エコーで甲状腺結節が見つかったら?|95%が良性でも油断できない“本当に必要な検査と対応”を医師が解説
一般内科医のための
エコーで甲状腺結節が見つかったときの対応フローチャート
1. 全体像:あわてないための前提知識
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日本のデータでは、健診などでエコーで見つかる甲状腺結節のうち、癌はおおむね 2.6〜8.3%程度 と報告されています。jsco-cpg.jp
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高齢者ではエコーをすると 50%前後で何らかの結節が見つかる とされ、結節=がんでは全くありません。PMC+1
👉 まずは
「結節は珍しくない」「多くは良性」「しかし中にごく一部悪性が紛れ込む」
という感覚を持っておくことが重要です。
2. 初診時に必ず確認すること
2-1. 問診・身体所見でチェック
ハイリスク要素(あったら要注意)japanthyroid.jp
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小児・若年者(〜20歳台前半)
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甲状腺癌の家族歴
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小児期の頸部放射線照射歴
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短期間での急速増大
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嗄声、嚥下困難、呼吸困難、前頸部の圧迫感
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触って明らかに硬い/周囲と癒着して動きにくい結節
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頸部リンパ節腫大
これらがあれば、
サイズが小さくても低い閾値でFNAや専門医紹介を考える方向になります。
2-2. 初期検査のセット
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採血
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TSH(必須)
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可能なら FT4
(+ 抗TPO抗体などは状況に応じて)
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頸部超音波(甲状腺+頸部リンパ節)
3. TSHでまず「機能性かどうか」を分ける
● TSH 低値(subnormal 以下)
→ 機能性結節(中毒性結節)疑い
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シンチ(^123I, ^99mTc)で “hot nodule” かどうか評価を検討。PMC
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hot nodule は悪性のことが非常に稀なので、通常は FNA 不要とされます。AAFP
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甲状腺中毒症状があれば、内服・放射性ヨウ素・手術など治療方針を専門医と相談。
▶ 非専門医としては:
TSH低値+結節あり → シンチ検査や専門科紹介を基本方針に。
● TSH 正常〜高値
→ 非機能性結節として扱い、
「エコー所見+サイズ」で FNA の必要性を判断します。
4. 超音波で見るべきポイント(非専門医版)
日本超音波医学会の診断基準などをベースに、
重要ポイントだけに絞ると:jsum.or.jp+1
4-1. 良性寄りの所見
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ほぼ嚢胞(真っ黒で液体)
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内部均一で等〜高エコー
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辺縁が平滑・明瞭
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単発ではなく多発する「腺腫様結節」風
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充実成分が少ない嚢胞性結節
4-2. 悪性を疑う所見(特に乳頭癌)
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形状:縦長(前後径 > 横径)、不整形
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内部エコー:低エコーで不均一
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境界:不明瞭、ギザギザ
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石灰化:微細な高エコー(砂粒状)
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被膜外浸潤疑い
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異常な頸部リンパ節腫大(球形、門構造消失、石灰化など)
👉 「低エコー+不整形+微細石灰化+縦長」 → 強く悪性を疑う
と覚えておくと実用的です。
5. FNA(穿刺吸引細胞診)の適応 ― 実践用ざっくり表
日本乳腺甲状腺超音波学会(JABTS)などの基準を、
一般内科医でも使いやすい形にざっくり整理します。J-STAGE+1
※サイズは腫瘍径。
※高リスク臨床背景(家族歴・放射線歴など)があれば、1段階低いサイズでも考慮。
| パターン | 代表的なエコー所見 | FNAを考えるサイズの目安 |
|---|---|---|
| 強く悪性を疑う結節 | 低エコー+形状不整+微細石灰化+縦長 など | 5mm超で検討(特に単発・若年者・ハイリスクなら) |
| 異常リンパ節あり | 転移疑いリンパ節 | サイズに関わらず リンパ節も含めFNA検討 |
| 低エコーの充実性結節 | 低エコーだが「強く悪性」とまでは言えない | ≧10mm で FNA検討 |
| 等〜高エコーの充実性結節 | 境界比較的明瞭、腺腫様結節など | 10〜15mm以上 で状況により |
| 嚢胞+充実成分混在 | 充実部分が一部にある | 15〜20mm以上 で検討 |
| 典型的腺腫様結節 | 多発結節、等〜高エコー、明瞭境界 | 20mm超えたら一度はFNA を検討 |
| 純粋な嚢胞 | ほぼ液体のみ、充実部分なし | 通常 FNA不要(穿刺するとしても治療目的の穿刺排液) |
即紹介レベル(非専門医は無理せず):
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上記の「強く悪性」パターン + 頸部リンパ節腫大
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明らかな気管・食道圧迫
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急速増大
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小児・若年者で悪性を疑う結節
