大腸ポリープは小さくても危険?形状と種類でわかる“がん化しやすいタイプ”を専門医が徹底解説
大腸ポリープは小さくても危険?
形状と種類でわかる「がん化しやすいタイプ」を専門医が解説
「大腸ポリープがあります」と言われると、
「それってがんですか?」「小さいから大丈夫ですよね?」
と不安になる方が少なくありません。
大腸ポリープとは、大腸の粘膜がいぼのように盛り上がった“できもの”の総称で、
良性も悪性も含む名称です。
大腸がんの多くは、最初から「いきなりがん」として現れるのではなく、
良性ポリープ(腺腫)から少しずつ悪性化してがんになると考えられています。
そのため、
「ポリープの段階で見つけて切除する=大腸がんを予防する最も確実な方法」
と言っても過言ではありません。
ただし、ポリープの“危険度”は**大きさだけでなく、形状(形)や組織型(種類)**によっても大きく変わります。
この記事では、
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大きさから見たがん化リスク
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形状から見た「危険なタイプ」
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組織型(腺腫・鋸歯状病変など)から見た要注意ポリープ
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見つかったときの治療・フォローアップの考え方
を、医学的な根拠に基づいて分かりやすく解説します。
1. 大腸ポリープの「大きさ」とがん化リスク
一般的に、大腸ポリープにがんが含まれる確率(担癌率・悪性率)は
サイズが大きくなるほど高くなります。
サイズ別の担癌率と切除の目安
| ポリープの大きさ | 担癌率・悪性率の目安 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 5mm以下(微小病変) | 担癌率 0.03〜0.5%程度(報告により差あり)、日本では約1%超との報告も | 経過観察も容認されるが、切除を弱く推奨 |
| 6mm以上 | がんを含む頻度が明らかに増加 | 内視鏡切除を推奨 |
| 10mm以上 | がん合併率 約28%前後、悪性率は約4割まで上昇 | 原則として積極的切除 |
| 20mm以上 | 悪性率 約7割前後、腺腫の担癌率20〜30%以上 | 多くは内視鏡的切除または外科手術を要する |
微小ポリープ(5mm以下)は取るべきか?
日常の大腸内視鏡で見つかるポリープの70〜80%は5mm以下の微小病変です。
このサイズでがんが含まれる確率は低いものの、
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将来少しずつ大きくなって、
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数年後にがん化していく可能性
を考えると、最近のガイドラインでは、
「大きさにかかわらず、原則として内視鏡で切除することを弱く推奨」
という考え方が主流になっています。
2. 形状でわかる「がん化しやすい大腸ポリープ」
ポリープの“形”は、
単に「丸い・平たい」という見た目の違いだけでなく、がん化リスクに直結する重要な情報です。
大きくは以下のように分けられます。
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隆起型(いわゆる「イボ状」に盛り上がっている)
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表面型(平坦・やや盛り上がる)
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陥凹型(表面がへこんでいる)
この中で、特に**「小さくても危険」なのが陥凹型・一部の表面型**です。
2-1. 最も危険な形状のひとつ:陥凹型(0-IIc)
陥凹型腫瘍(0-IIc)は、表面がわずかにくぼんで見えるタイプの病変です。
早期大腸がんでよく見られる形で、「小さくても危険」な代表格です。
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数mmの小ささでも早期がんである可能性が高い
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良性ポリープを経ず、正常粘膜から直接「de novo癌」として発生しうる
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そのため、進行スピードが速いタイプのがんが含まれることがある
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小さい段階でもリンパ節転移を起こすリスクが報告されている
内視鏡ガイドラインでも、
「平坦・陥凹型腫瘍は、5mm以下の病変でも内視鏡切除を強く推奨」
とされており、「小さいから様子を見ましょう」とは言いにくい形状です。
2-2. 横に広がるタイプ:側方発育型腫瘍(LST)
側方発育型腫瘍(Laterally Spreading Tumor:LST)は、
“おせんべいのように横に広がる”腫瘍で、盛り上がりは低いが面積が広いのが特徴です。
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径10mm以上の平坦〜低い隆起の病変を指す
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大きいものでは 数cm〜10cm に達することも
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大きくなるほど 病変の一部にがんを含む確率(担癌率)が高まる
特に、
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肉眼的に“結節・こぶこぶ”が目立つタイプ(LST-NG)
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一部に陥凹を伴うタイプ
では、がん化リスクが高く、内視鏡的に分割切除(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)が必要となることも多いです。
3. 組織型でわかる「がん化しやすいポリープ」
顕微鏡レベルで見た「組織型」も、ポリープの危険度を判断するうえで極めて重要です。
大きくは、
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腫瘍性ポリープ(がん化の可能性あり)
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非腫瘍性ポリープ(基本的にがん化リスクが低い)
に分かれます。
3-1. 腺腫系ポリープ(Adenoma)
大腸ポリープの多くを占め、
大腸がんの“王道ルート”(adenoma–carcinoma sequence) と言われる発がん経路に関わるタイプです。
● 大腸腺腫(Conventional Adenoma)
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良性腫瘍だが、「前がん病変」として位置づけられる
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大きくなるほど、がん化リスクが上昇
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形状や組織レベルの異型度(軽度〜高度異型)によって危険度が変わる
● 絨毛腺腫(Villous Adenoma)
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表面がイソギンチャクのような細かいひだ(絨毛)で覆われたタイプ
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特に 直腸〜S状結腸 に発生しやすい
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担癌率(ポリープの中にがんを含む割合)が 58〜89% と非常に高く、
「最もがん化しやすい腺腫」とされています。
