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「飲んではいけない薬」は本当?副作用の誤解と真実|スタチン・降圧薬・糖尿病薬【山形県米沢市 きだ内科クリニック】

[2025.12.21]

「飲んではいけない薬?」に不安になったら読む記事:スタチン・降圧薬・糖尿病薬の副作用と“自己中断の危険”をエビデンスで整理

 

 

※本記事は一般的な医療情報の解説であり、個別の診断・治療の指示ではありません。薬の変更や中止は、必ず主治医・薬剤師に相談してください。

 

はじめに:副作用が怖いのは自然。でも「自己中断」は別問題です

 

薬の副作用が怖い――これは多くの人が感じる、まっとうな不安です。ところが、刺激的な見出し(例:「飲んではいけない薬」)は、**“まれだけれど重い副作用”を強調し、“多くの人にとっての利益(ベネフィット)”**を十分に扱わないことがあります。

特に高血圧の薬のように、症状がなくても将来の病気を防ぐ薬は、「飲んでいるから数値が良い」だけなのに、良くなった=治ったと誤解されがちです。たとえばACE阻害薬(例:ラミプリル)についても、自己判断で中止すると血圧が上がり、心筋梗塞や脳卒中リスクが上がり得るため、中止は医師に相談するよう注意喚起されています。 nhs.uk

この記事では、誤解が起きやすい3分野――スタチン(脂質異常症治療薬)・降圧薬・糖尿病薬――について、「怖がるべき点」と「過度に怖がらなくてよい点」を、研究や公的情報に基づいて整理します。

 

まず結論:副作用は「ゼロ」ではないが、判断は“確率×重さ×利益”で決まる

 

医療者は処方のとき、常に次の3点をセットで考えています。

  1. 副作用が起きる確率(頻度)

  2. 起きたときの重さ(重篤度)

  3. その薬で防げる病気の大きさ(ベネフィット)

 

そして、ほとんどの慢性疾患治療薬は、**「やめるリスク」**も同じくらい重要です。自己判断で中止する前に、最低限ここだけ覚えてください。

  • 副作用が心配=相談してよい(むしろすべき)

  • 副作用が心配=勝手に中止してよい、ではない

 

1. スタチン(コレステロール低下薬)の誤解と真実

 

スタチンの“利益”は何か:心筋梗塞・脳梗塞などを減らす

 

大規模メタ解析では、LDLコレステロールを下げることで、主要な血管イベント(心筋梗塞、脳卒中など)が有意に減ることが示されています。特に、LDLを1 mmol/L下げるごとに主要血管イベントが約2割(約21%)減少する、という代表的な結果があります。 The Lancet

“数字が良くなる薬”ではなく、将来の発症を減らす薬です。

 

誤解①「筋肉が溶ける(横紋筋融解症)から危険」

 

真実:重篤な横紋筋融解症は“非常にまれ”です。


学会解説などでは、スタチンによる横紋筋融解症の頻度は0.6〜1.2/10,000人・年程度とされます。 American College of Cardiology
一般向け解説でも、リスクは「非常に低い」とされ、推定値として10万人あたり約1.5人といった説明もあります。 Mayo Clinic

 

ただし重要:まれでも“見逃してはいけないサイン”があります。


次の症状が強い/急に悪化する場合は、自己判断で我慢せず、早めに医療者へ連絡してください。

  • いつもと違う強い筋肉痛、脱力

  • コーラ色の尿

  • 発熱、強いだるさ など

(薬の種類・量、腎機能、併用薬などでリスクは変わるため、個別評価が大切です。)

 

誤解②「スタチンで筋肉痛が出た=薬が原因」

 

真実:筋肉症状の“多く”は、薬そのものが原因ではない可能性があります。


スタチンをやめた人を対象にしたクロスオーバー試験(スタチン・プラセボ・無治療を入れ替える)では、症状がプラセボ期間にも同程度起きることが示され、いわゆる**ノセボ効果(不安が症状を増やす現象)**が大きい可能性が示唆されています。 JACC+1

 

現実的な対処(ここが大事)


筋肉痛が出たら「危険だから即中止」ではなく、医療者と一緒に次を検討します。

  • 症状の強さ・経過の確認(運動、脱水、感染症でも筋肉痛は起きます)

  • CK(筋肉逸脱酵素)などの検査

  • 用量調整、別のスタチンへの変更、隔日投与などの工夫(医師判断)

 

誤解③「スタチンは糖尿病になりやすいから損」

 

真実:糖尿病の新規発症リスクが“少し”上がる可能性はあるが、心血管予防の利益が上回る人が多い。


スタチンと新規糖尿病の関連は、代表的なメタ解析で約9%増が報告されています。 The Lancet
別のメタ解析でも増加は概ね9〜13%程度と整理されています。 PubMed

