「お酒が原因の肝臓病・生活習慣病に注意!健康を守る減酒・断酒のすすめ」第一弾
お酒と健康:後悔しない未来のために - 減酒・断酒のススメ
肝疾患や生活習慣病の診療を行う中で、ダイエットや減塩指導とあわせて、アルコール摂取量の減少もご指導しています。
アルコール依存症の場合は、本来断酒が望ましいですが、軽症の方や減酒を希望される方には、減酒補助薬(セリンクロ:一般名ナルメフェン)を用いた治療も選択肢の一つとして考えています。
そのため今回、アルコール依存症の診断と治療について理解を深めるため、eラーニングを受講しました。アルコールによる健康リスクやアルコール依存症の概要、一般的な治療法、そしてセリンクロによる治療について、学び直しまとめました。
なお、重症の方や健康被害・社会的影響が大きいケースについては、当院での対応が難しい場合もあります。その際は、心療内科や精神科など専門機関への適切な橋渡しができればと考えております。
3回に分けて説明いたします。この1回目は、飲酒と健康リスクについてです。
飲み過ぎは全身の臓器に負担をかけます
肝臓だけではありません。 アルコールの過剰摂取は、消化器・神経・筋肉・循環器など、全身のさまざまな臓器に障害を引き起こす可能性があります。
消化器系の病気
- 肝臓の病気
代表的なものは肝臓病です。脂肪肝は自覚症状がないことが多いですが、放置するとアルコール性肝炎や肝線維症へ進行し、最終的には肝硬変という深刻な状態に至る危険性があります。特に女性は、比較的少ない飲酒量でも短期間で肝硬変になることがあるため注意が必要です。 - 膵炎
飲酒は急性膵炎や慢性膵炎の原因にもなります。急性膵炎は命に関わることもあり、慢性膵炎では消化酵素やホルモンの分泌が低下し、糖尿病のリスクが高まります。 - その他の消化器系トラブル
飲酒は食道、胃、腸など消化管全体に悪影響を及ぼし、胃食道逆流症、マロリーワイス症候群(吐血)、急性胃粘膜病変、門脈圧亢進性胃炎、下痢、栄養吸収障害、痔核などの原因となることがあります。
循環器系の病気
- 心臓病
心筋梗塞や心不全のリスクが高まります。特に急性心筋梗塞は、心原性ショックや致死性不整脈の原因となることがあります。 - 高血圧
飲酒は高血圧の大きな要因のひとつであり、脳卒中や心臓病のリスクを著しく高めます。脳卒中は日本人の死因の上位に位置する深刻な病気です。 - 脳卒中
脳の血管が詰まる脳梗塞、破れる脳出血、脳動脈瘤が破裂するくも膜下出血など、さまざまなタイプの脳卒中のリスクが上昇します。 - 不整脈・末梢血管障害
これらも飲酒と関連する循環器系の病気です。
生活習慣病
- メタボリックシンドローム
過度の飲酒は、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、高血糖など、メタボリックシンドロームの主要な要因と深く関連しています。肥満も大きな原因ですが、お酒自体のカロリーやおつまみの食べ過ぎ、アルコールによる食欲増進も肥満につながります。 - 糖尿病
アルコールは血糖値に直接影響するだけでなく、慢性膵炎によるインスリン分泌低下も糖尿病のリスクを高めます。 - 脂質異常症
飲酒によるカロリー過多や、アルコール代謝による血中脂質増加が原因となります。 - 痛風
プリン体を多く含むビールなどの長期大量摂取は、高尿酸血症を引き起こし、痛風の原因になります。 - がん
世界保健機関(WHO)は、飲酒が頭頸部がん、食道がん、肝臓がん、大腸がん、女性の乳がんの原因となると報告しています。アルコールに含まれるエタノールや、その代謝産物であるアセトアルデヒドには発がん性があります。
神経・筋肉系の病気
- ビタミン不足
飲酒に伴う食生活の乱れは、特にビタミンB1、B6、B12の不足を招き、神経障害の原因となります。アルコール代謝にはビタミンB1が使われるため、慢性的なB1欠乏状態になりやすいのです。 - アルコール性末梢神経障害
手足のしびれや痛み、脱力、筋萎縮などが現れます。 - ウェルニッケ脳症
ビタミンB1の欠乏により、無欲状態、眼球運動障害、眼振、失調性歩行などが起こります。 - アルコール性小脳失調症
小脳が萎縮し、歩行が不安定になり、転倒による頭部外傷のリスクが高まります。
その他の健康リスク
- 急性アルコール中毒
大量飲酒は、意識低下・嘔吐・呼吸困難など、危険な状態を引き起こし、死亡に至ることもあります。特に若年層の一気飲みは非常に危険です。 - うつ・自殺
アルコールは精神状態に大きく影響し、うつ病や自殺のリスクを高める可能性があります。 - 認知症
長期間の大量飲酒は、認知機能の低下を招き、認知症のリスクを高めることが示唆されています。 - 胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)
妊娠中の飲酒は、胎児に低体重、顔面異常、脳障害などを引き起こす可能性があり、治療法はありません。妊娠中の女性は完全に禁酒する必要があります。 - アルコール依存症
飲酒を続けるうちに依存が形成され、コントロールができなくなる状態です。アルコール依存症は、単なる「飲み過ぎ」とは異なり、専門的な治療が必要な病気です。
減酒・断酒による驚くべき効果
「もう手遅れかもしれない」と感じた方も、決して諦めないでください。飲酒量を減らす、または完全に断つことで、身体と心は驚くほど回復する力を持っています。
実際に減酒・断酒に取り組まれた方からは、次のような喜びの声が寄せられています。
- 翌日の仕事のパフォーマンスが向上した
- 朝の目覚めがすっきりした(二日酔いの解消、胃腸の調子の改善)
- 血圧が下がった
- 体重が減った
- 肝臓の検査値が改善した
- 頭がすっきりして集中力が上がった
- 家族や友人との関係が改善した(飲酒によるトラブルの減少)
- 自由に使えるお金が増え、他の趣味を楽しめるようになった
未来の自分のために、今日からできること
厚生労働省は、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を男性1日あたり純アルコール40g以上、女性20g以上と定めています。節度ある適度な飲酒量は1日あたり純アルコール20g程度とされています。ご自身の飲酒量を把握し、少しでも減らすことを考えてみませんか?
20歳未満の方、妊婦・授乳中の方は、いかなる理由があっても飲酒を控える必要があります。
もし、ご自身の飲酒習慣に不安を感じている、減酒や断酒をしたいけれど難しいという場合は、決して一人で悩まず、専門機関にご相談ください。医療機関や相談窓口では、あなたの状況に合わせた適切なサポートを受けることができます。