健康診断“異常なし”でも要注意|専門医が警告する「隠れ動脈硬化」10のサインと早期対策
健康診断で「異常なし」でも“隠れ動脈硬化”を疑うべきサイン10選
I. 血行動態(血圧のパターン)に現れる客観的サイン
動脈硬化は、単に「上の血圧・下の血圧」だけではなく、その裏にある血管の硬さ・弾力性・血流の状態にじわじわと現れます。
サイン1:脈圧(Pulse Pressure: PP)が広がっている
脈圧とは、収縮期血圧(上の血圧)−拡張期血圧(下の血圧)で求められ、
主に大動脈や太い動脈の硬さを反映する指標です。
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望ましい脈圧:30〜50 mmHg
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60 mmHg以上 → 大動脈の弾力性(コンプライアンス)が低下し、動脈硬化が進んでいる可能性が高いサイン
上の血圧だけでなく、「差」にも注目することが重要です。
サイン2:左右の腕で血圧差が15 mmHg以上ある
健診では片腕だけで測ることが多いですが、本来は左右で血圧を比べることが大切です。
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左右の腕の収縮期血圧の差が15 mmHg以上ある場合
→ 血圧が低い側の腕へ向かう動脈(主に鎖骨下動脈など)に、**狭窄や閉塞(局所的動脈硬化)**がある可能性があります。
これは、局所だけでなく全身のプラーク負荷が高い、不安定プラークが存在する可能性を示す警告サインにもなります。
サイン3:平均血圧(MAP)がじわじわ高い
平均血圧(Mean Arterial Pressure: MAP)は、
脳や腎臓などの細い血管(抵抗血管)が受けている慢性的な圧負荷を表し、細動脈硬化の進行度合いを反映します。
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望ましいMAP:100 mmHg未満
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100 mmHg以上:細い血管の硬化が進行している可能性
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120 mmHg以上:細動脈硬化がかなり進んでいると考えられる
たとえ「高血圧の診断基準未満」の血圧でも、MAPが高い場合は、臓器の微小循環障害のリスクが高まっていると判断すべきです。
II. 生化学・代謝リスク(“数値は正常”でも見逃せない脂質の質と組み合わせ)
総コレステロールやLDLコレステロールが基準値内でも、粒子の質や代謝異常の組み合わせから、隠れた動脈硬化リスクを読み取ることができます。
サイン4:小型LDL(sd-LDL)が高い
LDLの中でも特に小さく密度の高い粒子は、
「超悪玉コレステロール」と呼ばれる 小型LDL(sd-LDL) です。
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血液中に長く滞留しやすい
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粒子が小さいため、血管壁の中に入り込みやすい
→ 動脈硬化を急速に進める主犯格
総LDLが正常でも、sd-LDL高値の場合は、将来の心筋梗塞・脳梗塞のハイリスク群と考える必要があります。
サイン5:リポ蛋白(a)[Lp(a)]が高め
リポ蛋白(a)[Lp(a)]は、アテローム動脈硬化の強力な独立危険因子で、その値はほぼ遺伝で決まる体質です。
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Lp(a)高値 → 生まれつきのハイリスク体質
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家族性高コレステロール血症(FH)と重なると、**全身の動脈に病変が多発(Polyvascular Disease)**しやすいことが報告されています。
「コレステロール値はそこそこだけど家族歴が強い」という方は、Lp(a)を一度チェックしておく価値があります。
サイン6:内臓脂肪型メタボ予備軍
メタボリックシンドローム(MetS)は、
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内臓脂肪型肥満(腹囲:男性85 cm以上、女性90 cm以上)
+ 軽度の高血圧・高血糖・脂質異常のうち2つ以上
が揃った状態です。
各項目がギリギリ基準値内であっても、内臓脂肪が多い人ではリスクが相乗的に増大し、
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血管内皮機能の低下
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プラーク形成の加速
を通じて、心筋梗塞や脳卒中の危険が有意に高くなります。
さらに、
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TG/HDL比が2.5以上
の場合は、インスリン抵抗性の存在と、動脈硬化を促進するsd-LDLの増加が強く示唆されます。
III. 自覚症状として現れる「見逃しがちな血管リスク」
動脈硬化は基本的に無症状で進行しますが、特に脳や末梢血管で血流不足が始まると、軽い「異変」として現れることがあります。
サイン7:一過性の神経症状(TIA様症状)
