【雪国の冬】雪かき(除雪)で倒れる前に:ヒートショックの原因と安全対策チェックリスト
雪国の早朝除雪は危険?ヒートショックと心筋梗塞・脳卒中リスクが高まる理由
雪国での早朝の雪かき(除雪作業)は、①寒冷刺激(冷たい外気) ②激しい運動負荷 ③朝の血圧変動(交感神経が上がる時間帯)が同時に重なるため、ヒートショック(寒暖差や寒冷刺激に伴う血圧の急変)や心血管イベントのリスクが高まります。
ヒートショックや寒冷ストレスによる血圧の乱高下は、重症化すると失神だけでなく、心筋梗塞・狭心症発作、脳梗塞、脳出血などの引き金になり得ます。特に屋外作業では、倒れた際に発見が遅れやすい点もリスクです。
雪かき(除雪作業)の身体的負荷とヒートショックリスク
雪かきはどのくらいきつい?運動強度は「6METs以上」のことも
雪かきは、一般に6METs以上の“強い運動(vigorous)”に分類されることがあり、ジョギングなどに近い負荷になる場合があります。普段あまり運動していない方が、突然この強度の作業を寒い屋外で行うと、心臓と血管に大きなストレスがかかります。
早朝の除雪が危険になりやすい4つの理由
冬の朝は気温が最も低く、体は熱を逃がさないように血管が収縮しやすい状態です。そこへ雪かきの運動負荷が加わることで、心臓・脳血管への負担が一気に増えます。
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寒冷刺激で血管が収縮し、血圧が上がりやすい
暖かい室内から寒い屋外へ出るだけで、血管収縮→血圧上昇が起こりやすくなります。 -
重い雪を持つ“力み”で血圧がさらに上がる
雪を持ち上げるときに息を止める(いわゆるバルサルバ様動作)と、心拍数・血圧が急上昇しやすいと指摘されています。 -
朝は心血管イベントが起こりやすい時間帯
心筋梗塞や脳卒中は、日内変動として朝(おおむね6時〜正午)に多いことが知られています。「早朝の除雪(特に6〜10時ごろ)」が危険とされる背景には、この生体リズムも関係します。 -
脱水・血液濃縮が起こりやすい
寒いと喉の渇きを感じにくい一方、作業で汗をかけば水分は失われます。脱水気味になると血液が濃くなり、血栓関連のリスクが高まる可能性があります。
早朝の雪かきで倒れやすい人(ヒートショック高リスク)
次の方は、除雪による心血管イベントのリスクが上がりやすいため、早朝の単独作業は避ける/家族に代替を相談する/除雪サービスも検討するなど、慎重な対応が望まれます。
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65歳以上の高齢者
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高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満
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狭心症・心筋梗塞、脳梗塞・脳出血などの既往
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普段運動習慣が少ない
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胸痛・息切れが出やすい/最近体調が悪い
雪かき時のヒートショック予防:安全に行うためのポイント
時間帯と環境を整える(最優先)
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早朝の極寒は避け、可能なら日中(気温が上がってから)に
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屋外に出る前に、室内で軽い準備運動・ストレッチをして体を温める
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服装は重ね着(レイヤリング)で調整
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汗冷えを防ぐため、肌着は吸湿速乾素材がおすすめ
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厚着しすぎて汗だく→冷える、を避ける
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体調チェックと水分補給(寒い日ほど重要)
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体調不良(発熱・咳・強い疲労・寝不足)の日は中止
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作業前後、作業中も可能ならこまめに水分補給
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冷えが気になる場合は、常温〜温かい飲み物でもOK
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飲酒後の除雪はしない(判断力低下+血圧変動が重なる)
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食事は「完全に空腹」も避けつつ、満腹直後の作業は控える(体調を見て時間をあける)
作業方法と安全管理(“頑張り過ぎない”が正解)
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雪は少量ずつ、こまめに休憩(短距離を反復)
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息を止めない/力み過ぎない(一定の呼吸で“ニコニコペース”)
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背中を丸めず、膝を使って持ち上げる(腰痛予防にも有効)
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できるだけ2人以上で作業(急変・転倒・落雪への備え)
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やむを得ず一人なら、携帯電話を身につける(屋内ではなくポケット推奨)
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除雪機は雪詰まり時に必ず停止してから処理(巻き込まれ事故防止)
すぐに中止して受診・救急要請を考える「危険サイン」
雪かき中・直後に、次の症状があれば作業を中止し、状況により救急要請も検討してください。
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胸の痛み・圧迫感、強い息切れ
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冷や汗、吐き気、動悸
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めまい、意識が遠のく感じ
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片側の手足のしびれ、ろれつが回らない、激しい頭痛(脳卒中を疑うサイン)
まとめ:雪国の「早朝除雪」は“寒さ+運動+朝の血圧変動”で危険が重なる
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雪かきは6METs以上になり得る強い運動で、寒冷刺激が加わると心臓に負担が増します。
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心筋梗塞・脳卒中は朝(6時〜正午)に多いため、早朝除雪は条件が重なりやすい点に注意が必要です。
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予防の基本は、早朝を避ける/ウォーミングアップ/息を止めない/少量ずつ休憩/水分補給/複数人で作業です。
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
