SGLT2阻害薬でCKD進行を抑える?透析リスクを下げる腎保護効果・開始タイミング・副作用(脱水/感染/シックデイ)|山形県米沢市 きだ内科クリニック
SGLT2阻害薬でCKD進行を抑える:腎保護効果・透析リスク低下の根拠と安全に使うための注意点
免責:本記事は医学情報の提供を目的とした一般的な解説です。治療の開始・中止や薬の選択は、腎機能(eGFR)、尿蛋白/尿アルブミン(UACR)、併存疾患、服薬状況などで大きく変わります。必ず主治医と相談してください。
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SGLT2阻害薬は、CKD(慢性腎臓病)の進行を抑え、腎不全(透析・腎移植など)に至るリスクを下げうる薬です。糖尿病の有無にかかわらず、腎保護効果が示されています。 PubMed+1
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腎保護の中心は、腎臓の“フィルター(糸球体)”にかかる圧を下げる方向に働く**尿細管糸球体フィードバック(TGF)**などの作用です。開始後にeGFRが少し下がることがありますが、多くは可逆的で、長期的には腎機能低下が緩やかになります。 PMC+1
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KDIGO 2024では、eGFR≥20を目安に、蛋白尿(アルブミン尿)や心不全などの条件を満たすCKD患者にSGLT2阻害薬が推奨されています。 KDIGO
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一方で、脱水・性器感染症・(まれに)正常血糖ケトアシドーシスなどの注意点があり、シックデイルールと手術前の休薬が重要です。 KDIGO+1
1. SGLT2阻害薬とは(何が“腎臓に良い”のか)
SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管で行われる「糖(+ナトリウム)の再吸収」を抑え、尿に糖を排出させることで血糖を下げる薬です。
重要なのは、単なる血糖降下にとどまらず、腎臓・心臓に有利な作用が“多面的”に起こる点です。
2. CKD進行抑制のカギ:糸球体の“圧”を下げる仕組み(TGF)
腎臓は、糸球体という繊細なフィルターで血液をこし、尿を作ります。糖尿病や高血圧などでこのフィルターに過剰な負担(糸球体内圧の上昇・過剰ろ過)がかかると、アルブミン尿(蛋白尿)が増え、腎機能が落ちやすくなります。
SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのナトリウム再吸収も減らすため、遠位側(マクラデンサ)へ届く塩分が増え、**尿細管糸球体フィードバック(TGF)**が働きやすくなります。結果として、糸球体内圧が下がり、過剰ろ過が抑えられ、腎臓が“長持ちしやすい方向”に環境が整います。 PMC
「開始後にeGFRが下がる」=腎障害ではないことが多い
SGLT2阻害薬では、開始後数週でeGFRが平均3〜6 mL/min/1.73m²ほど下がることがあります。これは糸球体内圧の調整に伴う“初期変化”として説明され、長期的には腎機能低下が緩やかになることが期待されます。 PMC+1
3. エビデンス:透析・腎不全リスクをどれくらい下げる?
腎保護効果は「理屈」だけではありません。CKD患者を対象にした大規模臨床試験で、腎アウトカムの改善が一貫して示されています。
DAPA-CKD(ダパグリフロジン)
CKD患者(糖尿病あり・なし両方を含む)で、eGFRの大幅低下・末期腎不全・腎/心血管死などをまとめた複合アウトカムが有意に減少。腎により特化した複合アウトカムでもハザード比0.56が報告されています。 PubMed
EMPA-KIDNEY(エンパグリフロジン)
幅広いCKD患者で、主要評価項目(腎疾患進行または心血管死)がハザード比0.72で有意に低下。eGFRが低めの層(20〜45)も含めた設計で、糖尿病の有無をまたいで一貫した効果が示されています。 PubMed
CREDENCE(カナグリフロジン:2型糖尿病+CKD)
2型糖尿病かつCKDの集団で、主要複合アウトカムがハザード比0.70。末期腎不全のリスク低下も示されています。 PubMed
4. 適応と“いつから始めるか”:eGFRとアルブミン尿がポイント
KDIGO 2024の考え方(開始の目安)
KDIGO 2024のエグゼクティブサマリーでは、次のような推奨が明示されています。 KDIGO
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2型糖尿病+CKD+eGFR≥20:SGLT2阻害薬を推奨
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CKDで、eGFR≥20かつUACR≥200 mg/g(≒高度アルブミン尿):糖尿病の有無を問わず推奨
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心不全があるCKD:アルブミン尿の程度にかかわらず推奨
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いったん開始したら、eGFRが20未満になっても(忍容性があれば)継続が合理的
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開始時の可逆的なeGFR低下は、原則として中止理由にならない
つまり、「eGFRが高いうち(例:50以上)でないと意味がない」というより、腎保護・心保護を狙うならeGFR≥20から検討対象になってきています(血糖低下作用は腎機能で目減りしやすい点は別途考慮)。 KDIGO+1
5. 腎臓にとっての“多面的メリット”
SGLT2阻害薬は、血糖だけでなく以下の方向に働き、結果的に腎臓を守る環境づくりに寄与します(個人差あり)。
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血圧が少し下がる(利尿・ナトリウム排泄増加など)
