冬でも脱水になる?「隠れ脱水」と脳梗塞・心筋梗塞リスクを防ぐ水分補給のコツ|山形県米沢市 きだ内科クリニック
冬でも脱水になる?「隠れ脱水」と脳梗塞・心筋梗塞を防ぐ水分補給のポイント
「脱水=夏」というイメージが強い一方で、冬でも脱水(特に“隠れ脱水”)は起こります。 冬は汗をかく自覚が少ないため油断しやすいのですが、実は 乾燥・暖房・こたつ・入浴などが重なると、気づかないうちに体内の水分が減っていきます。
脱水が進むと、体液の水分が減って血液が濃くなり(血液粘度上昇・血液濃縮)、血流が悪くなったり血栓ができやすくなったりすることがあり、脳梗塞や心筋梗塞などの血栓性疾患のリスク要因になり得ると考えられています。
この記事では、冬の隠れ脱水が起こる理由と、無理なく続けられる水分・塩分(電解質)のとり方、受診の目安をわかりやすく整理します。
隠れ脱水(かくれ脱水)とは?症状と特徴
隠れ脱水とは、脱水が始まっているのに、本人が強い症状として自覚しにくい状態を指します。冬は特に「喉が渇かない」「汗をかいていない気がする」ため見逃されがちです。
隠れ脱水のサイン(セルフチェック)
次のような状態が続く場合は、水分不足の可能性があります。
- 口が乾く、唇が荒れる
- 尿の回数が減った/尿の色が濃い
- 便秘ぎみ、便が硬い
- 立ちくらみ、ふらつき
- 頭痛、だるさ、集中力低下
- 足がつる(こむら返り)
- 皮膚がカサカサ、のどがイガイガする
※「喉の渇き」は、すでに脱水が始まっているサインになり得ます。 Ministry of Health, Labour and Welfare+1
冬に「隠れ脱水」が増える3つの理由
1)乾燥+暖房で“不感蒸泄”が増える
冬は外気が乾燥し、さらにエアコンやストーブで室内が乾きやすくなります。 このとき増えやすいのが、皮膚や呼気から無意識に失われる水分=不感蒸泄(ふかんじょうせつ)です。
医療資料では、成人の不感蒸泄は おおむね600〜900mL/日と示されています(個人差あり)。 med.uc.edu+1 汗をかいた自覚がなくても、冬は“見えない水分ロス”が積み上がります。
2)冬は「喉の渇き」を感じにくい
暑い時期ほど強い口渇が出にくく、水分摂取が減りやすいのが冬の特徴です。 「気づいたら夕方までほとんど飲んでいない」という方は要注意です。
3)こたつ・電気毛布・入浴で“じわ汗”が起きる
こたつや電気毛布、長湯は体が温まり、自覚が少ない汗(じわ汗)が出ます。 特に「こたつでうたた寝」は、水分が失われるうえに水分補給が止まりやすく、脱水が進みやすい生活パターンです。
脱水が「脳梗塞・心筋梗塞リスク」を上げるメカニズム
脱水になると体液が減り、相対的に血液が濃くなります。すると
- 血液粘度が上がる(流れにくい)
- 血液濃縮(ヘマトクリット上昇など)
- 循環が不利になり、臓器の血流が落ちやすい
- 凝固バランスが崩れ、血栓ができやすい方向へ働くことがある
といった変化が起こり得ます。脳卒中領域では、脱水が血液粘度上昇や血栓性合併症(例:静脈血栓)と関連し得ることが報告され、予後にも影響しうる、という整理がされています。
もちろん、脳梗塞や心筋梗塞は脱水だけで決まるものではなく、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・不整脈(心房細動)など複数の要因が重なって発症します。 しかし冬は「乾燥+寒さによる血管収縮・血圧上昇」も重なりやすく、水分不足がリスクを押し上げる“背景要因”になり得るため、予防策として水分管理が重要になります。
特に注意したいのは「冬の朝」
冬の朝は
- 就寝中は水分補給が途絶える(=体液が減りやすい)
- 起床後〜午前中は心血管イベントが増える“時間帯”として知られる
という条件が重なります。実際に、脳卒中や心筋梗塞には起床後〜午前中に発症が増えるという日内変動(サーカディアンリズム)が報告されています。
だからこそ、冬は特に「起床後の一杯」が大切です。
1日の水分補給量の目安:まずは「飲み水で約1.2L」を意識
厚生労働省などの啓発資料では、成人は普通に生活していても1日あたり約2.5Lの水分が出入りしており、 食事(約1.0L)+体内で作られる水(約0.3L)を差し引くと、飲み水として約1.2Lを意識するとよい、という考え方が示されています。
無理なく続けるコツ:コップ6〜8回に分ける
いきなり大量に飲むより、 コップ1杯(150〜200mL)×6〜8回のように分割する方が続けやすく、体にも負担が少なくなります。
※ただし、必要量は「体格」「活動量」「発熱」「入浴習慣」「室内環境」「持病(心不全・腎臓病など)」で変わります。
こまめに飲む“おすすめタイミング”(冬の8回ルール)
以下のタイミングで「コップ1杯」を積み上げると、無理なく達成しやすくなります。
