【ピロリ菌に感染したことがないのに胃がん?】H. pylori未感染胃がんの症状と特徴
【H. pylori陰性胃がんとは?】未感染・除菌後・接合部に注目|内視鏡診断のポイントと最新知見
胃がんは長年、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染が最大のリスクとされてきました。しかし、衛生環境の改善や除菌治療の普及によって感染率は大きく低下しており、近年は**「H. pylori陰性胃がん」**と呼ばれるタイプの胃がんが増加しています。
この記事では、未感染胃がん・除菌後胃がん・食道胃接合部癌といったH. pylori陰性胃がんの分類と、それぞれの特徴的な内視鏡所見・診断の注意点をわかりやすく解説します。
🔎 H. pylori陰性胃がんとは?
H. pylori感染が確認できない、あるいは除菌後に発生する胃がんを総称して「H. pylori陰性胃がん」と呼びます。大きく以下の3種類に分類されます:
1. H. pylori未感染胃がん
初めからピロリ菌に感染していない人に発生
2. 除菌後胃がん
除菌治療後に新たに出現する胃がん
3. 食道胃接合部癌(GEJ癌)
H. pyloriとの関連が希薄で、接合部特有の背景を持つ癌
【1】H. pylori未感染胃がん
■ 定義と診断条件
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血清抗体・UBT・便中抗原などで感染陰性
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除菌歴がない
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内視鏡的に非萎縮性粘膜(RACあり)
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組織学的にも萎縮や腸上皮化生を認めない
■ 主な病型と所見
病型 | 所見 | 備考 |
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印環細胞癌 | 褪色調・平坦型(0-IIb/IIc) | 胃体下部に多く、若年者に見られることも |
胃底腺型腺癌 | 白色調・隆起型+樹枝状血管 | 穹窿部・胃体上部に好発、粘膜下腫瘍様 |
ラズベリー様腫瘍 | 鮮やかな発赤ポリープ状 | 胃体大弯や穹窿部に多発しやすい |
白色扁平隆起型腺癌 | 粘膜扁平・顆粒状構造 | 川口・春間病変に類似、多発傾向あり |
遺伝性胃がん(HDGCなど) | 多発する印環細胞癌 | CDH1変異などが関与、予防的全摘例も |
【2】除菌後胃がん
■ 特徴とリスク
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年間発生率:約0.2%
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除菌10年以上経過後にも発生
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分化型が多いが、未分化型の割合も上昇
■ 主な内視鏡所見
所見 | 解説 |
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地図状発赤様の0-IIc型 | 胃体中部~上部の萎縮境界に多い |
炎症様の低異型度癌 | 背景と同調し見逃しやすい |
被覆上皮・モザイク構造 | 内視鏡での範囲診断困難、生検不一致例も |
印環細胞癌 | 再生上皮に覆われ発赤調を呈するため要注意 |
NBIや拡大観察を併用した詳細観察が発見率向上に不可欠です。
【3】食道胃接合部癌(GEJ癌)
■ 近年注目のH. pylori非関連がん
**食道と胃の境目(食道胃接合部)**に発生するがんは、かつては胃がんの一部と分類されていましたが、H. pylori感染との関連が少ないことがわかってきています。
■ 特徴とリスク因子
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H. pylori感染の有無にかかわらず発生
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GERD(逆流性食道炎)・肥満・喫煙・男性がリスク因子
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発見時には進行していることが多い
■ 内視鏡診断の注意点
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初期病変はわずかなびらん・白斑・粘膜不整のみ
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通常の経口内視鏡では観察が不十分になりやすい
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食道側からの観察角度と**IEE(NBIなど)**の併用が重要
🧠 H. pylori陰性胃がんを早期発見するための視点
タイプ | 特徴的な所見 | 内視鏡医の対応ポイント |
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未感染胃がん | 非萎縮・印環細胞癌・隆起型・白色調 | 病型別に好発部位を把握、RAC・拡張血管に注目 |
除菌後胃がん | 地図状発赤、粘膜下に隠れる分化型 | 背景粘膜の萎縮範囲と色調変化に注目、拡大観察が有効 |
食道胃接合部癌 | 接合部白斑・びらん・粘膜不整 | 胃食道接合部の念入りな観察、症状の有無も確認 |
📝 まとめ:ピロリ陰性でも油断禁物!診断力で差がつく時代へ
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H. pylori感染率の低下に伴い、陰性胃がんの時代が到来
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内視鏡診断に求められるのは「病型ごとの理解と観察精度」
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特に、印環細胞癌や被覆上皮を伴う癌の拾い上げにはIEE観察が必須
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食道胃接合部癌にも目を向け、GERD合併例などではより慎重な観察を