【医師監修】のぼせ・ほてり(ホットフラッシュ)の原因・検査・治療|更年期だけじゃない注意点も解説
のぼせ・ほてり(ホットフラッシュ)とは?原因・検査・治療法をわかりやすく解説
「のぼせ・ほてり」は医学的に**ホットフラッシュ(Hot Flash)**と呼ばれる、更年期障害の代表的症状で、血管運動神経症状に分類されます。突然、顔や上半身がカーッと熱くなる・強い発汗やほてりを伴うのが特徴で、急激かつ発作的に起こり、1日に何度も繰り返すことがあります。表れ方はさまざまで、
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顔や上半身だけに熱感・発汗が出る
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熱感のみ、あるいは発汗のみ
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上半身は熱いのに手足は冷える**「冷えのぼせ」**
といったパターンも見られます。
1. のぼせ・ほてりの主な原因
のぼせ・ほてりの中心原因は、ホルモンバランスの急変による自律神経の乱れです。ただし、更年期以外の疾患でも起こるため、自己判断せず原因を見極めることが大切です。
A. 更年期障害(女性)
閉経前後10年(およそ45〜55歳)のエストロゲン低下・欠落が主因です。
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エストロゲンと自律神経の関係
女性ホルモンと自律神経は、ともに脳の視床下部で調整されています。エストロゲン分泌が不安定になると自律神経のバランスが崩れ、血管の収縮・拡張調節が不安定化。このためホットフラッシュ、動悸、息切れなどの血管運動神経症状が起きやすくなります。 -
生活要因
エストロゲン低下に加えて、ストレス・過労・睡眠不足・冷え・運動不足など、自律神経を乱しやすい生活習慣は発症の引き金になります。
B. 特殊な病態(乳がん内分泌療法)
タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬などの内分泌療法(ホルモン療法)では、50%以上の頻度でホットフラッシュが副作用としてみられます。女性ホルモンの抑制による更年期様症状です。
C. 他の疾患(除外診断が重要)
のぼせ・ほてりを更年期と決めつけず、重大な病気が隠れていないか確認しましょう。
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甲状腺機能亢進症(バセドウ病など):のぼせ・多汗のほか、動悸・イライラ・頻脈・体重減少など。
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高血圧:ホットフラッシュに加え動悸・息切れ・頭重など。閉経後はエストロゲン低下で血圧が上がりやすくなります。
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その他:心臓病、糖尿病、悪性腫瘍・感染症による発熱、うつ病など精神疾患でも類似症状が出ることがあります。
D. 男性更年期障害(LOH症候群)
男性にも起こる更年期障害で、**加齢性腺機能低下症(LOH症候群)**と呼ばれます。テストステロン低下が根本原因で、ストレスや不規則な生活が低下を加速し、ほてり・発汗など身体症状につながります。
2. 検査(評価)
日常生活に支障をきたすほど症状が強い場合や、年齢・経過から更年期が疑われる場合は受診を推奨します。女性は一般に婦人科からの評価が標準的です。
A. 受診前の準備
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症状記録:出現タイミング、持続時間、発汗の程度、誘因(温度・食事・ストレスなど)
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基礎疾患・服薬歴:高血圧や糖尿病、現在の薬、既往歴を整理
B. 医療機関で行う主な検査
更年期障害は除外診断が基本。以下で他疾患を除外し、ホルモン状態を把握します。
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問診:症状の程度、月経状況、既往症・服薬歴など
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血液検査(鑑別と状態把握に必須)
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女性ホルモン:エストロゲン(E2)などを確認(※個人差が大きく補助診断)
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甲状腺機能:FT4・TSHで甲状腺疾患を鑑別
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生化学:肝機能・血糖・脂質など
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バセドウ病鑑別:必要に応じTSH受容体抗体(TRAb)
