便潜血「陰性」でも安心できない?見逃しを防ぐ大腸カメラの目安|山形県米沢市 きだ内科クリニック
便潜血検査が陰性でも大腸がんは否定できない?偽陰性の理由と大腸カメラを検討すべきケース
メタディスクリプション:便潜血検査(FIT)が陰性でも大腸がん・前がん病変が隠れていることがあります。偽陰性が起こる理由、受診を急ぐ症状、便潜血陽性時に大腸カメラが必須な根拠まで、医療情報としてわかりやすく解説します。
※本記事は一般向けの医療情報です。症状がある場合や検査の判断は、医療機関で個別に相談してください。
この記事でわかること
- 便潜血検査(検便)が陰性でも安心しきれない理由
- 「見落とし(偽陰性)」が起きやすい病変の特徴
- 便潜血が1回でも陽性なら大腸カメラが必要な根拠
- 便潜血陰性でも大腸カメラを検討したい人のチェックリスト
便潜血検査(FIT)とは?日本の大腸がん検診の基本
便潜血検査は、便の中に混じったヒトの血液(ヘモグロビン)を検出する検査で、がんやポリープなどによる“目に見えない出血”を拾い上げます。日本の大腸がん検診では2日法(2回採便)が一般的です。 国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方向けサイト
また、国立がん研究センターの情報では、40歳から年1回の受診が勧められています。 国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方向けサイト
ここで大事なのは、便潜血検査の目的が「今いるがんを100%見つける」ことではなく、集団として大腸がん死亡を減らすためのスクリーニング(ふるい分け)である点です。 国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方向けサイト
便潜血検査が陰性でも大腸がんを否定できない理由:偽陰性について
便潜血検査はとても有用ですが、構造的に“見落としがゼロにならない”検査です。主な理由は次のとおりです。
出血の有無が結果を左右する
便潜血検査は、あくまで出血の痕跡を探す検査です。そのため、出血が少ない/出血していない病変(早期がん、平坦な病変、鋸歯状病変など)は陰性になり得ます。
実際、FITの大腸がん検出感度は報告により幅がありますが、システマティックレビューでは大腸がんに対する全体の感度(sensitivity)が0.79(約79%)とされ、言い換えると1回の検査で約2割は陰性になり得ることが示されています。 PMC
さらに病期別では、別のメタ解析でStage Iの感度が73%、Stage II〜IVが79〜82%程度とされ、早期ほど拾いにくい傾向が示されています。T1(ごく早期)では感度40%という報告もあり、“早期=陰性でもおかしくない”を裏づけます。 PMC
出血は毎日同じ量ではない
がん・ポリープがあっても、出血は常に起きるとは限りません。採便した2日間にたまたま出血が少なければ、結果は陰性になります。
病変の場所で不利になることがある
右側結腸(盲腸・上行結腸など)の病変は、便の性状や病変の性質の影響で、FITが拾いにくい可能性が指摘されています。実際、右側の病変や鋸歯状病変はFITで見逃され得る、という趣旨の指摘があります。 PMC
カットオフ値や検体条件で陰性寄りになることがある
検査キット・判定基準(カットオフ)や、採便〜提出までの条件などによっても感度は影響されます。メタ解析でも、カットオフが高いほど感度が下がる(=陰性になりやすい)ことが示されています。 PMC
便潜血陰性でも「今すぐ受診」すべき症状(年齢不問)
便潜血検査は「無症状の人の検診」が前提です。症状がある場合は、結果が陰性でも“検診の枠”ではなく診療として評価が必要です。
特に次がある場合は、早めに消化器内科へ相談してください。
- 血便・下血(鮮血、黒色便、粘液が混じる など)
- 便通変化(便秘と下痢を繰り返す、急に便が細くなった、残便感)
- 腹痛、腹部膨満感(張り)
- 貧血(特に鉄欠乏性貧血)や原因不明の体重減少
国立がん研究センターのファクトシートでも、進行した大腸がんでは血便、便通変化、腹痛、腹部膨満感などの症状を呈することがあるとまとめられています。 National Coordination Committee
便潜血が「1回でも陽性」なら大腸カメラが原則:再検査は推奨されない
