胃がねじれる病気「胃軸捻転症(いじくねんてんしょう)」とは?|症状・原因・検査・治療までわかりやすく解説
胃軸捻転症について、信頼できる情報に基づいてわかりやすく解説します
■ 胃軸捻転症とは
胃軸捻転症(いじくねんてんしょう)とは、胃の全体または一部が生理的な範囲を超えて病的にねじれてしまう状態です。このねじれによって、胃内容の通過が妨げられ、胃が拡張する病態を指します。胃が180度以上回旋した状態、あるいは飲食物の流れを妨げる角度までねじれた場合に診断されます。日常診療では比較的まれな疾患とされています。
この疾患は、1866年にBertiが剖検例を、1897年にBergが初の手術例を報告しています。現在では、Singletonの分類が臨床現場でよく用いられています。
■ 発生頻度
胃軸捻転症は小児では約3.4%、成人では0.17%程度の頻度で胃X線検査(バリウム検査)で発見されると報告されています。成人ではまれとされていますが、一過性の捻転が見逃されている可能性もあり、正確な頻度は不明です。
■ 分類
胃軸捻転症は以下のように複数の視点から分類されます。
① 原因による分類(成因)
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特発性
原因疾患を特定できないもの。胃を支える間膜の欠如・延長や、過食、呑気症、薬剤による腸蠕動低下、腹圧の上昇などが関与します。高齢者の過食や胃下垂、結腸ガスも要因とされています。 -
続発性
他の疾患に続発するもの。横隔膜ヘルニア、弛緩症、食道裂孔ヘルニアが多く、ほかにも腫瘍、癒着、遊走脾、胃自体の疾患などが原因になります。
※成人例では、**特発性:約30%、続発性:約70%**とされています。
② 捻転の軸による分類
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長軸型(臓器軸性)
噴門と幽門を結ぶ線を軸にした捻転。 -
短軸型(腸間膜軸性)
胃の大弯と小弯を結ぶ線を軸とした捻転。 -
複合型もあり、日本では長軸型がやや多いとされています。
③ 捻転の方向
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前方型と後方型に分類され、前方型が大多数を占めます。
④ 発症のタイミング
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急性型:症状が強く、緊急対応が必要なことが多い。
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慢性型:無症状~軽症で経過し、検査で偶然発見されることもあります。
⑤ 捻転の程度
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完全型と部分型に分けられます。
■ 主な症状
症状は捻転の程度や分類により異なります。
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一般症状:嘔吐、上腹部(心窩部)の膨満感・痛み
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急性型では、以下のBorchardtの三徴が有名です:
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心窩部痛および膨隆
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初期嘔吐後に内容物のない激しい嘔吐
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胃管挿入困難または不能
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※ただし、症例によっては胃管が挿入できることもあり、三徴を満たさない場合もあります。
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慢性型では軽症で経過しやすく、無症状で偶然発見されることも。
重症化すると、胃粘膜の虚血・壊死、穿孔、出血などの合併症を引き起こす危険性があります。
■ 診断・検査
胃軸捻転症の診断には以下の画像検査が有用です。
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腹部単純X線
胃の著明なガス像、二重鏡面像、横隔膜ヘルニアに伴う胸腔内ガス像が見られることもあります。 -
腹部CT検査
捻転の診断に最も有用とされ、胃の拡張、走行異常を視認できます。造影CTでは血流障害や門脈内ガスも確認できます。 -
上部消化管造影(バリウム検査)
捻転の形態や通過障害の程度を把握可能です。 -
腹部エコー
診断補助として有用。 -
上部内視鏡(胃カメラ)
胃の変形や粘膜異常の評価に加え、内視鏡による整復が試みられることもあります。
■ 治療法
治療は保存的治療と外科的治療に分かれます。
保存的治療
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胃管による減圧:胃の内圧を下げることで自然整復を促します。特に短軸型では挿入が容易で効果的。
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内視鏡的整復:捻転方向とは逆に内視鏡を回旋させて整復を試みる方法があります。
外科的治療
以下の場合には手術が必要です。
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保存的治療が無効
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再発を繰り返す
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虚血・穿孔・出血などの合併症を伴う
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初期から重篤な所見(門脈内ガスなど)を伴う
胃固定術(捻転予防)や、原因病変の修復、場合によっては胃切除(壊死・穿孔)も検討されます。
腹腔鏡手術による胃固定術は、低侵襲かつ再発予防に有効であり、近年増加傾向にあります。
また、経皮的胃瘻固定術も高齢者や全身状態の悪い方には選択肢になりますが、再発例も報告されており、注意が必要です。
■ 高齢者の注意点
高齢者では、症状が非典型であったり、全身状態が不良であることが多く、保存的治療が選ばれやすい傾向があります。
しかし、手術の遅れは致命的になりうるため、タイミングの見極めが極めて重要です。
■ 予後
胃軸捻転症の死亡率は**15〜30%**とされ、予後不良の疾患です。
早期診断と迅速な治療方針の決定が重要です。保存的治療後でも、2年以内に約30%が再発するという報告もあり、特に続発性では原因疾患の治療も併行して行う必要があります。
■ まとめ
腹部膨満感や嘔吐などの消化器症状がある際には、胃軸捻転症も鑑別の一つとして考慮することが重要です。
まれな疾患ではありますが、放置すると重篤化する可能性があるため、早期の診断と対応が求められます。