ここでのポイントは「誰でも同じ結論ではない」こと。
心筋梗塞・脳梗塞のリスクが高い人ほど、スタチンで防げる利益が大きいため、総合的には「続ける価値」が高くなることが多い――という考え方になります(個別判断が必要です)。 The Lancet+1

 

2. 降圧薬(血圧を下げる薬)の誤解と真実

 

降圧の“利益”は何か:脳卒中・心不全などのリスクを下げる

 

大規模メタ解析では、収縮期血圧(上の血圧)を10mmHg下げると、

  • 主要心血管イベント:約20%減

  • 脳卒中:約27%減

  • 心不全:約28%減

などが示されています。 PubMed

体感症状がなくても、血圧管理は“将来の大事故”を減らす投資です。

 

誤解①「一度飲み始めたら一生やめられない(依存する)」

 

真実:降圧薬に“依存性”があるわけではありません。


ただし現実には、高血圧の背景(体質、加齢、腎機能、動脈硬化、睡眠時無呼吸、食塩摂取など)が続くため、結果的に長く使う人が多いのです。

一方で、生活習慣が大きく改善し、血圧が安定した場合に、医師管理下で減薬・中止できる人が一定数います。
降圧薬中止後に正常血圧を維持できた割合についての系統的レビューでは、**6か月で約37%、2年で約26%**という推定が報告されています(誰でもやめられる、という意味ではありません)。 PMC

 

誤解②「血圧が下がったから、もう薬はいらない」

 

真実:多くの場合“薬で下がっている”だけで、やめれば戻ります。


NHS(英国の公的医療情報)でも、降圧薬(例:ラミプリル)をやめると血圧が上がり、心筋梗塞や脳卒中リスクが増える可能性があるため、中止は医師に相談するよう明確に案内しています。 nhs.uk

さらに、薬の種類によっては、急に止めることで血圧が跳ね上がる**リバウンド(反跳性高血圧)**が問題になります。急な中止でリバウンドが起き得ることは、抗高血圧薬全般で知られており、特に交感神経系に作用する薬などで注意が必要です。 PMC
例としてクロニジンでは、「突然の中止でリバウンド高血圧が起き得るため、急に止めない」ことが解説されています。 NCBI+1

 

3. 糖尿病薬の誤解と真実(DPP-4阻害薬/メトホルミン/SGLT2阻害薬)

 

糖尿病治療薬はここ10〜20年で選択肢が増え、単に血糖を下げるだけでなく、心臓・腎臓を守るという観点が強くなっています(ただし薬ごとに得意分野が違います)。 Diabetes Journals+1

 

3-1. DPP-4阻害薬(例:ジャヌビア/シタグリプチン)

 

誤解「ジャヌビアは“飲んではいけない薬”で副作用が強い」

 

真実:DPP-4阻害薬は一般に低血糖が起きにくく、心血管安全性も確認されている薬の一つです。
DPP-4阻害薬は、単独使用では低血糖リスクが低い(ただしSU薬やインスリン併用で増える)と解説されています。 NCBI+1
また、シタグリプチンの大規模試験(TECOS)では、通常治療に追加しても主要な心血管イベントや心不全入院リスクを増やさないことが示されています。 New England Journal of Medicine

 

ただし“ゼロリスク”ではない(ここを正しく怖がる)

  • 重いアレルギー反応(アナフィラキシー、血管浮腫、重い皮膚症状など)は添付文書上も注意喚起があります。 FDA Access Data+1

  • 膵炎については、試験やメタ解析で議論があり、注意して症状(強い腹痛など)をみる必要があります。 PubMed

  • まれな副作用として水疱性類天疱瘡リスク上昇が報告されており、皮膚の水疱などは相談が必要です。 Diabetes Journals+1

つまり「危険だから禁止」ではなく、**“注意点を理解して、適切に使う薬”**です。

 

3-2. メトホルミン

 

誤解「古い薬=危険」

 

真実:長年使われ、位置づけが確立された薬です。


ただし、よくある副作用(胃腸症状)や、長期使用での注意点(ビタミンB12低下など)が知られています。

ADA(米国糖尿病学会)基準でも、メトホルミンとビタミンB12低下リスクが時間とともに増えることに言及されています。 Diabetes Journals
実臨床の解説でも、長期使用時のB12モニタリングが推奨される旨がまとめられています。 Diabetes Journals

 

誤解「メトホルミンはがんを確実に防ぐ」

 

真実:“可能性が示唆”されている段階の話が多く、確定ではありません。


糖尿病領域でも、観察研究(リアルワールドデータ)で“がん発症が少ない”という関連が示される一方、研究デザイン由来の偏り(交絡)をどう扱うかが議論されています。 Diabetes Journals+1

期待しすぎず、「血糖管理に役立つ実績ある薬」として理解するのが安全です。

 

3-3. SGLT2阻害薬

 

誤解「脱水を起こすだけの薬」

 

