胆嚢摘出後に注意したい「大腸がんリスク」と「胆嚢摘出後症候群」|医師が解説する原因・症状・対策まとめ
【医師が詳しく解説】胆嚢摘出後に注意したい「大腸がんリスク」と「胆嚢摘出後症候群」とは?
胆石症や胆嚢炎の治療として広く行われている胆嚢摘出術(胆嚢摘出手術)ですが、術後に特有の体調変化や不調を訴える方が少なくありません。特に注目されているのが、「大腸がんの発症リスクの増加」および「胆嚢摘出後症候群」と呼ばれる腹部症状の存在です。
本記事では、胆嚢摘出後に見られる代表的な症状や疾患リスクについて、最新の研究結果と医学的見地からわかりやすく解説します。
胆嚢摘出で大腸がんリスクが高まる?その科学的根拠とは
胆嚢がなくなると、胆汁を一時的に貯蔵できなくなり、食事の有無にかかわらず胆汁酸が断続的に腸内へ流入するようになります。この変化が腸内環境を乱し、発がん性のある「二次胆汁酸(DCA・LCAなど)」の生成を増加させ、大腸粘膜を刺激すると考えられています。
ある研究では、胆嚢摘出歴がある人は、一般の人よりも大腸がんの罹患リスクが約2倍高かったという報告もあります。特に右側結腸(盲腸・上行結腸など)でのがん発生が多い傾向がある一方で、直腸にがんが多く見られたという国内の報告もあり、部位に関しては一定の見解は得られていません。
胆汁酸と腸内環境の変化がカギ
胆嚢摘出により胆汁の流れが持続的になると、腸内細菌と胆汁酸の接触機会が増加し、発がん性のある二次胆汁酸が過剰に産生されやすくなることが分かっています。加えて、脂肪の吸収が不完全になることで消化不良が起きやすく、腸内での有害代謝産物の蓄積が進行する可能性もあります。
このような腸内環境の変化はゆっくりと進行し、数年をかけてリスクが蓄積されることから、早期からの生活改善と定期的な内視鏡検査が重要です。
胆嚢摘出後症候群とは?術後に現れるさまざまな不調
胆嚢摘出後症候群とは、手術後に現れる上腹部痛・下痢・消化不良・吐き気・違和感などの症状を総称する医学用語です。発症頻度は報告によって異なりますが、およそ5~40%の患者様に何らかの症状が現れるとされています。
代表的な原因としては以下が挙げられます:
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Oddi括約筋(胆汁の出口)の機能異常
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胆管結石の遺残や微小結石
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胆道損傷や術後癒着
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十二指腸への胆汁流入過剰による下痢
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胆道運動障害や胃食道逆流の悪化
これらは症状の持続や生活への影響度に応じて、血液検査、画像検査、内視鏡検査、ERCP(内視鏡的胆道造影)などの精密検査が必要です。
胆嚢摘出後の健康管理|大腸がん予防と日常生活のポイント
術後も健康を維持するためには、大腸がんの早期発見・予防と、腸内環境の最適化が大切です。
✅ 大腸カメラによる定期的な検査
胆嚢摘出後の患者様には、定期的な大腸内視鏡検査をおすすめします。ポリープの早期発見・切除や、大腸がんの早期診断により、がんの発症リスクを大きく減らすことができます。
✅ 食生活と腸内環境の見直し
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食物繊維を多く含む食品(野菜・果物・豆類・きのこ類)を積極的に摂る
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発酵食品やプロバイオティクスで善玉菌を増やす
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脂質の摂取を控えめにして胆汁分泌の負担を軽減
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水分を十分に摂取し便秘を防ぐ
✅ 運動と体重管理
適度な運動は腸のぜん動運動を促進し、排便リズムの改善と発がん物質の排出を助けます。肥満傾向のある方は、適正体重を維持することでがんリスクも軽減されます。
【まとめ】胆嚢摘出後は「気をつけるべき点」と「早めの対策」が健康の鍵
胆嚢摘出術は非常に安全性の高い手術ですが、術後の胆汁酸の変化や腸内環境の乱れにより、大腸がんや消化器症状のリスクがわずかに増加する可能性があります。
定期的な大腸内視鏡検査、腸内環境を整える食生活、運動習慣の継続が、胆嚢摘出後も健康を維持するための重要なポイントです。
「術後の下痢が続く」「お腹の張りが取れない」「便通が不安定」など、気になる症状がある場合は、我慢せずに消化器内科専門医にご相談ください。