高血圧ガイドライン2025(JSH2025)で何が変わった?目標130/80・家庭血圧・減塩+カリウムを医師が解説
高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)の変更点:目標130/80(家庭125/75)へ
※本記事は一般的な医療情報の解説です。診断や治療の最終判断は、必ず主治医(かかりつけ医)と相談してください。
JSH2025とは
2025年8月29日、日本高血圧学会から6年ぶりの改訂となる「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」が発行されました。 今回の特徴は、単に最新エビデンスを並べるだけでなく、国民・患者・医療者が“血圧を下げる行動”につながる内容を重視した点です。
高血圧は自覚症状が乏しいまま、脳卒中・心筋梗塞・腎障害などのリスクを高めます。だからこそJSH2025は、「病院で下げる」だけでなく「日常で整える」ことを強く打ち出しています。
診断基準と目標血圧の整理
JSH2025で特に重要なのは、“診断の基準”と“下げる目標”は別物という点です。
| 何の数値? | 診察室(病院) | 家庭(自宅) | ポイント |
|---|---|---|---|
| 高血圧の診断基準 | 140/90以上 | 135/85以上 | 基本的に据え置き |
| 降圧目標(基本) | 130/80未満 | 125/75未満 | JSH2025の中心メッセージ |
| 降圧目標(慎重に個別化が必要な例) | 140/90未満 | 135/85未満 | 75歳以上の一部状況などで提示(後述) |
変更点1:目標血圧は「原則 130/80(家庭125/75)」へ一本化
JSH2025では、降圧目標が「患者背景によらず、原則として 130/80未満(家庭125/75未満)」に整理されました。
ただし重要なのは、“数字を機械的に押し込む”のではなく、安全性(副作用や体調)を見ながら個別に判断すること。 ガイドラインの解説では、降圧を進める際に めまい・立ちくらみ・症候性低血圧、急性腎障害、高カリウム血症などの有害事象に注意しながら進める、と明確に述べられています。
変更点2:「家庭血圧」が治療方針の中心に
白衣高血圧・仮面高血圧を見逃さない
病院では緊張で高く出る白衣高血圧、逆に病院は正常でも家で高い仮面高血圧があるため、JSHは家庭血圧測定を強く推奨しています。
特にJSHの資料では、家庭血圧135/85以上は脳卒中や心筋梗塞リスクを2~3倍高めうると注意喚起されています。
正しい家庭血圧の測り方
JSHが推奨する測定条件は次の通りです。
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血圧計:手首式より、上腕式(腕に巻くタイプ)
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朝:起床後1時間以内/排尿後/朝食前・服薬前/座って1〜2分安静
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夜:就寝前/座って1〜2分安静(入浴・飲酒直後は避けるとより正確)
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回数:原則 1機会2回測定し平均(すべて記録)
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頻度:週5日以上の記録を受診時に提示
変更点3:朝の血圧がカギ:モーニングサージ対策=「血圧朝活」
心血管イベントは朝に起こりやすく、モーニングサージ(起床前後の血圧上昇)がリスクと関係する可能性が指摘されています。
だからこそ、JSH推奨の条件で「朝の家庭血圧」を測り、平均で傾向を見ることが重要です。
変更点4:生活習慣の新しい見方「減塩+カリウム」
減塩は“基本中の基本”:目標は食塩6g/日未満
JSHの患者向け資料でも、高血圧の生活習慣改善として食塩摂取量 6g/日未満が具体的目標として示されています。
すぐに完璧を目指すより、「確実に減る工夫」が効果的です。例えば、
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めん類の汁は残す(全部残せば2〜3g減塩になることも)
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調味料は「かける」より「つける」
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香辛料・香味野菜・柑橘の酸味を活用して“薄味でも満足”へ
新トピック:尿ナトカリ比(尿中ナトリウム/カリウム比)
日本高血圧学会のワーキンググループは、食塩(ナトリウム)を減らすだけでなく、カリウム摂取との“バランス”を見る指標として、尿ナトカリ比の活用を提唱しています。
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まず目指す(実現可能目標):4未満
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理想(至適目標):2未満
※随時尿で評価する場合は、週4日以上、異なる時間帯の尿を測って平均することが強く推奨されています。
カリウムを増やすときの注意
野菜・果物・海藻・豆類などはカリウム摂取に役立ちますが、腎障害がある方は医師に相談が必要と明記されています。 (腎機能低下があると高カリウム血症のリスクが上がるため、自己判断の“増やしすぎ”は危険になりえます。)
運動は「有酸素+筋トレ」へ:続けやすい形でOK
