夜間・早朝に咳が止まらない原因は?咳喘息・後鼻漏・逆流性食道炎を内科医が解説
夜間・早朝に咳が止まらない…考えられる原因と受診の目安
咳喘息・後鼻漏・逆流性食道炎を専門医が解説
夜中や明け方になると咳が止まらない、寝ようとすると咳き込んでしまう──。
このような「夜間・早朝に悪化する咳」は、単なる風邪ではなく、咳喘息・後鼻漏・胃酸逆流(逆流性食道炎) などの病気が関わっていることが少なくありません。
夜に咳が出やすい時間帯の特徴や、典型的な原因疾患を知ることは、正しい診断・治療につなげるための重要な手がかりになります。
1. なぜ夜間・早朝に咳が悪化しやすいのか
夜間や早朝には、体内の生理的な変化や環境要因により、気道が普段より敏感な状態になります。
1-1. 自律神経のリズムと気道の変化
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呼吸や気管支の動きは、活動時に働く 交感神経 と、休息時に働く 副交感神経 からなる 自律神経 によって無意識にコントロールされています。
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日中は交感神経が優位で、気管支は拡張し、空気が通りやすい状態です。
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夜になると副交感神経が優位となり、気管支はやや収縮して狭くなる傾向があります。
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気道が狭くなることで、**わずかな刺激でも咳が出やすくなる(気道過敏性が高まる)**状態になります。
1-2. 横になる姿勢(臥位)と環境の影響
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就寝時に 横になる(臥位) ことで、重力の影響が変わり、
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鼻水や後鼻漏、
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気道の分泌物、
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胃酸・胃内容物
などが喉や気管支に流れ込みやすくなり、咳受容体を刺激します。
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夜間の 冷え込みや空気の乾燥 も気道粘膜を刺激し、咳を悪化させる要因になります。
2. 夜間・早朝に多い「咳喘息」
咳喘息(せきぜんそく) は、長引く咳(遷延性/慢性咳嗽)の 代表的な原因のひとつ です。
2-1. 咳喘息の症状の特徴
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気管支喘息の一種ですが、
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「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった 典型的な喘鳴や強い息苦しさを伴わず、
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主な症状は 咳のみ で、3週間〜8週間以上続くのが特徴です。
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特に、
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夜間〜明け方に咳が強くなる
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咳で夜中に目が覚める
といった訴えが多くみられます。
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咳は 痰をほとんど伴わない乾いた咳 が中心です。
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以下のような刺激で咳発作が誘発されやすくなります。
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冷たい空気
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タバコの煙
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香水・線香などの匂い
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運動・会話・大きな声
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季節や気圧・天候の変化
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アレルギー体質(アトピー)、アレルギー性鼻炎などを合併している方に多い傾向があります。
2-2. 咳喘息の病態と治療
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咳喘息は、アレルギー性の気道炎症 により、気道が過敏になっている状態です。
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炎症により、ほんのわずかな刺激で過剰に咳反射が出てしまいます。
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治療は気管支喘息と同様に、
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吸入ステロイド薬(ICS) が基本治療となり、
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必要に応じて 気管支拡張薬 を併用します。
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放置すると、30〜40%前後が典型的な気管支喘息へ移行するとも報告されており、早期の診断と継続的な治療 が重要です。
3. 横になると悪化する「後鼻漏(こうびろう)」
後鼻漏(こうびろう) は、鼻や副鼻腔でつくられた分泌物(鼻水・膿)が喉の奥に流れ落ちる状態で、
以前は 後鼻漏症候群(postnasal drip syndrome)/上気道咳嗽症候群(UACS) などと呼ばれていました。
3-1. 後鼻漏による咳の特徴
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健常な人でも、少量の鼻水は常に無意識のうちに喉へ流れています。
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量が増えたり、粘り気が強くなると、
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喉の違和感や不快感
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咳や咳払い
の原因になります。
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特徴的なのは、
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仰向けに寝ると咳が悪化する
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朝方、痰が多い
といった症状です。
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主な自覚症状:
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喉の奥に何かがへばりついているような感じ
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頻回の咳払い
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痰のからむ湿った咳 が多い
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一定量の鼻水が痰として出切ると一時的に咳が落ち着く、というパターンを繰り返すこともあります。
3-2. 原因疾患と治療
後鼻漏の背景には、次のような上気道疾患があります。
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アレルギー性鼻炎
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副鼻腔炎(蓄膿症)
