1日5分の“深い呼吸”で血圧が下がる?医学界が注目する呼吸療法の効果と最新エビデンス【IMST・スロー呼吸】
【専門医が解説】1日1回の深呼吸で血圧が下がる?医学界が注目する“呼吸療法”の科学的根拠と最新エビデンス
高血圧は心筋梗塞・脳卒中・心不全・腎不全など、命に関わる疾患の最大の危険因子とされています。
その中で近年、「深呼吸」「スロー呼吸」「呼吸筋トレーニング(IMST)」といった 呼吸療法が血圧を下げる非薬物療法として医学界から強い注目 を集めています。
呼吸法は、薬を使わず、副作用なく、短時間で実践できることから、世界的な研究が急速に進み、降圧効果の科学的根拠が蓄積されつつあります。
■ 呼吸法で血圧が下がる科学的メカニズム
呼吸は自律神経の中で唯一「意識的に調整できるスイッチ」です。
深呼吸やゆっくりした呼吸は、以下のメカニズムを通じて血圧を自然に下げる働き があることが証明されています。
1. 副交感神経が優位になり血管が緩む
ストレス・緊張状態では「交感神経」が優位になり、
血管の収縮 → 心拍数上昇 → 血圧上昇
が起こります。
深い呼吸、とくに
“吐く息を長く”する(呼気>吸気)
ことで、副交感神経が優位になり、
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心拍数が落ち着く
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血管が拡張する
-
血流が改善する
という**“自然な降圧反応”**が起こります。
2. 血管内皮機能が改善し、血管がしなやかに
深呼吸により血中酸素が増えると、
血管を広げる一酸化窒素(NO)が産生され、血管の柔軟性が高まります。
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血管が広がりやすくなる
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血流がスムーズになる
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血圧が安定しやすくなる
など、血管の健康状態そのものが改善します。
3. 心拍変動(HRV)が上がり、圧受容体反射が活性化
「腹式呼吸」や「6回/分のスロー呼吸」は、
心拍と血圧をコントロールする“圧受容体反射”を強力に刺激します。
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心拍変動(HRV)が増える
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自律神経のバランスが整う
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血圧を一定に保つ能力が強化
これらは“健康な人ほど強い”と言われる指標で、
呼吸法はこれを改善する数少ない方法です。
■ 科学的根拠で実証された3つの呼吸療法
◆ 1. 吸気筋トレーニング(IMST)— 1日5分で9mmHg低下
抵抗器具を使って横隔膜などの呼吸筋を鍛える方法。
アメリカの臨床研究では、
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50〜79歳
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高めの血圧の健康成人
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1日5分(30回吸気) × 週6日 × 6週間
という短時間のトレーニングで、
収縮期血圧が平均 −9mmHg
(降圧薬に匹敵する効果)
さらに、
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血管内皮機能+45%改善
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効果は 6週間後も持続
という、薬剤治療に迫る実績が報告されています。
◆ 2. スロー呼吸法(4-7-8/4-4-8呼吸)
吸う息より「吐く息を長く」する呼吸法で、自律神経の調整効果が高い。
● 4-7-8呼吸法
4秒吸う → 7秒止める → 8秒吐く
を5〜10回。
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ストレス緩和
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血圧上昇の抑制
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入眠促進
最大血圧160 → 144mmHgに低下した例も。
● 4-4-8呼吸法
4秒吸う → 4秒止める → 8秒吐く
若年男性で、
**・SBP低下
・動脈の硬さ(PWV)改善**
が確認され、動脈硬化予防の可能性が示されています。
◆ 3. 4-8呼吸法・6-6呼吸法(シンプル版)
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4秒吸う → 8秒吐く
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6秒吸う → 6秒吐く(6呼吸/分)
血圧が高めの人の「呼吸過多(過剰呼吸)」を修正し、副交感神経が安定します。
■ 日常生活に取り入れやすい呼吸のコツ
● 1日数回、5〜10分
(朝・昼・夕・就寝前が効果的)
● 45〜90分ごとに“1分の呼吸休憩”
4秒吸って、8秒吐くを繰り返すだけでOK。
● 即効で血圧が下がるエビデンス
診察室で10回の深呼吸を行った場合、
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SBP −11mmHg
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69%が正常血圧に戻る
という研究もあり、即効性の高さが示されています。
腎機能障害がないケースではさらに効果が出やすいことも分かっています。
■ 呼吸療法のイメージ(たとえ話)
呼吸療法は、
「アクセル(交感神経)」と「ブレーキ(副交感神経)」を自分の意思で調整する技術」
に似ています。
深い呼吸、特に「ゆっくり吐く息」は、
ブレーキを踏んでエンジン回転(心拍)を落とし、
血管(ラジエーター)の熱を冷まし、身体全体を安定モードに戻してくれるのです。
