睡眠時無呼吸症候群(SAS)治療|CPAPが合わない時の選択肢(マウスピース・手術・HNS・減量)|山形県米沢市 きだ内科
CPAPが合わない場合の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA/SAS)治療:選択肢と適応
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA/SAS)の治療では、持続的気道陽圧療法(CPAP)が中等症〜重症の標準治療(第一選択)として広く用いられます。一方で、CPAPが適応にならない場合や、マスクの不快感・鼻閉・違和感などにより継続が難しい(不耐・不忍容)場合には、病態や重症度、体型(肥満の有無)、上気道の形態、合併症に応じて、CPAP以外の治療法を組み合わせて検討します。
以下に、CPAP以外の主要な治療法と、選ばれやすいケース(適応)をまとめます。
口腔内装置(マウスピース)療法
口腔内装置(Oral Appliance:OA/スリープスプリント)は、就寝時にオーダーメイドのマウスピースを装着し、下顎を前方へ保持することで上気道を広げ、閉塞を起こしにくくする治療です。
口腔内装置療法の適応と効果
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主に軽症〜中等症のOSAで検討されます。
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CPAPが合わない/続けられない場合の代替治療として選択されることがあります。
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一般に、AHI(無呼吸低呼吸指数)の改善はCPAPに比べて小さくなりやすい一方、日中の眠気やQOLの改善が期待できるケースがあります。
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小型で電源不要のため、旅行・出張時なども含めて続けやすい点がメリットです。
口腔内装置療法の作製と保険適用
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市販品ではなく、歯科で歯型を取り調整するカスタムメイドが基本です。
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保険適用には、原則として医科でのOSA診断(検査)が必要となり、紹介状を持参して歯科で作製する流れが一般的です。
外科的治療(手術療法)
手術は、気道閉塞の原因が解剖学的に明確で、他治療で十分な効果が得られにくい場合に検討されます。年齢(小児か成人か)や閉塞部位(鼻・軟口蓋・舌根など)によって術式が異なります。
小児のOSAに対する外科的治療
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小児ではアデノイド・扁桃肥大が原因となることが多く、アデノイド切除/扁桃摘出が第一選択として検討されることがあります。
成人のOSAに対する主な術式
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口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP):軟口蓋〜咽頭周囲を整え、咽頭腔を広げる方法。効果には個人差があり、術後疼痛や再発リスクも踏まえて選択します。
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上下顎前方移動術(MMA):骨格性要因(顎が小さい等)が強い場合に検討されることがある、気道拡大効果の大きい術式。ただし侵襲は大きくなります。
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鼻手術(鼻中隔矯正・下鼻甲介手術など):OSAそのものの改善は限定的なことが多い一方、鼻閉を改善してCPAPやOAの継続性を上げる補助治療として役立つ場合があります。
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LAUP(レーザー口蓋垂軟口蓋形成術):OSAに対する有効性が十分確立していない・悪化リスクが指摘されることがあるため、一般に慎重な検討が必要です。
舌下神経電気刺激療法(HNS)
舌下神経電気刺激療法(例:Inspire等)は、体内に装置を植え込み、睡眠中の呼吸に同期して舌下神経を刺激し、舌根沈下による閉塞を起こしにくくする治療です。
舌下神経電気刺激療法の適応
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中等症〜重症で、CPAPの継続が困難な場合に検討されます。
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体格(BMI)、閉塞パターン(薬物睡眠下内視鏡:DISE所見)などの条件を満たす必要があるため、適応は専門施設で総合的に判断します。
生活習慣の改善・行動療法
生活習慣の介入は、OSAの重症度にかかわらず治療の土台になります。CPAPやOA、手術などと並行して行うことで効果が出やすいのが特徴です。
OSA改善のための生活習慣
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減量(体重管理)
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肥満はOSAの重要なリスク因子であり、減量は気道の負担を下げ、症状改善につながりやすい基本戦略です。
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食事療法・運動療法を軸に、継続可能な方法を設計します。
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体位療法(横向き寝)
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仰向けで悪化しやすい「体位依存性OSA」では、横向き(側臥位)で寝る工夫が有効なことがあります。
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体位センサー付きデバイス等が使われる場合もあります。
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禁酒・節酒(特に就寝前)
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アルコールは上気道筋の緊張を低下させ、閉塞を悪化させることがあるため、就寝前飲酒は控えることが推奨されます。