このため、絨毛成分を多く含むポリープは、たとえサイズが小さくてもより慎重な対応が必要です。
3-2. 鋸歯状病変(Serrated Lesions):見逃されやすい“別ルート”の前がん病変
近年、大腸がんの中には
「腺腫ルートとは異なる経路(鋸歯状経路)」 で発生するタイプがあることが分かってきました。
この経路に関わるのが**鋸歯状病変(Serrated Lesions)**です。
代表的なものは、
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HP(過形成性ポリープ)
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SSA/P(Sessile Serrated Adenoma/Polyp)=SSL(Sessile Serrated Lesion)
-
TSA(Traditional Serrated Adenoma)
です。
● SSA/P(SSL:Sessile Serrated Lesion)
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平坦〜なだらかな隆起で、通常のポリープよりも見つけにくい
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特に 右側大腸(盲腸・上行結腸) に多い
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中高年だけでなく、30〜40代の比較的若い女性 にも見られる
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一部は大腸がんの“前駆病変”と考えられており、癌化率 1.5〜20% とする報告も
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10mm以上のSSA/P(SSL)は内視鏡切除が強く推奨
「平らで見つけにくい上に、右側大腸に多く、がんにもなりうる」
という点から、“見逃すと怖いタイプ”のポリープと言えます。
● TSA(Traditional Serrated Adenoma)
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鋸歯状の構造を持つ腺腫で、縦じまのような独特の組織像
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主に 左側大腸(下行結腸・直腸) に多い
-
がん化リスクがあるため、5mm以上は内視鏡切除の適応
3-3. 非腫瘍性ポリープ:過形成性ポリープ(HP)
過形成性ポリープ(Hyperplastic Polyp:HP) は、
非腫瘍性ポリープの代表で、通常はがん化リスクが極めて低いとされています。
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直腸〜S状結腸に多く、5mm以下 の小さな病変がほとんど
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このサイズ・部位のHPは、「切除せず経過観察でもよい」とされることが多い
ただし、
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10mm以上の大型HP
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右側大腸に生じる“鋸歯状病変に近いHP”
などは、がん化リスクが相対的に高くなるため、切除が望ましいとされています。
4. 見つかった大腸ポリープはどう治療する?
4-1. 内視鏡治療の基本
大腸ポリープや早期大腸がんに対する内視鏡治療には、主に以下の方法があります。
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コールドポリペクトミー(CSP)
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5mm前後までの小さなポリープに対する“電気を使わない切除”
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穿孔や遅発性出血のリスクが低く、日帰りで行いやすい
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内視鏡的粘膜切除術(EMR)
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ポリープの下に生理食塩水などを注入して持ち上げ、輪っか(スネア)で切除
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数mm〜20mm前後の病変が対象になることが多い
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内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
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大きなLSTや早期がんに対し、粘膜下層を剥離して“一括切除”する高度な手技
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病変を一体として取り出せるため、がんの深さや脈管侵襲の評価が正確
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がんが粘膜〜浅い粘膜下層にとどまっている場合は、
内視鏡治療だけで根治が得られるケースも少なくありません。
4-2. 切除後のフォローアップ
切除したポリープの
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大きさ
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個数
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組織型(腺腫・鋸歯状病変など)
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がんの有無・深さ
によって、次回の大腸内視鏡のタイミング(3年後・5年後など)が決まります。
「一度ポリープが見つかった方」は、見つからなかった方より再発リスクが高いため、
定期的なフォローアップ内視鏡が特に重要です。
5. まとめ:大腸ポリープは「小さいから安心」ではない
ポイントを整理すると——
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大腸ポリープは、大きさが大きいほどがん化リスクが高いが、
小さくても危険なタイプ(陥凹型・一部鋸歯状病変など) が存在する -
特に
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陥凹型(0-IIc)
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平坦で見逃されやすい鋸歯状病変(SSA/P・SSL)
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絨毛腺腫
は、サイズにかかわらず注意が必要
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「ポリープの段階で見つけて切除する」ことで、
大腸がんの発症を大幅に減らせることが研究で示されている -
自分で危険度を判断するのは難しく、
大腸内視鏡検査+専門医による評価 が不可欠
大腸ポリープ=すぐにがん、というわけではありません。
しかし、「ポリープのうちに見つけて取る」ことが、大腸がん予防の一番の近道です。
40歳を過ぎたら、一度は大腸内視鏡検査(大腸カメラ)によるチェックを受けることをおすすめします。
家族歴がある方、便通の変化や貧血・体重減少がある方は、年齢にかかわらず早めにご相談ください。
※この記事は一般的な医学情報であり、個々の診断や治療方針は、実際の内視鏡所見・病理結果・全身状態などに応じて主治医が総合的に判断します。
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