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画像検査・がん検診:HRT(ホルモン補充療法)開始前後は、子宮頸がん・子宮体がん・乳がんの定期検診を推奨。子宮・卵巣の超音波で構造も確認。
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更年期ドック:40〜50代で気になる方に、女性ホルモン・骨密度・甲状腺など全身評価の検査パッケージが有用。
3. 治療法
治療はホルモン補充療法(HRT)、非ホルモン薬物療法、漢方療法、**セルフケア(生活改善)**を組み合わせ、症状・リスク・希望に合わせて最適化します。
A. ホルモン補充療法(HRT)
エストロゲン低下が原因のホットフラッシュには第一選択となることが多く、最も効果的な治療の一つです。
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効果:ホットフラッシュや発汗などの血管運動神経症状に高い有効性。多くは数日〜2週間で改善を自覚。のぼせ・ほてり・発汗・抑うつ・不眠では漢方より効果が高い傾向。
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薬剤と投与:エストロゲン製剤(内服・貼付・ジェル)。
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子宮あり:黄体ホルモン(プロゲステロン)併用が必要(子宮体がん予防)。周期的投与(消退出血あり)か持続的投与(出血抑制)を選択。
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経皮剤の利点:肝負担・血栓リスクが相対的に低い。
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HRT禁忌:乳がん・子宮体がん(現在/既往)、血栓症既往、心筋梗塞/脳卒中既往、重度の活動性肝疾患、妊娠の可能性など。喫煙・肥満・コントロール不良の糖尿病/高血圧は慎重投与。
B. 薬物療法(非ホルモン / 漢方)
1) 非ホルモン薬(HRT不可・乳がん治療中など)
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SSRI/SNRI:ベンラファキシン(未承認/保険外)、セルトラリン(保険外)、パロキセチン(保険外)などで軽減報告。※離脱症状や、タモキシフェン×パロキセチンの相互作用に注意。
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その他:ガバペンチン(保険外)、クロニジン(未承認)に軽減効果の報告あり。
2) 漢方療法(体質や随伴症状に合わせて)
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加味逍遙散:イライラ・冷え・肩こりを伴う更年期に。
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桂枝茯苓丸:のぼせや便秘傾向、**瘀血(うっ血)**体質に。
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黄連解毒湯:実証で顔のほてり・イライラ・赤ら顔に。過剰な「熱」「炎症」を冷ます。
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効果の位置づけ:血管運動神経症状にはHRTが優位だが、倦怠感や冷えの改善は漢方が得意な場合も。
C. 男性更年期障害(LOH症候群)の治療
テストステロン著明低下かつ症状強い場合は、テストステロン筋注(保険)を検討。併せて生活習慣の是正、漢方・抗うつ薬などを患者背景に応じて選択。
D. セルフケア(生活習慣の改善)
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食事・栄養:十分なたんぱく質、ビタミン・ミネラルを確保。大豆イソフラボン(大豆・納豆など)、カルシウム/ビタミンDも意識。カフェイン・辛味・アルコール・喫煙は増悪要因になり得るため控えめに。
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運動:ウォーキング等の有酸素運動で体温調節と自律神経を整える。
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対症ケア:発作時は**腹式呼吸(深呼吸)**で副交感神経を優位に。首筋・後頭部を保冷して皮膚反射でほてりを鎮める。
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その他:湯船でリラックス、アロマ(ミント/ラベンダー)、十分な睡眠、ストレスマネジメント。
E. 代替療法
鍼治療で改善報告はあるものの、有用性は確定的ではないとする見解もあります。海外では催眠療法や認知行動療法の有用性が示唆されています。
まとめ
のぼせ・ほてり(ホットフラッシュ)は、更年期の典型症状ですが、甲状腺疾患や薬の影響、男性更年期でも起こります。除外診断を行い、HRT・非ホルモン薬・漢方・生活改善を組み合わせて、あなたに合った治療を選びましょう。症状が強い・長引く場合は、早めの受診がおすすめです。