のどの違和感・つかえ感は要注意|ヒステリー球(咽喉頭異常感症)の原因・検査・治療を専門医が解説
のどの違和感・つかえ感(ヒステリー球)とは?原因と治し方|きだ内科クリニック
「のどに何かつかえた感じがする」「飲み込めてはいるのに違和感が続く」——こうした症状は、耳鼻科や内科だけでなく、心療内科にも多く寄せられます。
その代表的な病名が、いわゆる**「ヒステリー球」**と呼ばれる状態です。
ここでは、医学的な名称である**咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)**を中心に、原因・検査・治療法・セルフケアまでわかりやすく解説します。
I. ヒステリー球とは?名称と医学的な位置づけ
咽喉頭異常感症とは
医学的には、のどの違和感・つかえ感は**「咽喉頭異常感症」**と呼ばれます。
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のどの狭窄感(せまい感じ)
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異物感(何かがひっかかっている感じ)
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不快感や締め付け感
といった症状があるにもかかわらず、内視鏡や画像検査で明らかな器質的異常が見つからない状態を指します。
「ヒステリー球」という呼び名
一般には「ヒステリー球」という名称で知られており、精神科・心療内科の用語としても使われます。
心療内科では、ストレスなど心の問題が体の症状として現れる心身症の一つと考え、「咽喉頭異常感症(心身症)」と診断されることもあります。
東洋医学でのとらえ方
東洋医学・漢方医学では、この症状は古くから知られており、
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梅核気(ばいかくき):梅の種がのどに詰まったような感じ
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咽中炙臠(いんちゅうしゃれん):炙った肉がのどにひっかかっている感じ
などと表現され、現代医学の「ヒステリー球」とほぼ同じ概念として扱われています。
II. のどの違和感・つかえ感の症状と特徴
咽喉頭異常感症の症状は人によってさまざまですが、共通する特徴もあります。
1. よくみられる症状
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のどに何かが詰まっている感じ・塊がある感じ
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のどの圧迫感・締め付け感
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痰がへばりついているような異物感
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イガイガ、チクチク、ヒリヒリする感じ
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声が出しにくい、咳が出やすい
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飲み込みにくさを感じる など
2. 「真性」ヒステリー球の特徴
検査で器質的な異常がみられない**真性咽喉頭異常感症(ヒステリー球)**では、次のような特徴がよくみられます。
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のどの違和感が慢性的に続く
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仕事や趣味などに集中している時は気になりにくい
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水やお茶など液体を飲むときに違和感が出やすい
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逆に、固形物を飲み込むときにはあまり支障がないことが多い
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緊張やストレスが強いと、症状も強くなる
III. のどの違和感の原因と「まず検査が大切」な理由
咽喉頭異常感症は、大きく分けて
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身体的な原因がある「症候性」
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検査で異常がみつからない「真性」(いわゆるヒステリー球)
の2つに分類されます。
1. 身体の病気が原因のケース(症候性咽喉頭異常感症)
のどの違和感・つかえ感の背景には、次のような身体疾患が隠れていることがあります。
消化器系疾患
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逆流性食道炎
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咽喉頭酸逆流症(LPR):胃酸がのどまで上がってくるタイプ
胃酸の逆流により、のどの粘膜が慢性的に刺激され、違和感が続くことがあります。
悪性腫瘍(がん)
頻度は多くありませんが(約1%程度)、
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咽頭がん
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喉頭がん
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食道がん
など、命に関わる疾患が見つかることもあります。
がんによって食道が狭くなると、つかえ感や飲み込みづらさ、嘔吐などの症状が出るため、早期の見極めが重要です。
炎症・感染症
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咽頭炎、扁桃炎
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食道カンジダ症 など
炎症や感染により、のどの腫れ・痛み・違和感が生じることがあります。
その他の原因
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甲状腺の病気(甲状腺腫大など)
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首のリンパ節の腫れ
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食道の運動異常(アカラシアなど)
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反回神経麻痺などの神経疾患
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アレルギー性の食道炎(好酸球性食道炎)
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鉄欠乏性貧血 など
全身の病気が、のどの症状として現れることもあります。
2. ストレスが原因のケース(真性咽喉頭異常感症/ヒステリー球)
検査で器質的な異常が見つからない場合、主な原因としてストレスと自律神経の乱れが考えられます。
ストレスと自律神経
強いストレスや不安状態が続くと、
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交感神経が過剰に優位になる
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のどや首周りの筋肉が緊張しやすくなる
結果として、のどに締め付け感・つかえ感が生じると考えられています。
メンタル面との関連
ヒステリー球は、
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自律神経失調症
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更年期障害
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うつ病
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不安神経症
など、心の不調・ホルモンバランスの乱れとも関連していることが知られています。
「もしかしてがんでは?」という病気への強い不安が、さらに自律神経を乱し、症状を悪化させる悪循環に陥ることも少なくありません。
3. なぜまず検査が必要なのか
のどの違和感・つかえ感が続くとき、自己判断で「ストレスだろう」と決めつけるのは危険です。
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ヒステリー球の診断は「除外診断」
→ まずは内科・耳鼻科などで、器質的な病気がないかをしっかり調べる必要があります。
主な検査
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内視鏡検査(胃カメラ、咽喉頭ファイバー)
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頸部エコー(甲状腺・リンパ節の評価)