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濾胞性腫瘍が疑われる(FNAで濾胞性腫瘍/意義不明など)japanthyroid.jp+1
6. FNA結果に応じた対応(非専門医が押さえておくライン)
日本では Bethesda 分類と類似の細胞診分類が使われますが、
非専門医としては下の3パターンに整理しておくと現場で迷いません。PMC+1
6-1. 良性(ベセスダ II 相当)
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最も多いパターン。
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基本は経過観察。
フォローの目安:
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6〜12か月ごとにエコー。
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サイズが明らかに増大(例:径で20%以上増加、または2mm以上増加)
または新たに悪性所見(微細石灰化など)が出たら再FNA or 専門医紹介。AAFP+1
6-2. 悪性/悪性疑い(ベセスダ V〜VI)
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乳頭癌が大多数。
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原則 外科紹介(甲状腺外科・内分泌外科)。
ただし、
cT1aN0M0(1cm以下、リンパ節転移なし)の低リスク微小乳頭癌 については、
日本のガイドラインでも 積極的経過観察(アクティブサーベイランス)が容認・推奨されています。jaes.umin.jp+1
▶ 非専門医としては
「微小癌で経過観察という選択肢もある」ことを説明した上で、
方針決定は必ず専門医に委ねる、というスタンスが安全です。
6-3. 意義不明な異型/濾胞性腫瘍疑い(ベセスダ III〜IV)
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FNAだけでは良悪の鑑別がつかないグレーゾーン。
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選択肢:
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再FNA
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分子検査(施設により)
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葉切除(診断と治療を兼ねた手術)
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▶ 非専門医としては
このカテゴリが出たら迷わず甲状腺専門医へ紹介
—— と覚えておけば十分です。PMC+1
7. 「この患者さんは自分でフォローしてよいか?」の判断軸
日常診療でフォローしやすいケース
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TSH 正常〜軽度高値
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典型的良性結節(腺腫様、嚢胞性主体)
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サイズ ≦ 20mm、悪性所見なし
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FNA良性、増大傾向なし
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症状なし(圧迫・嗄声なし)
→ 1年に1回エコー+TSH 程度で十分なことが多い。
すぐ専門医に送った方がよいケース
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上記ハイリスク問診(放射線歴・家族歴・小児など)
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悪性を強く疑うエコー所見
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異常リンパ節
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急速増大
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嗄声、嚥下困難など局所症状
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TSH低値で機能性結節疑い(シンチ含め検討が必要)
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FNA で悪性/悪性疑い/濾胞性腫瘍疑い
8. 患者さんへの説明のコツ
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「甲状腺のしこりは、エコーをするととてもよく見つかりますが、その多くは良性です。」jsco-cpg.jp
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「今やっている検査は、“がんの可能性がないかを安全に見極めるための手順”です。」
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「サイズやエコーの性格で、針を刺して調べる必要があるかどうかを決めています。全員に針生検が必要なわけではありません。」ResearchGate+1
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「良性と分かった結節は、しばらく定期的にエコーで様子を見ればよく、一生問題を起こさないことも多いです。」
まとめ:非専門医用シンプルアルゴリズム
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TSH+エコーを全員に
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TSH低値 → シンチ or 甲状腺専門医へ
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TSH正常〜高値 → エコーで
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明らかな良性パターン → サイズと症状で経過観察
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怪しい/悪性所見あり → サイズに応じて FNA or 専門医紹介
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FNA結果
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良性 → 6〜12か月ごとにエコー+増大時再評価
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悪性/悪性疑い → 甲状腺外科紹介
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意義不明/濾胞性腫瘍疑い → 専門医紹介
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