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禁煙
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喫煙は気道炎症や鼻症状などを通じて悪化因子となり得るため、禁煙が望ましいです。
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口腔筋機能療法(MFT/オロフェイシャルエクササイズ)
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舌・咽頭周囲の筋機能を高めるトレーニングで、補助的に取り入れられることがあります。
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薬物療法
薬物療法は「OSAそのもの(閉塞)」を直接治す薬が限られていた領域ですが、近年は肥満を介してOSAを改善するアプローチが注目されています。また、治療後も眠気が残る場合に対する薬剤が用いられることがあります。
残遺眠気への対処
CPAPなどで夜間呼吸イベントが改善しているにもかかわらず眠気が強い場合、状況に応じて覚醒を促す薬が検討されることがあります。適応や保険、処方可否は薬剤・病態によって異なるため、主治医と相談が必要です。
チルゼパチドによるOSA治療の可能性
SURMOUNT-OSA試験について
SURMOUNT-OSAは、肥満を伴う中等度〜重度のOSA成人を対象に、チルゼパチド(週1回皮下注)とプラセボを比較した第3相・無作為化二重盲検試験です。
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試験1:ベースラインでPAP(CPAP等)を使用していない(使用できない/使いたくない)患者
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試験2:ベースラインでPAP療法を使用している患者
いずれも52週間投与で、主要評価項目はAHIの変化でした。
主要結果(52週):AHI(無呼吸低呼吸指数)の変化
治療レジメン推定(Table 2)では、チルゼパチド群はプラセボ群に比べてAHIが大きく低下しました。
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試験1(PAPなし):AHI変化
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チルゼパチド:−25.3回/時
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プラセボ:−5.3回/時
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試験2(PAPあり):AHI変化
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チルゼパチド:−29.3回/時
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プラセボ:−5.5回/時
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さらに、AHIの%変化でも、試験1は−50.7%、試験2は−58.7%と大きな改善が示されています。
体重減少効果
体重(%変化)も、プラセボに比べて大きく低下しました。
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試験1:体重 −17.7%(プラセボ −1.6%)
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試験2:体重 −19.6%(プラセボ −2.3%)
OSAの寛解について
52週時点で、
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AHI<5 または AHI 5〜14 かつ ESS(眠気尺度)≤10
を満たした割合は、試験1で42.2%、試験2で50.2%(いずれもプラセボより高い)でした。
安全性について
副作用は消化器症状が多く、主に軽度〜中等度で、特に用量漸増期に起こりやすい傾向が報告されています。
※個々のリスク(膵炎、胆のう疾患、甲状腺髄様がん等の警告を含む)は薬剤ラベル・医師判断に従って評価が必要です。
各国の承認状況
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米国では、FDAが2024年12月にチルゼパチド製剤(Zepbound)を「肥満を伴う中等度〜重度OSA」に対して、食事・運動と併用で承認しています。
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日本では、チルゼパチドは 2型糖尿病治療薬(マンジャロ®)として使用されており、また別ブランドとして 肥満症治療薬(ゼップバウンド®)も承認・薬価収載・発売されています(適応・使用条件は最適使用推進ガイドライン等に基づく)。
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ただし、日本国内で「OSAそのもの」への適応があるかどうかは国・時期で異なるため、国内での適応は必ず最新の添付文書・公的資料で確認が必要です(本稿では海外エビデンスとしてSURMOUNT-OSAを紹介)。
CPAP以外の治療法の選び方
OSA(SAS)の治療は、CPAPが基本である一方、合わない場合にも
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マウスピース(OA)
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手術
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舌下神経刺激(HNS)
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生活習慣(特に減量)
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肥満症治療薬(チルゼパチド等:エビデンス拡大中)
といった選択肢があります。
特に肥満を伴うOSAでは、SURMOUNT-OSAの結果から、減量治療が「体重」と「AHI(呼吸イベント)」の両方を改善し得ることが示され、治療の考え方が広がりつつあります。
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