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血液検査
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バリウム検査 など
心療内科では内視鏡検査を行わないことも多いため、必要に応じて耳鼻咽喉科・消化器内科との連携が重要です。
IV. のどの違和感・ヒステリー球の治療法
治療は、原因に応じて組み合わせて行います。
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身体疾患の治療(逆流性食道炎・甲状腺疾患など)
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漢方薬(東洋医学的アプローチ)
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西洋薬(抗不安薬・抗うつ薬など)
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心理療法・自律神経の調整
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鍼灸・筋緊張へのアプローチ など
1. 漢方薬による治療(東洋医学的アプローチ)
漢方は、咽喉頭異常感症に対してエビデンスも蓄積しつつある有効な選択肢です。
東洋医学での考え方
東洋医学では、ヒステリー球のような症状は
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「梅核気」「咽中炙臠」
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精神的ストレスや緊張で「気(き)」の巡りが滞る(気うつ/気滞)
ことで、胸からのどにつかえが生じると考えます。
そのため、滞った「気」を巡らせる**理気剤(りきざい)**を中心に処方します。
主な漢方処方
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半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
ヒステリー球の第一選択薬といわれる代表的な漢方薬です。
気分がふさいでのど・食道部に異物感がある方に適し、約6割の患者さんに効果が見られたとの報告もあります。
去痰作用や嚥下反射・咳反射の改善作用も知られています。 -
柴朴湯(さいぼくとう)
不安・イライラ・緊張が強いタイプに用いられます。 -
茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)
体力があまりない「虚証」で、胃もたれ・水っぽさ(胃内停水)が目立つ方に。 -
麦門冬湯(ばくもんどうとう)
乾いた咳、のどのヒリつき、痰の切れが悪い場合に適しています。
※漢方薬は体質・症状に合わせた処方が重要です。自己判断ではなく、医師に相談のうえで使用してください。
2. 西洋医学的治療・心理療法
器質的異常がない場合、不安・緊張・ストレスのコントロールが治療の中心になります。
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薬物療法
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不安・緊張には「抗不安薬」
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気分の落ち込みが強い場合には「抗うつ薬」
などが用いられることがあります。
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心理療法
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カウンセリング
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認知行動療法(物事の受け止め方のクセを修正し、不安を軽減する方法)
などが有効です。
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リラクセーション法
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自律訓練法
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マインドフルネス
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呼吸法
などは、自律神経を整え、症状を和らげる助けになります(ただし継続がポイントです)。
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3. 鍼灸・トリガーポイント療法
首・肩・のど周囲の筋緊張が背景にあるケースでは、鍼灸やトリガーポイント治療が奏功することもあります。
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胸鎖乳突筋
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頭板状筋
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肩甲挙筋
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中斜角筋 など
これらの筋肉にできた「トリガーポイント」が、自律神経やのどの感覚に影響し、詰まり感を生んでいるケースでは、筋緊張を和らげることで症状が改善したとの報告もあります。
V. 再発予防とセルフケア(生活習慣の見直し)
症状が落ち着いた後も、再発予防のための生活習慣の見直しがとても重要です。
1. ストレスマネジメント
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深呼吸・軽い瞑想・ストレッチ
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趣味・リラックスできる時間を意識して作る
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肩こりや頭重感など、「身体からのストレスサイン」に早めに気づく
2. 適度な運動とリラックス
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ウォーキング
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ヨガ・ピラティス
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軽い筋トレやストレッチ
これらは血流を改善し、自律神経のバランスを整えるのに役立ちます。
3. 睡眠習慣の改善
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規則正しい生活リズム
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寝る前のスマホ・PC時間を減らす
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寝酒に頼らない
質の高い睡眠は、心身の回復とストレス軽減に欠かせません。
4. のどのケア
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こまめな水分補給
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乾燥した環境では加湿器・マスクの活用
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喫煙・過度な飲酒は控える
5. 食事とこころのケア
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規則正しい食事と、腸内環境を整える食生活(発酵食品・食物繊維など)
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悩みや不安は一人で抱え込まず、家族・友人・医療者に相談する
まとめ:のどの違和感は「心と体のサイン」
のどの違和感・つかえ感(ヒステリー球)は、
「のどそのものの病気」だけでなく、心と体のバランスの乱れが現れたサインでもあります。
たとえるなら、水道管(のど)に物理的な詰まりはないのに、水圧(ストレス・緊張)が強くかかりすぎて、管全体がきしんでいる状態とも言えます。
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まずは、内視鏡などで重大な病気が隠れていないかをしっかり確認する
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必要に応じて、漢方・薬物療法・心理療法・生活改善を組み合わせていく
これが、のどの違和感・つかえ感を改善していくうえで、とても大切なステップです。
のどの違和感やつかえ感が長く続いている方へ
「がんだったらどうしよう」「どこを受診したらいいかわからない」
と不安を抱えておられる方は、一度専門医にご相談ください。
きだ内科クリニックでは、
内視鏡検査(胃カメラ)や血液検査による器質的疾患の確認に加え、
必要に応じて漢方・生活指導・心身面のケアも含めた総合的な診療を行っています。
