メニュー

急性腹症とは?腹痛の部位別鑑別(右下腹部・心窩部など)と危険サイン

[2025.12.10]

急性腹症(Acute Abdomen)とは?まず押さえる定義と重要ポイント

 

 

急性腹症(Acute Abdomen)とは、一般に発症から1週間以内に出現した急激な腹痛を主訴とし、手術を含む迅速な判断・対応が必要となり得る腹部疾患群の総称です。

 

急性腹症の診断では、まず

  • 痛みの部位(どこが痛いか)

  • 痛みの性状(どんな痛みか)

  • 発症様式(突然か、徐々にか、移動するか)

  • 随伴症状(嘔吐・発熱・下痢・血便・ショックなど)

  • 身体所見(腹膜刺激徴候の有無)
    を組み合わせて、緊急度を見極めます。

 

特に痛む場所は、原因臓器を絞り込む最大の手がかりになります。以下に、腹痛の部位別鑑別を整理します。

 

腹痛の原因を特定する:部位別鑑別診断

 

腹部を「右上腹部」「心窩部」「右下腹部」などに分け、痛みの中心(最も痛い場所)を確認すると鑑別が進みます
※ただし、虫垂炎のように痛みが移動する病気もあるため、経過も重要です。

 

右上腹部痛(右季肋部痛)

 

胆嚢・胆管・肝臓が中心です。

まず鑑別したい主な疾患

  • 急性胆嚢炎、急性胆管炎、胆石症

  • 肝炎、肝膿瘍、肝腫瘍

 

その他の重要鑑別(腹腔外も含む)

  • 十二指腸潰瘍穿孔

  • 右尿管結石、腎盂腎炎

  • 右下葉肺炎

  • Fitz-Hugh-Curtis症候群(肝周囲炎)

 

臨床のヒント

  • 胆石発作・胆嚢炎では、右肩甲骨下部への放散痛(関連痛)を伴うことがあります。

 

 

心窩部痛(みぞおちの痛み)

 

食道・胃・十二指腸・膵臓が多い一方、致死的な循環器疾患も紛れます。

主な疾患

  • 胃・十二指腸潰瘍、胃炎、食道炎

  • 胃アニサキス症

  • 急性膵炎

 

絶対に外したくない重要鑑別

  • 急性心筋梗塞(特に下壁梗塞)

  • 大動脈解離

  • 初期の急性虫垂炎

 

臨床のヒント

  • 虫垂炎は初期に心窩部〜臍周囲痛として始まり、後に右下腹部へ移動することがあります。

  • 心筋梗塞リスクがある場合、「腹部所見が乏しい心窩部痛」でも心電図は必須です。

 

左上腹部痛

 

頻度は比較的低いものの、出血性ショックを伴う疾患に注意が必要です。

主な疾患

  • 脾梗塞、脾破裂、脾膿瘍

  • 急性膵炎

  • 胃潰瘍

  • 腎結石

 

臨床のヒント

  • 脾動脈瘤破裂や脾破裂など、出血で急変する病態を念頭に置きます。

 

右下腹部痛

 

消化管・泌尿器・婦人科が集中する「鑑別が広い部位」です。

主な疾患

  • 急性虫垂炎

  • 大腸憩室炎(右側型)

  • 回盲部疾患(クローン病など)

  • 尿管結石

 

婦人科疾患(女性では必須の鑑別)

  • 異所性妊娠(子宮外妊娠)

  • 卵巣茎捻転、卵巣出血

  • 骨盤内炎症性疾患(PID)

 

臨床のヒント

  • 右下腹部痛=虫垂炎と決めつけず、憩室炎・尿管結石・婦人科疾患を同時に評価します。

  • 妊娠可能年齢では妊娠反応検査が推奨されます。

 

左下腹部痛

 

S状結腸・下行結腸が中心で、血便を伴う病態も含まれます。

主な疾患

  • 大腸憩室炎(左側に多い)

  • 虚血性腸炎

  • S状結腸軸捻転

  • 尿管結石

  • 婦人科疾患(異所性妊娠、卵巣疾患など)

 

臨床のヒント

  • 虚血性腸炎では、腹痛→下痢や鮮血便の順に起こることがあります。

 

臍周囲痛

 

小腸疾患血管系疾患が重要です。

主な疾患

  • 初期の急性虫垂炎

  • 腸閉塞(小腸閉塞)

