夜中にお腹が痛い原因は?危険サインと対処法|米沢市 きだ内科クリニック
夜中に腹痛で目が覚めると、「様子見でいい?」「救急?」と不安になります。夜間の腹痛は、胃酸、寝る姿勢、食習慣の影響で起こることもありますが、胆石発作、虫垂炎、尿路結石、腸閉塞、膵炎など治療が必要な病気が隠れている場合もあります。
※本記事は一般的な医療情報です。強い痛みや不安がある場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。
夜中に腹痛が起こりやすいメカニズム
夜中に腹痛が起こりやすいメカニズムとして、以下の4つが考えられます。
空腹と胃酸:潰瘍は「夜・空腹」で痛みが出やすい
食事がない時間が長いと、胃酸が粘膜を刺激しやすくなります。消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)では、空腹時や夜間に痛みが出て、食事で一時的に軽くなるタイプが知られています。
横になると逆流:胸やけ・みぞおち痛が悪化しやすい
横になると重力の助けが弱まり、胃内容物が食道へ逆流しやすくなります。逆流性食道炎(GERD)は就寝中に胸やけ、みぞおちの痛み、咳などで目が覚めることがあります。対策として、就寝前の食事を避ける、上半身を高くするなどが推奨されています。
自律神経と「痛みの感じやすさ」
リラックス時に働きやすい副交感神経(迷走神経系)は、消化管の運動や分泌に関わります。一方で、健常者では腸の運動は夜間に全体として低下しやすいともされ、「動きが増える」だけが原因ではありません。夜は周囲の刺激が減るため、ガスや張り、軽いけいれんなどを痛みとして自覚しやすいこともあります。
寝る直前の食事・脂っこい夕食・飲酒
GERD対策として、就寝前2〜3時間は食事を避けることがガイドラインで提案されています。脂肪の多い食事やアルコールは、逆流症状を悪化させたり、胆のうの収縮を促して胆石発作の引き金になることがあります(後述)。
夜中の腹痛で考えられる主な病気(症状のヒント付き)
ここからは「どこが、どう痛むか」で整理します。夜に目が覚めるほどの痛みは“要注意”です。
みぞおち〜上腹部が痛い場合に考えられる病気
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逆流性食道炎(GERD):横になると悪化しやすい。胸やけ、酸っぱいものが上がる、咳など。対策として就寝前の食事回避や頭側を上げる。
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消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍):空腹時や夜間に痛み、食事で一時的に軽快することがある。
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急性膵炎:上腹部痛が背中へ響く、発熱、吐き気・嘔吐など。強い痛みなら救急評価が必要です。
右上腹部〜みぞおち、背中や右肩に響く場合に考えられる病気
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胆石発作(胆石症/胆道疝痛):右上腹部の強い痛み、背中や右肩に放散、吐き気を伴うことがある。
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胆のう炎(胆石が原因のことも):右上腹部の強い痛み+発熱、押すと痛いなど。症状が持続する場合は早急な受診が必要。※「脂っこい夕食の後、夜に起きる」パターンは胆のう由来の痛みでみられます。
右下腹部が痛い(時間とともに場所が移る)場合に考えられる病気
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虫垂炎(いわゆる盲腸):痛みがへそ周辺から始まり、右下腹部へ移動することがある。動くと悪化、発熱や吐き気を伴うことも。
脇腹〜背中が突然激痛、波がある/鼠径部に放散する場合に考えられる病気
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尿路結石:突然の強い痛みが波のように増減し、下腹部や鼠径部へ放散することがあります。血尿がヒントになることも。
お腹全体の張り・けいれん+吐き気、ガスや便が出ない場合に考えられる病気
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腸閉塞(イレウス):腹痛、嘔吐、腹部膨満、便やガスが出ないなど。疑う場合は救急受診が必要。
ストレス・体質(機能性)が原因の場合
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過敏性腸症候群(IBS):腹痛と便通異常が続く病気ですが、専門家向けのガイドでは「睡眠から目が覚める痛みや下痢」は別の病気も検討すべき“警告所見”とされています。
女性に多い原因も
生理痛、子宮内膜症、卵巣のトラブル、妊娠関連などでも夜間に下腹部痛が出ます。妊娠の可能性がある、不正出血がある、片側の強い痛みは早めに受診してください。
すぐ受診すべき「危険サイン」(夜間でも救急を検討)
次のいずれかがあれば、救急外来の受診や救急要請(119)を迷わないでください。
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突然の激痛、どんどん悪化する痛み
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吐血、便が黒い(タール便)/血便
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高熱、ぐったり、冷や汗、意識がぼんやり
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嘔吐が止まらず水分が取れない
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お腹が張って強く痛む、触ると強い痛み
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尿が出ない、便もガスも出ない(腸閉塞などの可能性)
今夜できる対処法(危険サインがない・軽い痛みの場合)
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まず食べるのをやめる(胃腸を休ませる)
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姿勢を調整
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胸やけ・みぞおち痛が主なら、左側を下にして寝る、または上半身を少し高く。左側臥位は夜間の酸曝露を減らす報告があります。
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水分は少量ずつ(嘔吐がなければ)
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市販薬は“目的に合うもの”を短期間
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胸やけ中心なら制酸薬などが一時的に役立つことがあります(薬剤師にも相談を)。
※ただし、吐血・黒色便・強い痛みがあるのに鎮痛薬で抑え込むのは危険です。
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温めるのは慎重に
ガス・冷え・軽いけいれんなら温めて楽になることもありますが、局所の強い痛み(右下腹部など)や発熱があるときは避け、受診を優先してください。
受診の目安:迷ったときの相談先
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「救急車を呼ぶべき?今すぐ受診?」と迷う:#7119(救急安心センター)
医師・看護師等が症状を聞き取り、救急要請や受診先の案内を行います(地域により番号が異なる場合があります)。 -
子どもの夜間症状で迷う:#8000(こども医療電話相談)
休日・夜間に、小児科医師・看護師に相談でき、必要な受診の目安を得られます。
再発を減らす予防策(よく効く生活習慣)
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就寝2〜3時間前までに食事を終える(特に逆流症状がある人)
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夜間の胸やけがあるなら、頭側を上げる(枕を重ねるより、寝具全体の傾斜が推奨されます)
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「左向き」で始める(逆流が気になる人)
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脂っこい夕食で右上腹部痛が出るなら、胆のう疾患の可能性もあるため受診を
よくある質問(FAQ)
| Q. 夜中に腹痛で目が覚めたら、IBSですか? | A. IBSのこともありますが、夜間に目が覚める痛みや下痢は“赤旗(要精査)”とされ、他の病気の除外が大切です。 |
|---|---|
| Q. 左向きで寝ると本当に楽になりますか? | A. 逆流が原因の場合、左側臥位で夜間の食道酸曝露が減ったという報告があり、Mayo Clinicでも就寝時に左側から始める助言があります。 |
| Q. 受診すべきサインは? | A. 吐血、黒色便、激痛、発熱、嘔吐が止まらない、腹部の強い圧痛や膨満などは、すぐの医療評価が推奨されます。 |
執筆・監修:きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
