低フェリチン(隠れ貧血)が脳の疲労とメンタル不調を招く理由|専門医が最新エビデンスで解説【きだ内科クリニック】
【専門医が解説】低フェリチン(隠れ貧血)が“脳の疲労”とメンタル不調を引き起こす理由|鉄不足の最新エビデンス
ヘモグロビンは正常なのに、なぜこんなに疲れるのか?
朝起きられない、集中できない、気分が落ち込む──その原因は「低フェリチン(隠れ貧血)」かもしれません。
低フェリチンとは、血液検査のヘモグロビン値が正常でも、
貯蔵鉄(フェリチン)が不足している“潜在性鉄欠乏症” の状態を指します。
近年、低フェリチンが 脳の疲労・メンタル不調・睡眠障害・自律神経トラブル など、
身体と心の不調の主要な原因であることが明らかになってきました。
1. 隠れ貧血(低フェリチン)とは?|Hbが正常でも鉄不足は起こる
鉄欠乏は次の順に進行します:
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フェリチン(貯蔵鉄)が減る
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血清鉄が減る
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Hbが下がり“貧血”になる
つまりフェリチン低下は、最も早く現れる鉄不足のサイン。
● 診断基準
日本鉄バイオサイエンス学会では:
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Hb正常(女性12.0g/dL以上)
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フェリチン12ng/mL未満
を「潜在性鉄欠乏」と定義。
ただし臨床的には
フェリチン25ng/mL未満 → 鉄不足の可能性大
フェリチン50ng/mL未満 → 明らかな鉄欠乏
と判断することも多いです。
● 日本人女性は“世界トップクラスの鉄欠乏”
月経のある女性の 約50%が隠れ貧血 と推定。
慢性的な疲労やメンタル不調の大きな原因となっています。
2. 低フェリチンが引き起こす「脳の疲労」の正体
鉄は、赤血球だけでなく 脳のエネルギー代謝(ミトコンドリア)や神経伝達物質の合成 に必須。
そのため、貧血に至る前の段階でも以下の症状が出ます。
● 慢性的な疲労・倦怠感
鉄不足は筋肉内のミオグロビンやミトコンドリアの働きを低下させるため、
✔ 疲れやすい
✔ 筋力が落ちる
✔ 常にだるい
といった症状が現れます。
● 集中力低下・思考力の鈍化
鉄不足 → 脳への酸素供給低下+神経伝達物質不足
→「脳のパフォーマンス」が低下。
大規模調査では、集中力低下のある女性はフェリチン値が明らかに低値という結果も。
● 睡眠障害(朝起きられない/眠りが浅い)
鉄は「睡眠ホルモン」メラトニンの生成に必要。
そのため、
✔ 朝起きられない
✔ 中途覚醒
✔ 不眠
✔ 寝ても疲れが取れない
といった症状の原因に。
● めまい・立ちくらみ・頭痛
鉄不足は脳の酸素供給を低下させるため、
自律神経の乱れによる頭痛・めまい・立ちくらみも頻発。
3. メンタル不調との“深すぎる関係”
鉄は精神の安定に必要な セロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリン など、
脳の神経伝達物質の生成に必須。
● セロトニン不足 → 気分の落ち込み・不安
鉄不足 → セロトニン合成低下
→ メンタルが不安定になりやすい。
● ドーパミン不足 → 意欲低下・やる気が出ない
「何もしたくない」
「仕事に集中できない」
といった症状は、鉄不足が背景にあることが多い。
● ストレスに弱くなる(ストレス脆弱性)
鉄不足 → 脳のストレス耐性が低くなる
→「軽いストレスでも落ち込みやすい」状態に。
● うつ病・不安障害との関連
疫学研究では、
鉄欠乏性貧血とうつ症状に“正の相関” があることが報告。
鉄欠乏モデル動物では
・うつ様行動の増加
・セロトニン神経の減少
が確認されています。
● むずむず脚症候群(RLS)の原因
鉄不足 → ドーパミン機能低下
→ RLSの主要原因に。
● 産後うつとの関連
妊娠・出産で大量の鉄が失われるため、
鉄欠乏は 産後うつの大きなリスク因子 とされています。
4. 鉄補充で改善する症状は多い
低フェリチンによる不調は、鉄を補うことで劇的に改善 する場合があります。
● メタアナリシス:鉄補充で疲労改善が有意
非貧血性鉄欠乏の患者でも、
鉄剤投与で 疲労・倦怠感が有意に改善。
● 低フェリチン(15ng/mL以下)では
✔ 全身の疲れ
✔ 氷食症
✔ 不安・うつ
✔ 眠気
✔ 集中力低下
が改善したという報告も。
● 鉄の補給方法
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食事(赤身肉・魚・レバー・卵など)
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ヘム鉄サプリ
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鉄剤(医師の処方)
ビタミンCや動物性たんぱく質と一緒に摂ると吸収率UP。
🔚【まとめ】
低フェリチン(隠れ貧血)は、
脳の疲労・メンタル不調・睡眠障害・自律神経の乱れ の大きな原因。
ヘモグロビンが正常でも、
✔ 朝起きられない
✔ 疲れやすい
✔ 気分が落ち込む
✔ 集中できない
✔ PMSがつらい
などがある場合は、まず フェリチン値のチェック が重要です。
「原因不明の不調」の多くは、鉄を補うだけで改善します。