  • 腸間膜動脈閉塞症

  • 腹部大動脈瘤(AAA)

 

臨床のヒント

  • 腸閉塞は間欠的な疝痛(周期的に強くなる痛み)が特徴です。

  • 血管系(腸間膜虚血、AAAなど)は重篤になり得るため、疑えば優先度を上げます。

 

下腹部正中痛(恥骨上部痛)

 

膀胱・子宮・直腸が疑われます。

主な疾患

  • 膀胱炎、尿閉

  • 子宮内膜症、子宮筋腫

  • 骨盤腹膜炎

 

腹部全体の痛み/部位がはっきりしない

 

緊急疾患が含まれます。

主な疾患

  • 汎発性腹膜炎、消化管穿孔

  • 腸閉塞

  • 腸間膜動脈閉塞症

  • 腹部大動脈瘤破裂

 

腹部以外・全身性の鑑別

  • 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)

  • 急性ポルフィリン症

  • IgA血管炎 など

 

急性腹症の診断:痛みの性質・経過・随伴症状

 

痛みの種類(内臓痛/体性痛/関連痛)

  • 内臓痛:鈍い痛み、局在が不明瞭。閉塞や伸展で起こり、疝痛になりやすい

    • 例:腸閉塞、尿管結石

  • 体性痛:鋭い持続痛、局在が明瞭。体動・咳で悪化しやすい

    • 例:腹膜炎

  • 関連痛:原因臓器から離れた場所が痛む

    • 例:胆道系疾患で右肩への痛み

 

発症様式(突然発症は“血管・穿孔”を疑う)

  • 突然発症(痛みの開始時刻がはっきり)
    → 破裂(AAA)・閉塞(塞栓)・穿孔などを強く示唆

  • 痛みの移動
    → 虫垂炎(心窩部/臍周囲 → 右下腹部)
    → 大動脈解離(痛みが移動)
    などは診断価値が高い所見です。

 

随伴症状(嘔吐・ショックは緊急度を上げる)

  • 嘔吐・悪心:閉塞や腹膜刺激で起こる

    • 虫垂炎は「腹痛が先行して、その後嘔吐」が典型

    • 嘔吐が先行するなら胃腸炎なども鑑別

  • ショック(血圧低下・意識変容・冷汗)
    → AAA破裂、異所性妊娠破裂、重症膵炎、敗血症など
    蘇生+外科的介入判断が最優先

 

重要な身体所見(腹膜刺激徴候とCarnett徴候)

  • 腹膜刺激徴候:筋性防御(デファンス)、反跳痛(ブルンベルグ徴候)、打診痛
    → 腹膜炎を示唆

  • Carnett徴候:腹筋に力を入れて圧痛が増強
    → 腹腔内ではなく腹壁由来の痛み(例:ACNESなど)を示唆

 

見落としやすい「特殊状況」

 

女性(妊娠可能年齢)

  • 腹痛では必ず異所性妊娠(子宮外妊娠)の除外を意識

  • 妊娠反応検査が推奨

 

高齢者

  • 典型症状に乏しく、重症でも発熱・白血球上昇が軽いことがある

  • 診断が遅れやすいため、CTの閾値を下げることが重要

 

腹腔外疾患(腹部以外が原因)

  • 心筋梗塞、肺炎、胸膜炎

  • 精巣捻転

  • 帯状疱疹(発疹前の神経痛)
    なども腹痛として来院し得るため、全身的視点が必要です。

 

急性腹症の診療の流れ

 

急性腹症では、まずバイタル評価(ABCDアプローチ)で緊急度を判断し、
次に詳細な問診・診察を行ったうえで、必要に応じて画像検査(CT、超音波など)へ進む「2-step method」が推奨されます。

 

まとめ:急性腹症の緊急度判断は「部位」+「経過」+「危険サイン」で

 

急性腹症(急な腹痛)は、虫垂炎・胆嚢炎・膵炎・腸閉塞だけでなく、
心筋梗塞や大動脈疾患など致命的な疾患が紛れることもあります。

  • まず「どこが痛いか(部位)」で鑑別を広げ

  • 次に「突然発症/痛みの移動/腹膜刺激徴候/ショック」などで緊急度を上げる
    この流れが、見逃しを防ぐ鍵になります。

 

執筆・監修:きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)

ご予約はこちら

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME

chatsimple