「2日法のうち1回だけ陽性だから様子見」「もう一度便潜血をやり直す」は、危険な先送りになり得ます。
日本消化器内視鏡学会は、2日法で1回でも陽性なら精密検査として大腸内視鏡(大腸カメラ)が強く推奨されると明確に述べています。 JGES
同ページでは、1回陽性でも内視鏡で大腸がん(約1%)や高リスクポリープ(約20%)などが見つかり得ることも紹介されています。 JGES
さらに厚生労働省の指針でも、要精検(便潜血陽性)後の精密検査について、
- 精密検査の第一選択は全大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
- 便潜血検査のみで精密検査を行うことは、見落とし増加につながるため行わない Ministry of Health, Labour and Welfare
大腸カメラ(大腸内視鏡検査)の強み
大腸カメラは、粘膜を直接観察し、必要ならその場で組織検査(生検)やポリープ切除が可能です。
国立がん研究センターのファクトシートでも、全大腸内視鏡検査は大腸がん診療において最も精度が高い必須の検査であり、前がん病変の予防的切除ができるメリットがある、と整理されています。 National Coordination Committee
一方で、同ファクトシートでは、全大腸内視鏡検査を対策型(住民)検診として一律に行うことは推奨されていない(不利益も大きい等)とも述べています。 National Coordination Committee
つまり、
- 検診(ふるい分け)としては便潜血が基本
- 精密検査(診断)としては大腸カメラが中心 という役割分担を理解するのが重要です。
便潜血が陰性でも大腸カメラを検討したい人のチェックリスト
次に当てはまる人は、便潜血が陰性でも“安心材料が十分でない”ことがあります。医師と相談して、大腸カメラ(任意型検診・人間ドックを含む)を検討する価値があります。
年齢・背景
- 40歳以上(日本の対策型検診は40歳以上が対象) 国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方向けサイト
- 特に50歳以降(増加が著しいため重点対応、という行政文書の記載) Ministry of Health, Labour and Welfare
家族歴・既往歴
- 近親者(親・兄弟姉妹)に大腸がん/大腸ポリープの既往がある
- 過去にポリープ切除歴がある
- 炎症性腸疾患など、医師から定期的な内視鏡フォローを指示されている
生活習慣
国立がん研究センターのファクトシートでは、喫煙と飲酒は大腸がんの「確実」なリスク因子、肥満や高身長によるリスク増加は「ほぼ確実」と整理されています。 National Coordination Committee
加えて、生活習慣の改善(禁煙・禁酒・体重管理・運動など)による予防可能性の推計も示されています。 National Coordination Committee
便潜血検査と大腸カメラの組み合わせが効果的
大腸がん対策は「どちらか一方」ではなく、組み合わせが合理的です。
- 便潜血検査(毎年):負担が少なく、広く受けられる。集団の死亡率減少に貢献。 国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方向けサイト
- 大腸カメラ:陽性時の精密検査として中心。必要に応じてポリープ切除など“予防”にもつながる。 Ministry of Health, Labour and Welfare
たとえるなら、便潜血検査は「火災報知器」、大腸カメラは「配線点検・修理」に近い役割です。
報知器が鳴ったら点検が必要で、報知器が鳴らなくても“気になる症状や高リスク”があるなら点検を考える——この考え方が安全です。
よくある質問
便潜血陰性なら、大腸がんは絶対にありませんか?
絶対ではありません。メタ解析では便潜血検査(FIT)の大腸がん検出感度は約79%とされ、陰性でも見落としが起こり得ることが示されています。 PMC
痔があるので陽性でも大丈夫ですか?
痔が原因のこともありますが、痔と大腸ポリープ/大腸がんが併存する可能性もあります。便潜血陽性なら大腸カメラが推奨
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
