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腹痛=胃腸だけじゃない|整形外科疾患の関連痛(背骨・筋肉・神経)チェック

[2025.12.10]

内科で異常なしの腹痛、整形外科が原因のことがあります(関連痛・腹壁痛)

 

 

腹痛の原因は消化器疾患だけとは限りません。胃カメラやCT、血液検査などで「異常なし」と言われた腹痛でも、実は整形外科領域(骨・関節・筋肉・神経)のトラブルが関係しているケースがあります。

こうした腹痛は、原因が腹部臓器ではなく、背骨や骨盤、腹壁の筋肉・神経にあるため、適切に評価されないと「機能性」「ストレス」「心因性」と扱われてしまうこともあります。

 

この記事では、整形外科疾患による腹痛(関連痛・放散痛・腹壁痛)の仕組みと、見逃しやすいポイント、代表疾患を分かりやすくまとめます。

 

この記事でわかること

  • なぜ背骨や筋肉の問題が「腹痛」として出るのか(関連痛の仕組み)

  • 内臓痛と区別するためのチェックポイント(体動・姿勢・デルマトーム・カーネット徴候)

  • 腹痛を起こしやすい代表的な整形外科疾患(胸椎/腰椎、ACNES、仙腸関節、肋間神経など)

  • すぐ受診すべき「危険な腹痛(赤旗)」と受診先の考え方

 

なぜ「背骨」や「筋肉」の異常で「お腹」が痛くなるのか?

 

整形外科疾患による腹痛は主に、関連痛(放散痛)と腹壁(体性)痛の2つで説明できます。

 

関連痛(Referred Pain/放散痛)

内臓・皮膚・筋肉などの痛みの信号は、脊髄の同じ領域に集まることがあり、脳が「痛みの出どころ」を取り違えることがあります。
その結果、脊髄神経(背骨から出る神経)が刺激されると、その神経が支配する腹部の領域(デルマトーム:皮膚分節)に痛みとして投影されることがあります。

目安としては次のようなイメージです。

  • 上腹部の痛み:胸椎(Th)5〜9 付近の神経領域と関連

  • 下腹部〜鼠径部の痛み:胸椎(Th)10〜腰椎(L)2 付近の神経領域と関連

 

腹壁の体性痛(Somatic Pain)

腹壁(お腹の“壁”)の筋肉・筋膜・末梢神経が炎症や障害を起こすと、痛みは比較的「一点に局在」し、体動で悪化(体動時痛)しやすいのが特徴です。

 

整形外科由来の腹痛を見逃さないチェックポイント

 

内科的検査で異常が見つからない腹痛では、次のポイントを確認することが重要です。

 

姿勢・体動で痛みが変化する(動きと連動する)

 

整形外科的な腹痛は、寝返り、起き上がり、体幹のひねり、前屈・後屈などで痛みが増悪することがあります。
とくに脊椎の回旋(ひねり)で誘発される腹痛は、胸椎・腰椎の病変を疑う重要なヒントになります。

 

痛みが「帯状」またはデルマトームに沿う

痛みが

  • ベルト状(帯状)に走る

  • 背中の高さと対応する腹部エリアが痛い
    といった場合、神経根の刺激・圧迫が関与している可能性があります。
    例:Th10(臍の高さ)に関連する神経が障害されると、臍周囲の腹痛として自覚されることがあります。

 

カーネット徴候(Carnett’s sign)がヒントになる

 

腹壁由来の痛み(筋肉・神経)と、腹腔内(内臓)由来の痛みを見分ける際に参考になる身体所見です。

  • 方法(診察で行います):痛い部位を押しながら腹筋に力を入れてもらう

  • 考え方:腹筋に力を入れても痛みが増す/変わらない → 腹壁由来を示唆
    逆に痛みが軽くなる → 腹腔内由来の可能性が相対的に高い

※自己判断に使うのではなく、医師の診察で評価してもらうのが安全です。

 

腹痛を起こす代表的な整形外科疾患(関連痛・腹壁痛)

 