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起床後すぐ(最優先)
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朝食時
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午前の休憩(10時頃)
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昼食時
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午後の休憩(15時頃)
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夕食時
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入浴の前後(どちらかでもOK)
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就寝前(トイレが心配なら“少量”で)
冬におすすめの飲み物・避けたい飲み物
日常の水分補給に向くもの
- 白湯・常温の水
- ノンカフェインのお茶(麦茶・ほうじ茶など)
- 具だくさんスープ(塩分は控えめに)
体を冷やしにくい温度の飲み物は、冬でも続けやすいのがメリットです。
水分補給で注意したいもの
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アルコール:利尿作用があり、脱水を助長しやすい(飲むなら同量程度の水もセットで)
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カフェイン飲料(コーヒー、緑茶、紅茶など):適量なら問題ないことも多いですが、「水分補給の主役」にするより、水・白湯も併用すると安心です。
塩分(電解質)は必要?ORS(経口補水液)の使い分け
冬の「隠れ脱水」対策の基本は、多くの場合 水(+食事)で十分です。 一方、次のように水分と一緒に電解質も失う状況では、経口補水液(ORS)が役立つことがあります。
- 発熱で汗が多い
- 下痢・嘔吐
- インフルエンザなどで食事がとれない
- 大量発汗(運動・作業、長時間の入浴など)
ORSは“常用ドリンク”ではない理由
ORSは塩分(ナトリウムなど)を含むため、高血圧、心不全、腎不全、むくみやすい方などは自己判断で常用せず、医師に相談してください。また、薬剤(利尿薬など)との兼ね合いで注意が必要な場合もあります。
室内環境と生活習慣で“隠れ脱水”を減らす
室内の湿度は「40〜60%」を目安に
乾燥が強いと不感蒸泄が増え、のど・鼻の粘膜も乾きやすくなります。 研究では、中等度の室内湿度(40〜60%)が呼吸器の快適性やウイルス環境の観点でも望ましい可能性が示されています。 ScienceDirect+1 加湿器、濡れタオル、室内干しなどで調整しましょう。
こたつで寝ない・長居しすぎない
「こたつは気持ちいい」反面、うたた寝で水分補給が止まります。 タイマーを使う、飲み物を手の届く位置に置くなど工夫を。
長時間同じ姿勢を避ける
こたつで座りっぱなしは血流が滞りやすくなります。 1〜2時間に一度、立って歩く・足首を動かすなど、軽い運動を入れましょう。
こんなときは要注意!受診の目安
冬の脱水は「自宅での水分補給」で改善することも多い一方、次のような場合は別です。
すぐに相談したい症状
- 水分が取れない(嘔吐が続く、飲むと吐く)
- 意識がぼんやりする、ぐったりして動けない
- 尿が極端に少ない、半日以上ほとんど出ない
- 強い動悸、息切れ、胸痛
- 片側の手足の麻痺、ろれつが回らない、顔のゆがみ(脳卒中が疑われる症状)
特に高齢者、心不全・腎臓病・糖尿病など持病がある方、利尿薬などを内服中の方は、早めに相談するのが安全です。
まとめ:冬の隠れ脱水対策
冬の隠れ脱水は「朝の一杯+こまめ補給+乾燥対策」で防ぎましょう。
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冬でも脱水は起こり、乾燥と暖房で不感蒸泄が増えやすい
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脱水は血液粘度上昇などを通じて血栓症リスクに関わり得る
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朝は心血管イベントが増えやすい時間帯なので「起床後の一杯」が重要
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