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手足のしびれ・脱力
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呂律が回らない
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言葉が出にくい
これらは、**一過性脳虚血発作(TIA)**の典型症状です。
症状が自然に回復するため放置されがちですが、TIAは
将来の脳梗塞発症を強く予告する“赤信号”
であり、健診の数値が正常でも、すでに脳血管イベントを一度起こしている状態とみなすべき、非常にハイリスクなサインです。
サイン8:足先の冷え・しびれが続く
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足先がいつも冷たい
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しびれ感が長期間続く
こうした症状は、**閉塞性動脈硬化症(ASO)**の初期段階(第1期)である可能性があります。
「年のせい」「冷え性」と片付けられがちですが、すでに末梢動脈に血流を妨げるプラークが存在している証拠であり、全身の動脈硬化がかなり進んでいることを示します。
サイン9:軽い運動での動悸・息切れ・疲れやすさ
階段の上り下りや、少し早歩きをしただけで
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異常に疲れる
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動悸が強い
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息切れが気になる
といった変化が出てきた場合、冠動脈硬化(心臓の血管の動脈硬化)や心機能低下の初期サインの可能性があります。
心臓を栄養する冠動脈が徐々に狭くなり、心臓の“予備力”が低下している安定狭心症の前段階かもしれません。
IV. 全身性炎症と生活習慣に潜むサイン
血液検査の数値自体が正常でも、慢性炎症や生活習慣が血管を静かに傷つけ続けることがあります。
サイン10:進行した歯周病がある
重度の歯周病は、単なる「歯と歯ぐきの病気」ではなく、**全身の血管に悪影響を与える慢性炎症の“火種”**です。
歯周病の炎症巣から放出される物質が血流に乗って全身に広がり、
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血管内皮機能を障害
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プラーク形成と不安定化を促進
することがわかっています。
研究では、歯周病がある人は、ない人に比べ
脳梗塞リスクが約2.8倍 に増加する
と報告されており、健診の数値が正常でも、口腔内の慢性炎症が隠れ動脈硬化のドライバーになっている可能性があります。
総合評価と「早めに動く」ことの重要性
動脈硬化は、多くの人で30代頃からすでに始まっているとされ、放置すると
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心筋梗塞
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脳梗塞
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腎不全
など、命や生活の質を大きく損なう病気につながります。
上記10のサインのうち1つでも当てはまる場合は注意、
複数当てはまる場合は、たとえ健診で「異常なし」と言われていても、積極的に血管の精密評価を受けることが勧められます。
おもな高度血管検査と役割
| 検査 | 何がわかるか | 主に見ている異常 | 動脈硬化のステージ |
|---|---|---|---|
| FMD検査(血流依存性血管拡張反応) | 血管内皮の機能 | 血管拡張能の低下 | ごく早期の機能的変化 |
| 頸動脈エコー(IMT測定) | 血管壁の構造 | 内膜中膜肥厚(IMT)、プラーク | 初期〜中期の構造変化 |
| 血圧脈波検査(ABI/PWV/CAVI) | 血管の硬さ・詰まり具合 | 動脈の硬化度・下肢動脈の狭窄 | 機能・構造の総合評価 |
生活習慣でできる“血管の若返り習慣”
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禁煙の徹底(最重要)
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週合計150分以上を目標とした有酸素運動
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青魚・オリーブオイルなどを取り入れた脂質の質を意識した食事
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適正体重の維持・減量
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ストレスマネジメント・質の良い睡眠
動脈硬化は「沈黙の殺し屋」であり、「健診で異常なし=血管も健康」とは限りません。
境界域の数値(例:LDL-Cが基準値ギリギリ、脈圧がやや高い、TG/HDL比が高め など)や、今回の10のサインに心当たりがある場合は、早めに医療機関で相談し、自分の血管年齢をチェックしておくことが、将来の心筋梗塞・脳梗塞を防ぐ最大の予防策となります。