高血圧の生活習慣改善として、JSHの資料では毎日30分以上または週180分以上の運動が示されています。
加えて、国の「身体活動・運動ガイド2023」では、筋トレは週2〜3日が推奨されています。 「いきなりジム」ではなく、まずは
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速歩・ウォーキング
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階段を使う
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スクワットやかかと上げ(自重)
など、続く最小単位から始めるのが勝ち筋です。
薬との付き合い方:JSH2025は「開始もステップアップも早め」が基本
生活習慣の改善は大前提ですが、JSH2025の解説では治療開始を先延ばししないことがより明確になりました。
1カ月以内に再評価 → 必要なら薬物療法へ
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高リスクの高値血圧(130–139/80–89)や
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低・中等リスクの高血圧(140/90以上)では、生活習慣指導後に「1カ月以内に再評価」し、十分に下がらなければ生活習慣を強化しつつ薬物療法を開始する流れが示されています。
「1剤でだめなら早めに併用」も明確化
薬物治療は、単剤→2剤→3剤と、目標未達なら“できるだけ早期にステップアップ”する方針が示されています。
※薬の種類・量の調整は個別性が極めて大きいので、自己判断での変更は避けてください。
治療アプリ(デジタル技術)がガイドラインに登場
JSH2025では、生活習慣改善の章に「デジタル技術の活用」が盛り込まれ、治療支援の選択肢として言及されています。
実際に、医師が処方して使う高血圧治療補助アプリは医療機器として承認されており(例:承認番号のあるプログラム医療機器)、保険適用も行われています。
高齢者・フレイルの方は「安全第一」で個別化が前提
JSH2025の基本目標は低めに整理されましたが、同時に
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めまい、立ちくらみ、失神
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起立性低血圧
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腎機能悪化
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電解質異常(高カリウム血症など)
といった有害事象に注意し、個別に判断することが強調されています。
さらに、75歳以上の一部の状況(例:脳血管障害で両側頸動脈狭窄・脳主幹動脈閉塞がある/未評価、CKDで蛋白尿陰性など)では、140/90(家庭135/85)といった目標も示されています。 つまり、「数字だけ追って転倒や腎障害を増やさない」ことが大前提です。
今日からできる「7日間の血圧管理」チェックリスト
Day1:上腕式血圧計を準備(説明書どおりに)
Day2:朝:起床→排尿→座位安静→朝食/服薬前に測定
Day3:夜:就寝前に測定(入浴直後は避ける)
Day4:1機会2回測って平均、全記録
Day5:汁を残す/調味料を“つける”に変更
Day6:歩く時間を合計30分つくる(分割OK)
Day7:1週間の平均を見て、受診時に提示(必要なら相談)
よくある質問(FAQ)
Q1. 家庭血圧は毎日測るべき?
理想は「朝・夜」を継続し、少なくとも週5日以上の記録を主治医に見せることが推奨されています。
Q2. 1回高かっただけで危険ですか?
血圧は日内変動があります。1回の上下ではなく、同条件で測った“平均の傾向”で判断するのが基本です。
Q3. 手首式はだめ?
JSHは上腕血圧計を推奨しています。手首式は不正確になりやすい点が注意されています。
Q4. 減塩の目標は?
高血圧の方は食塩6g/日未満が目標です。
Q5. カリウムは増やせば増やすほど良い?
腎機能低下がある場合などは注意が必要で、野菜・果物の摂取も医師に相談が必要とされています。
参考文献・一次情報
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日本高血圧学会:高血圧管理・治療ガイドライン2025(発行情報/作成方針)
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ガイドライン改訂ポイント(医学誌解説)
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家庭血圧測定(日本高血圧学会資料)
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尿ナトカリ比コンセンサス(日本高血圧学会プレスリリース)
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モーニングサージとイベント(システマティックレビュー/メタ解析)
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身体活動・運動ガイド2023(厚労省)
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プログラム医療機器(高血圧治療補助アプリ添付文書)
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
