頸動脈エコーでプラーク・狭窄と言われたら|放置NGの危険サインと次の検査・治療を医師が解説
頸動脈エコーでプラーク/狭窄が見つかったとき
一般内科医が押さえておきたい評価基準と次の一手
0. 全体像:まず何を整理するか?
頸動脈エコーで異常を見たら、
頭の中で次の3つをチェックしておくと迷いにくくなります。
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症候性か無症候性か
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過去6か月以内に TIA/脳梗塞/一過性の片麻痺・失語・一過性黒内障 などがあるか。
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狭窄の程度(NASCET 狭窄率のイメージ)
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軽度 <50%
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中等度 50–69%
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高度 ≥70%
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プラークの性状
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安定(線維性・高エコー)か
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不安定(低エコー・潰瘍・可動性 など)か
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この3点で「どこまで内科で診るか・いつ脳外/脳血管内治療へ紹介するか」を決めていきます。
1. 頸動脈エコーで見るべきポイント
1-1 IMTとプラーク
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IMT(内膜中膜複合体厚):
一般に 1.1mm 以上の限局性隆起を プラーク と呼びます。 -
びまん性肥厚:全身動脈硬化の指標として評価。
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局所隆起(プラーク):
厚さ・長さ、血管内腔側への張り出し率(短軸での占有率)をチェック。
1-2 狭窄率と血流(PSV)
NASCET 法(血管造影ベース)の狭窄率を、エコーでは主に PSV(収縮期最大血流速度) で推定します。
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軽度狭窄(おおよそ <50%)
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PSV < 150 cm/s 程度
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中等度狭窄(50–69%)
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PSV ≧ 150 cm/s
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高度狭窄(70%以上)
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PSV ≧ 200–230 cm/s 目安
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※実際は施設ごとのカットオフに従うのが安全です。
短軸像で内腔の 50% 以上をプラークが占めるようなら、
必ずドプラで流速を測り、狭窄率を推定するクセをつけておくと良いです。
1-3 プラークの性状
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安定プラーク
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高エコー、均一、石灰化が主体、表面平滑
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不安定プラーク
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低エコー/不均一
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潰瘍形成
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可動性成分あり
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脂質コアが大きそうな外観
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→ 不安定プラークほど、血栓塞栓を起こしやすく脳梗塞リスクが高いと考え、慎重に扱います。
2. 追加で行うべき検査
2-1 CTA/MRA
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目的
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狭窄率をより正確に評価
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病変の長さ・石灰化の程度
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反対側や頭蓋内の血管評価
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タイミング
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中等度以上の狭窄が推定される場合
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外科的治療(CEA/CAS)を検討すべきか迷うケース
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2-2 プラーク画像(MRI など)
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不安定プラークが疑われる場合に、
MRI プラークイメージングで脂質コアや潰瘍の有無を評価することがあります。
2-3 脳画像・脳血流
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症候性/高度狭窄例では
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頭部 MRI(DWI・MRA)
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必要に応じて脳血流 SPECT など
を行い、虚血の程度や側副血行を評価します。
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3. すべての患者に共通する「基本治療」
狭窄の程度にかかわらず、動脈硬化の全身管理が治療のベースです。
3-1 生活習慣・リスクファクターの是正
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血圧:ガイドラインに沿ったコントロール
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糖尿病:HbA1c 目標設定と薬物調整
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脂質異常症:特に LDL 管理(スタチンが基本)
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禁煙指導
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体重管理・運動療法
3-2 薬物治療
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抗血小板薬
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症候性例:アスピリン or クロピドグレルの単剤が標準。
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無症候でも中等度以上の狭窄や不安定プラークがあれば内服を検討。
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スタチン
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脂質異常を伴う患者では必須レベル。
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プラークの安定化・IMT 進展抑制も期待できます。
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4. 無症候性の頸動脈狭窄:どう対応する?
4-1 軽度~中等度(NASCET <60%程度)
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原則 内科的治療のみ
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抗血小板薬+スタチン+危険因子管理
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エコーフォロー:
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1年に1回程度で十分なことが多い
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4-2 高度狭窄(NASCET 60–99%)で無症候
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まずは最善の内科治療をきっちり
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そのうえで、以下の要素があれば 血管外科/脳外科へ相談
- 狭窄率 70%以上
- 不安定プラーク(低エコー・潰瘍・可動性)
- 反対側も高度狭窄/閉塞
- 高度冠動脈疾患など全身のイベントリスクが高い
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外科的治療(CEA/CAS)は
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術者の周術期イベント率(脳梗塞・死亡)が十分低い施設
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平均余命 5年以上が見込める患者
で慎重に検討、というイメージで持っておくと良いです。
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5. 症候性頸動脈狭窄:優先度が一気に上がる
症候性の定義
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過去 6か月以内 に
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一過性黒内障
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片麻痺・失語などの脳梗塞症状
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TIA
を起こしている場合。
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5-1 狭窄率ごとの方針(“紹介レベル”のイメージで)
| NASCET狭窄率 | 一般内科医としての基本方針 |
|---|---|
| 70–99% | できるだけ早く(理想は発症14日以内)CEA/CAS 検討のため専門施設へ紹介 |
| 50–69% | 多くは 血行再建を検討するグレーゾーン → 脳卒中専門医に紹介して判断を委ねる |
| <50% | 原則は内科治療。再発リスク評価・他の原因(心房細動など)の検索を優先 |
症候性であれば、
「中等度以上の狭窄があれば、とりあえず専門医に相談」
と覚えておくとシンプルです。
6. CEA と CAS:紹介する側が知っておく程度のポイント
6-1 CEA(頸動脈内膜剥離術)
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頸動脈を直接開いてプラークを削り取る手術。
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エビデンスの最も厚い「標準治療」。
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高齢でなければ、症候性高度狭窄では第一選択になりやすい。
6-2 CAS(頸動脈ステント留置術)
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鼠径などからカテーテルでアプローチし、ステントで拡張。
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一般には CEA ハイリスク症例 の選択肢:
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高齢(80歳以上)
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全身麻酔ハイリスク
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既往の頸部手術/放射線照射
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CEA後の再狭窄 など。
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一般内科医としては、
「症状あり+中等度~高度狭窄 → 速やかに脳外/血管内治療チームへ」
と覚えておけば十分です。
7. フォローアップの間隔の目安
無症候性
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軽度(<50%):1–2年ごと
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中等度(50–69%):6–12か月ごと
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高度(≥70%)で内科治療のみ選択:6か月ごと程度
術後(CEA/CAS)
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多くの施設で
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術後 6か月
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以後 6~12か月ごと
にエコーで再狭窄の有無をチェック。
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8. 一般内科医として「ここまでやればOK」というライン
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エコー所見を以下の3点で整理できること
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軽度・中等度・高度のいずれか
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プラークが安定か不安定か
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両側か片側か
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症候性か無症候性かを必ず確認すること
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全例にリスクファクター管理+抗血小板薬・スタチンをきちんと行うこと
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以下の場合は迷わず専門医へ紹介すること
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症候性で 50%以上の狭窄が疑われる
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無症候でも高度狭窄+不安定プラーク
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急速な進行や新たな神経症状が出てきた
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CEA/CAS 適応の可否に迷うケース
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ここまで出来ていれば、
一次医療として「拾い上げるべき危険病変」をかなりの確率でカバーできていると思います。