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体重が少し減る(尿糖排泄によるエネルギー喪失)
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心不全入院リスク低下が複数試験で一貫して示され、CKD患者の予後改善につながりやすい
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腎臓のメカニズムとしてはTGF以外にも、代謝・炎症・線維化など複数仮説があり、“腎保護は一枚岩の作用ではない”と考えられています。 PMC
6. 副作用と注意点:安全に使うための実践ポイント
SGLT2阻害薬は有益な一方、作用機序の裏返しとして注意点があります。
6-1. 脱水・低血圧(特に開始直後)
尿量が増えることがあり、脱水や立ちくらみにつながる場合があります。
高齢者、利尿薬併用、もともと血圧が低めの人は特に注意が必要です。
セルフケアの要点
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のどが渇く前から「こまめな水分」
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下痢・嘔吐・発熱時は“シックデイ”を強く意識(後述)
6-2. 尿路感染・性器感染(カンジダなど)
尿に糖が混じるため、外陰部のかゆみ・痛み・おりものの変化などが出たら早めに受診を。清潔と乾燥が予防に役立ちます。
6-3. 正常血糖ケトアシドーシス(まれだが重要)
SGLT2阻害薬では、血糖がそこまで高くなくてもケトアシドーシスが起こる「正常血糖DKA」が問題になります。
食事摂取不良、脱水、感染、手術、長時間の絶食などが引き金になりえます。 American College of Cardiology+1
すぐ相談したい症状
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強い倦怠感、吐き気・嘔吐、腹痛、息苦しさ、意識がぼんやりする
6-4. 手術前後は要注意(原則“数日前から休薬”)
周術期は絶食・ストレス・脱水などが重なり、正常血糖DKAリスクが上がります。
米国FDAの注意喚起に沿う形で、カナグリフロジン/ダパグリフロジン/エンパグリフロジンは手術3日前から、エルツグリフロジンは少なくとも4日前から中止が推奨として紹介されています。 American College of Cardiology
6-5. 足病変・切断リスク(特にカナグリフロジンでの注意喚起)
カナグリフロジンについては、CANVASなどの結果を受けてFDAが下肢切断リスク増加を注意喚起した経緯があります(発生率の具体例も提示)。 U.S. Food and Drug Administration
一方で、腎アウトカム試験CREDENCEでは切断は有意差がなかったと報告されています。 PubMed+1
実務的には
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末梢動脈疾患、重い神経障害、足潰瘍、切断歴がある人は、薬剤選択も含めて慎重に
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毎日の足チェック(痛み・傷・水疱・色の変化)
7. シックデイルール:体調不良時は“続けない判断”が腎臓を守ることも
KDIGO 2024では、長時間の絶食・手術・重篤な疾患時はSGLT2阻害薬を一時中断することが合理的とされています。 KDIGO
現場ではこれに加えて、次のような“脱水になりやすい状況”も休薬を検討することが多いです(最終判断は主治医へ):
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発熱
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嘔吐・下痢
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食事や水分が取れない
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強い脱水が疑われる
8. たとえ話で理解する:SGLT2阻害薬は腎臓の「高性能な減圧弁」
CKDで傷みやすいのは、糸球体という“繊細なフィルター”。
SGLT2阻害薬は、このフィルターにかかりすぎた圧を下げる方向に働き、フィルター破綻(腎不全・透析)へ向かうスピードを落とすことが期待されます。 PMC+2PubMed+2
ただし、減圧の過程で水分も一緒に出やすくなるため、**「注水=脱水予防」**と、シックデイ・周術期の休薬が安全使用の要です。 KDIGO+1
よくある質問(FAQ)
Q1. 糖尿病がなくてもSGLT2阻害薬は使うの?
CKD試験(DAPA-CKD、EMPA-KIDNEY)では糖尿病の有無にかかわらず効果が示され、KDIGO 2024でも条件を満たすCKDに推奨があります。 PubMed+2PubMed+2
Q2. 腎機能が悪いと血糖が下がりにくいのに、使う意味はある?
血糖改善は腎機能に依存して弱まりやすい一方、腎保護・心保護の目的で使う意義が大きい、というのが近年の位置づけです(開始・継続はeGFRなどで判断)。 KDIGO+1
Q3. 開始後にeGFRが下がったら中止すべき?
開始後の可逆的なeGFR低下は一般に想定され、KDIGO 2024でも「それ自体で中止理由にならない」とされています。もちろん例外はあるので、自己判断ではなく主治医に確認してください。 KDIGO+1
まとめ
SGLT2阻害薬は、CKDの進行抑制と腎不全リスク低下に関して、複数の大規模試験で裏づけられた“腎臓を守る薬”の代表格です。 PubMed+2PubMed+2
一方で、脱水、感染症、(まれに)正常血糖DKAなどのリスク管理が不可欠。シックデイルールと手術前休薬を含め、医師・薬剤師と一緒に安全な運用設計をすることが、効果を最大化する近道です。 KDIGO+1
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
