方実施した場合

  • 原則として 点数の高い「大腸内視鏡検査のみ」が算定対象となり

  • 便中カルプロテクチン検査の費用は算定できない(または内視鏡検査に含まれる)

というルールがあります。

 

つまり、保険で検査を受けられるのはこんな場合です

 

  • 3か月以上、下痢や腹痛が続いている

  • 感染症ではない

  • 血便はない

  • しかし
    「潰瘍性大腸炎やクローン病が隠れていないか心配」
    「いきなり大腸カメラをするべきか迷う」

このような状況で、医師が
「内視鏡をする前に、一度炎症の有無を確認しましょう」
と判断した場合、
👉 便中カルプロテクチン検査は保険診療で受けることが可能です。

 

受診の目安:FC検査の前に、まず相談してほしい症状

 

次のような症状がある場合は、IBSだけで説明しにくいこともあるため、早めに消化器内科(可能なら消化器専門)へ相談をおすすめします。

  • 血便(赤い便・黒い便)

  • 発熱、強い倦怠感

  • 体重減少、食欲低下

  • 夜間にも目が覚める下痢

  • 貧血を疑う症状(息切れ、動悸、顔色不良)

  • 小児での体重増加不良・成長障害

  • 肛門の痛み・腫れ・膿(クローン病でみられることがあります)

  • 脱水(口渇、尿が少ない、ぐったり)

 

よくある質問(FAQ)

 

FC検査だけでIBDは確定できますか?

確定はできません。FCは「腸に炎症がありそうか」を推定する検査で、確定には内視鏡・生検、画像、血液検査などを組み合わせます。

 

FCが低ければ内視鏡は不要ですか?

危険サインがなく、医師が総合的に判断して「炎症性疾患が疑いにくい」となれば、内視鏡を急がずに経過を見ることはあります。ただし症状の質(血便、体重減少など)次第で、FCが低くても内視鏡が必要なことがあります。

 

グレーゾーンと言われたらどうする?

感染、薬剤(NSAIDsなど)、採便条件の影響を確認しつつ、一定期間で再検したり、専門医へ紹介したりという流れが一般的です。

 

まとめ:若年者の下痢でFC検査が役立つ“場面”を押さえよう

  • 便中カルプロテクチン(FC)は、腸の炎症(好中球性炎症)を反映しやすい便検査

  • 若年者の慢性下痢・腹痛で、IBS(機能性)とIBD(炎症性)を見分ける補助として有用

  • 数値は年齢・測定法・状況で解釈が変わるため、カットオフだけで決めない

  • IBD診断後は、寛解確認・再燃の手がかり・治療目標(粘膜治癒など)の推定としても重要

 

「下痢が長引く」「腹痛が繰り返す」「学校や仕事に支障がある」場合は、我慢せず早めに受診し、必要に応じてFC検査も含めた評価を相談してみてください。

 

執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)

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