【医師解説】大腸がん検診は74歳まで?75歳以降の“続ける/卒業”の決め方|山形県米沢市 きだ内科クリニック
大腸がん検診は何歳まで続ける?「74歳」が目安—75歳以降の大腸カメラはどう判断する?
大腸がん検診は何歳まで受けるべき?日本の最新指針では「74歳」が目安。75歳以降に大腸カメラを続けるかは、期待余命・体力・過去の検査結果・合併症リスクで個別判断。判断のポイントを医療根拠とともに解説します。
結論:日本の対策型(住民)検診は「74歳まで」が原則。75歳以降は“体力と既往”で個別判断
日本の最新の考え方では、便潜血検査(免疫法:FIT)による対策型検診の対象年齢は「40〜74歳」が推奨され、終了年齢は74歳が望ましいとされています。終了年齢が設けられた背景には、高齢になるほど精密検査(大腸内視鏡)や治療に伴う偶発症・合併症が増え、利益と不利益のバランスが崩れやすい点があります。ncc.go.jp
一方で、75歳以降に検査を“絶対にやめる”という意味ではありません。
大切なのは「年齢」そのものより、次の条件を総合して判断することです(後述):
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期待余命(目安:10年以上か)
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日常生活動作(ADL)と前処置(下剤)に耐えられる体力
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過去の大腸カメラ結果(クリーンか、ポリープ歴があるか)
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合併症(心臓・腎臓・貧血など)と、内視鏡のリスク
まず整理:大腸がん検診=「便潜血(FIT)」が基本。大腸カメラは“精密検査”の位置づけ
日本の公的な流れはシンプルです。
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一次検査:便潜血検査(免疫法:FIT)
食事制限などが原則不要で、便中のヒトヘモグロビンを測定します。ncc.go.jp -
二次検査(精密検査):大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
重要ポイントとして、国立がん研究センターの整理では、便潜血(免疫法)は推奨グレードAである一方、**「全大腸内視鏡検査を“検診として”対策型で実施することは現状では推奨しない(推奨グレードC)」**とされています。ncc.go.jp
(※ただし、便潜血陽性者の精密検査としての内視鏡の重要性は別問題で、臨床的に非常に重要です。)
【日本】何歳まで?最新指針の要点(2024年度版のポイント)
国立がん研究センターの発表では、便潜血検査(免疫法)の運用について、次が明示されています。
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対象年齢:40〜74歳を推奨(45歳または50歳開始も許容)ncc.go.jp
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終了年齢:74歳が妥当(高齢者では精密検査や治療に伴う偶発症・合併症を考慮)ncc.go.jp
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検診間隔:1年→2年も可能ncc.go.jp
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採便回数:1回法・2回法どちらも可能ncc.go.jp
さらに、便潜血(免疫法)の検査性能として、**感度84%、特異度92%**が示されています。ncc.go.jp
【海外】米国ではどうなっている?(75歳以降は“個別判断”が明確)
米国USPSTF(予防医学専門委員会)は年齢をより細かく分けています。
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45〜75歳:推奨(Grade A/B)
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76〜85歳:選択的に実施(Grade C)
「全員に一律」ではなく、健康状態・過去の受診歴・本人の希望を踏まえて判断。USPSTF -
85歳超:中止(discontinue)USPSTF
またUSPSTFは選択肢として、FIT(毎年)やCTコロノグラフィ(5年ごと)、**大腸内視鏡(10年ごと)**など複数の戦略を提示しています。USPSTF
75歳以降に“大腸カメラを続けるか”を決める4つの基準
ここからが本題です。75歳を超えると、同じ年齢でも体の状態は大きく分かれます。判断軸は「年齢」ではなく次の4つです。
1) 期待余命:メリットが出るまで“年単位”で時間がかかる
がん検診は、受けてすぐに死亡率が下がるものではありません。
便潜血検査(FOBT/FIT系)でも、死亡を1件防ぐ効果が観察されるまでに平均で約10年かかり得る、という「Time lag to benefit(効果が出るまでの時間)」の概念が知られています。PubMed
目安:
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期待余命が10年以上見込める → 検診の恩恵が得られる可能性が上がる
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10年未満が強く疑われる → 不利益(合併症・負担)が上回りやすい
(※期待余命は“年齢だけ”で決めず、持病やフレイルの有無で大きく変わります。)
2) 体力(ADL)と前処置への耐性:高齢者は“検査前”が一番きついことがある
大腸カメラは検査そのものより、**前処置(下剤・頻回のトイレ移動・脱水リスク)**が負担になりやすい検査です。
「普段は元気でも、前日に体調を崩す」ケースが高齢者では現実に起こります。
3) 過去の検査結果:クリーンコロンなら“間隔を空ける/卒業”の合理性が増える
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直近の大腸カメラで異常なし(クリーン)
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あるいはポリープがあっても、低リスクで適切に切除済み
この場合、短い間隔で繰り返す必然性は下がります。
逆に、進行腺腫・多発ポリープ・大腸がん治療歴がある人は、一般論より厳密なフォローが必要なので、主治医の計画が優先です。
4) 過剰診断・過剰治療:見つけなくてよかった病変を拾うリスク
高齢になるほど問題になるのがこれです。
“寿命に影響しないゆっくりした病変”を拾い、切除や手術・入院がかえって体力を落とす——この逆転現象が起こり得ます。
高齢者の大腸カメラで増えるリスク:データで知っておくべきこと
大腸内視鏡は有用な検査ですが、年齢が上がるほど偶発症は増えます。
たとえば大規模研究では、75歳以上は50〜74歳に比べて、内視鏡後30日以内の合併症(救急受診・入院など)が増え、オッズ比2.3と報告されています。JAMA Network