真実:尿に糖を出す作用により尿量が増えることはあるが、心臓・腎臓を守る効果が重要視されている薬です。


ADAの慢性腎臓病(CKD)に関する推奨では、SGLT2阻害薬がCKD進行を遅らせ、心不全などのリスクを下げる目的で推奨されることが明記されています(腎機能条件あり)。 Diabetes Journals
またメタ解析でも、腎疾患進行や心不全関連アウトカムの改善が示されています。 JAMA Network+1

 

ただし副作用は“特徴的”なので、対策込みで使う

 

SGLT2阻害薬は、クラスとして以下が知られています。

  • 体液量減少(脱水・立ちくらみ)

  • 性器感染症(カンジダ等)

  • まれだが重い感染(フルニエ壊疽)への注意喚起 U.S. Food and Drug Administration+1

  • ケトアシドーシス(血糖がそれほど高くなくても起こり得る)や重い尿路感染症への注意喚起 U.S. Food and Drug Administration+1

重要なのは「怖いからやめる」ではなく、脱水時(発熱・下痢・嘔吐・絶食など)の対応、清潔ケア、症状が出たときの早期受診をセットで理解することです。 CCJM+1

 

副作用と上手に付き合う:不安を“安全な行動”に変える5つのコツ

 

1)自己判断で中断しない(中断が最大の副作用になることがある)

血圧薬の中止で血圧が上がるように、薬は「飲んでいる間だけ効く」ものが多いです。 nhs.uk
不安なときほど、中止ではなく相談が最短ルートです。

 

2)不安は遠慮せず言語化する(医師・薬剤師は“調整役”)

  • 「何の副作用がどれくらい怖いか」

  • 「いつから、どんな症状があるか」

  • 「ネットで見た内容で気になる点」

これを伝えるだけで、検査の追加・減量・薬の変更など安全策の選択肢が広がります。

 

3)“副作用っぽい症状”はメモして持参する

症状の強さ(10段階)、時間帯、運動や飲酒、脱水、感染症、併用薬などをメモすると、原因切り分けが進みます。

 

4)定期検査は「怖いから」ではなく「安全に続けるため」

スタチンなら肝機能や必要に応じCK、糖尿病薬なら腎機能、メトホルミンなら長期でB12など、監視できる副作用は監視して先回りが基本です。 Diabetes Journals+2Diabetes Journals+2

 

5)薬は「眼鏡」や「シートベルト」に近い

眼鏡をかけたから目が悪化するわけではなく、シートベルトが事故を起こすわけでもありません。
薬も同じで、**生活の質(QOL)と将来の安全を支える“道具”**です。怖さをゼロにするのではなく、安全に使う設計が大切です。

 

よくある質問(FAQ)

Q1. スタチンで筋肉痛が出たら、すぐやめるべき?

重い症状(強い脱力、コーラ色尿など)があれば早急に医療機関へ。軽い筋肉痛は原因が複数あり、プラセボでも同程度起きることが示された試験もあるため、自己中断ではなく相談→評価が安全です。 JACC+1

 

Q2. 降圧薬は一生飲み続けるしかない?

依存性があるわけではありません。生活習慣改善などで医師管理下の減薬・中止が可能な人もいますが、維持できる割合は時間とともに下がるため、挑戦するなら計画的にPMC

 

Q3. 血圧が正常なら、薬をやめてもいい?

多くの場合「薬で正常になっている」ため、やめると上がります。中止は必ず主治医に相談を。 nhs.uk

 

Q4. ジャヌビア(シタグリプチン)は危険?

大規模試験で心血管安全性は確認され、低血糖も起きにくい薬の一つです。一方で、重いアレルギー反応など注意点はあるため、正しい監視と相談が前提です。 New England Journal of Medicine+2FDA Access Data+2

 

Q5. SGLT2阻害薬は脱水が怖い。飲まない方がいい?

心臓・腎臓を守る目的で推奨される場面があり、利益が大きい人がいます。副作用は特徴的なので、脱水時の対応や感染症サインを理解し、医療者と安全設計して使うのが現実的です。 Diabetes Journals+2U.S. Food and Drug Administration+2

 

まとめ:怖いのは“副作用”ではなく、“不安のまま一人で判断すること”

  • スタチンは、血管イベント予防の利益が大きく、重篤な副作用はまれ。 The Lancet+1

  • 降圧薬は、将来の脳卒中や心不全を減らす。中止は医師管理下なら検討余地はあるが、自己判断は危険。 PubMed+2PMC+2

  • 糖尿病薬は薬ごとに「得意分野」と「注意点」が違う。危険の強調ではなく、適材適所と監視が本質。 Diabetes Journals+2New England Journal of Medicine+2

最後に。
薬は、あなたの体を縛るものではなく、**あなたの未来の選択肢を増やす“道具”**です。不安を感じたら、やめる前に、相談してください。

 

執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)

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