胸椎・腰椎の病変(圧迫骨折・椎間板ヘルニアなど)

 

背中の病気は背部痛だけでなく、腹痛として現れることがあります。

 

脊椎圧迫骨折(骨粗鬆症性を含む)

高齢者では、明らかな転倒がなくても起こり得ます。
胸腰椎(例:Th9〜Th12、L1付近)の圧迫骨折が、背部痛よりも側腹部痛・腹痛が前景に出ることがあります。

 

胸椎椎間板ヘルニア(比較的まれだが重要)

胸椎ヘルニアは頻度が高くない一方で、消化器疾患と間違われやすい代表例です。
Th9/10などで神経根が刺激されると、該当領域の腹部に鋭い痛み・帯状痛を起こすことがあります。

まれだが見逃し注意:脊髄腫瘍など

 

「体動時のみ腹痛が出る」「画像で腹部に原因がない」といった場合、鑑別として神経系の評価が必要になることもあります。

 

前皮神経絞扼症候群(ACNES)

 

「原因不明の腹痛」の原因として近年注目される腹壁痛のひとつです。

特徴

  • 指1本で示せるような限局した圧痛点(トリガーポイント)

  • カーネット徴候が陽性になりやすい

  • CT・血液検査で異常が出にくく、「心因性」と誤解されることがある

  • 治療として局所麻酔薬の注射などが検討され、有効な場合がある(診断も兼ねることがあります)

 

仙腸関節障害(骨盤由来の痛み)

 

仙骨と腸骨をつなぐ関節の機能障害で、腰痛や臀部痛が主ですが、鼠径部(足の付け根)〜下腹部痛として感じられることがあります。

よくある訴え

  • 長時間座れない

  • 仰向けで寝づらい

  • 片側優位の骨盤周囲の痛み

※画像で分かりにくいこともあり、身体診察が重要になります。

 

肋骨骨折・肋間神経痛(胸郭由来の腹痛)

 

下位肋骨の骨折や肋間神経の痛みは、側腹部痛〜上腹部痛として自覚されることがあります。
外傷がなくても、咳やくしゃみをきっかけに起こる場合があります。

 

帯状疱疹(発疹が出る前の神経痛)

 

整形疾患そのものではありませんが、腹痛・側腹部痛として先に出るため鑑別が重要です。
片側性のピリピリした痛み、触れるだけで痛い(アロディニア)などがヒントになります。

 

(重要)整形疾患ではないが「整形外科症状」に見える腹痛:閉鎖孔ヘルニア

 

閉鎖孔ヘルニアは外科疾患ですが、閉鎖神経が圧迫されることで 大腿内側〜膝の痛み・しびれ(Howship–Romberg徴候) が出て、神経痛として扱われてしまうことがあります。
痩せた高齢女性に多く、見逃すと腸管壊死に至る危険があるため、“整形外科っぽい痛み”でも腹部疾患が隠れる代表例として知っておく価値があります。

 

先に除外したい「危険な腹痛(赤旗)」

 

整形外科由来を疑う前に、以下がある場合は急性腹症など内科・外科の緊急疾患を優先して評価する必要があります。

  • 冷汗、血圧低下、意識が遠い(ショック)

  • 強い持続痛、急激に増悪する痛み

  • 発熱、繰り返す嘔吐、血便・黒色便、吐血

  • 妊娠の可能性がある

  • 進行する腹部膨満、反跳痛、筋性防御(お腹が板のように硬い)

 

まとめ:内科で異常なしの腹痛は「動き」「デルマトーム」「腹壁」をチェック

 

「お腹が痛い=内臓の病気」とは限りません。
特に 検査で異常がないにもかかわらず、

  • 体を動かすと痛い

  • 特定の姿勢で悪化する

  • 痛みが帯状に走る/範囲が決まっている

  • 腹壁に限局した圧痛点がある
    といった特徴がある場合は、脊椎・骨盤・腹壁神経(ACNES)など整形外科的要因を視野に入れることが重要です。

 

執筆・監修:きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)

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