同研究では合併症の累積発生が 75歳以上で6.8%、50〜74歳で2.6% とされています。JAMA Network
代表的なリスク
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出血(特にポリープ切除後)
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穿孔(頻度は高くないが重い)
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循環器系イベント(高齢・心疾患・腎疾患があると注意)JAMA Network
それでも「75歳以降にも利益がある人」はいる(ただし条件つき)
75歳超のスクリーニングに関しては、ランダム化試験が少ない一方、観察研究で示唆が出ています。
JAMA Oncologyのコホート研究では、75歳以降のスクリーニング内視鏡が大腸がん死亡の低下(HR 0.60)と関連し、概ね“約40%低下”に相当します。JAMA Network
ただし同研究でも、心血管疾患などの重い併存疾患がある層では利益が見えにくいことが示されています。JAMA Network
つまり、75歳以降はこう考えるのが合理的です:
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元気で合併症が少ない/未受診だった → 検討価値あり
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フレイル・重い持病がある/前処置が難しい → “やらない”も賢い選択
体力的に内視鏡がつらい人の代替案:FIT継続やCTコロノグラフィという選択肢
「大腸カメラが厳しい=何もしない」だけではありません。
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便潜血検査(FIT):侵襲が小さく、継続しやすい
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CTコロノグラフィ(大腸CT):内視鏡より侵襲が少ない選択肢として提示されることがある(米国指針では選択肢に含まれる)USPSTF+1
※ただし、どの検査でも異常が出れば、最終的に内視鏡が必要になる場合があります。American Cancer Society
年齢に関係なく、検診ではなく「受診」が優先になる症状
次の症状がある場合、年齢の上限議論とは別で、“症状の評価(診断)”が優先です。
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血便(鮮血〜黒っぽい便)
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便秘と下痢の繰り返し、便が細いなどの便通変化
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原因不明の貧血
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体重減少、腹痛、食欲低下
75歳以降の「続ける/やめる」を決めるチェックリスト(医師に見せてもOK)
次のうち、✅が多いほど「続ける」側に傾きます。
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✅ 自力で外出でき、前処置(下剤・トイレ移動)をこなせそう
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✅ 大きな心不全・重い腎不全・最近の脳梗塞などがない
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✅ これまで一度も検診を受けていない(未受診)
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✅ 期待余命が10年以上と見込まれる(主治医と相談)PubMed+1
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✅ 本人が「受けたい」と明確に希望している(意思がはっきりしている)
逆に、次が多いほど「卒業」側に傾きます。
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✅ 前処置で脱水やせん妄が心配
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✅ 転倒リスクが高い/頻回のトイレ移動が危険
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✅ 直近の大腸カメラがクリーンで、低リスク
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✅ 検査で何か見つかったときに、治療まで望まない
まとめ:大腸がん検診は「74歳まで続け、75歳以降は卒業も含めて個別判断」が現実的
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日本の対策型検診は 40〜74歳が推奨、終了は74歳が望ましい。ncc.go.jp+1
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75歳以降は、期待余命(10年以上か)・体力・過去の結果・合併症リスクで判断する。PubMed+1
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75歳以降でも利益が示唆される研究はあるが、持病が重い人ほど利益が小さくなり得る。JAMA Network
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大腸カメラは有用だが、75歳以上では合併症が増えることをデータで知った上で選ぶ。JAMA Network
たとえ話:検診は「家のメンテナンス」
40〜70代は床下点検(検診)と補修(ポリープ切除)が“長持ち”に効きます。
一方、超高齢期は「大掛かりな点検そのものが柱を傷める」こともある。だからこそ、“いつまで点検するか”も健康戦略です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 74歳を過ぎたら、もう便潜血検査も受けない方がいい?
「対策型検診の推奨年齢」が74歳まで、という整理です。ncc.go.jp
75歳以降は、体力・持病・本人の希望で“続ける/卒業”を話し合うのが現実的です。
Q2. 便潜血が陽性なら、何歳でも大腸カメラは必要?
原則は精密検査が検討されますが、高齢・フレイル・重い持病がある場合は、合併症リスクも踏まえて医師と方針を決めるのが安全です。JAMA Network+1
Q3. 人間ドックの“大腸カメラ”は毎年受けるべき?
「毎年」が最適とは限りません。過去の所見(ポリープの種類や数)によって適切な間隔は変わるため、前回結果に基づいて間隔を設計するのが合理的です。
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