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かぜ・慢性上気道炎 など
治療としては、
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アレルギーを抑える薬(抗ヒスタミン薬など)
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マクロライド系抗菌薬(慢性副鼻腔炎に対して)
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去痰薬 などを組み合わせて行います。
鼻・副鼻腔の問題が中心となるため、耳鼻咽喉科での評価・治療が重要です。
セルフケアとしては、
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就寝時に頭側を少し高くして寝る
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加湿器やマスクで乾燥を防ぐ
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必要に応じて鼻うがい を取り入れる
といった対策が有効です。
4. 食後や横になると咳が出る「胃酸逆流(逆流性食道炎)」
胃食道逆流症(GERD) は、胃酸や胃内容物が食道へ逆流することで、胸やけや咳など様々な症状を引き起こす病気です。
近年、長引く咳の原因 としても注目されており、特に 夜間の咳・横になると出る咳 との関連が深いとされています。
4-1. 胃酸逆流による咳の特徴
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胃酸が食道や喉を刺激することで、咳反射が起こります。
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特徴的なのは、
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食後
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横になったとき(就寝時)
に咳が出やすい、悪化しやすいことです。
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よく見られる自覚症状:
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胸やけ
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酸っぱい液が上がってくる感じ(呑酸)
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喉のイガイガ感・異物感
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声がかすれる など
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咳は 痰を伴わない乾いた咳 であることが多く、「風邪が治っても咳だけ残る」と訴える方も少なくありません。
4-2. 胃酸逆流と咳の悪循環
胃酸逆流が咳を引き起こすメカニズムには、いくつかの説があります。
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反射説
逆流した胃酸が食道末端の迷走神経を刺激し、その刺激が反射的に気道側へ伝わって咳が出る。 -
逆流/誤嚥説
胃酸や胃内容物が食道からさらに上まで到達し、喉頭・気管に微量誤嚥することで、粘膜を直接刺激し咳が出る。 -
咳―逆流の自己増悪サイクル
咳き込む → 腹圧が上がる → 胃が圧迫され逆流が増える → 刺激でさらに咳が出る
という悪循環に陥るケースもあります。
4-3. 診断と治療・生活習慣の見直し
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診断は、
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詳しい問診(咳の時間帯・食事との関係・胸やけの有無など)
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胃カメラで食道粘膜の炎症を確認(逆流性食道炎の有無)
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胃酸を抑える薬(PPIなど)を試してみて症状が改善するか どうか
などを総合的に評価して行われます。
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治療は、
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プロトンポンプ阻害薬(PPI)
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H2ブロッカー
など、胃酸分泌を抑える薬が中心です。
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併せて、以下のような生活習慣の改善が非常に重要です。
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就寝前 2〜3時間は飲食を控える
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食後すぐに横にならない
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ベッドの 頭側を高くして寝る(頭位挙上)
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脂っこい食事・過食・アルコール・刺激物(香辛料など)を控える
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体重管理(肥満は逆流を悪化させます)
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5. 長引く夜間の咳で受診すべきタイミング
5-1. 自己判断で放置しない方がよい咳
次のような場合は、早めの医療機関受診をおすすめします。
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咳が 2週間以上続く、特に 8週間以上続く 場合
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夜間・早朝の咳で睡眠が妨げられている
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息苦しさや胸の痛み、体重減少、血痰などを伴う
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「咳喘息」「アレルギー」「逆流性食道炎」を指摘されたことがある
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市販薬や風邪薬を飲んでも改善しない
長引く咳の背景には、今回ご紹介した 咳喘息・後鼻漏・胃食道逆流症 が 複合的に関与していることが多く、どれか一つだけを治療しても十分に改善しないケースも少なくありません。
5-2. どの診療科を受診すべき?
症状や背景によって、以下の診療科での評価が必要になります。
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主に咳・喘鳴・息苦しさが前景
→ 呼吸器内科・一般内科 -
鼻水・鼻づまり・後鼻漏が強い
→ 耳鼻咽喉科 -
胸やけ・呑酸・胃もたれ・腹部症状を伴う
→ 消化器内科
きだ内科クリニックでは、問診・聴診に加え、必要に応じて以下の検査を組み合わせ、原因を丁寧に評価します。
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血液検査・レントゲン検査
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呼気NO検査(気道炎症の評価)
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胃カメラ・食道胃内視鏡検査 など
まとめ:夜間・早朝に咳が続くときは一度ご相談ください
夜間や早朝に悪化する咳は、
「咳喘息」・「後鼻漏」・「胃酸逆流(逆流性食道炎)」 などが絡み合って起きていることが多く、
放置すると 睡眠の質の低下、気管支喘息への移行、生活の質の低下 につながります。
「夜だけだから様子をみよう」と自己判断せず、
お困りの症状が続く場合は、ぜひ一度、きだ内科クリニックへご相談ください。
原因をしっかり見極め、咳を根本からコントロールする治療 を一緒に考えていきましょう。
