遺伝性大腸がんの種類と特徴|家族性大腸腺腫症・リンチ症候群・検査と管理方法を徹底解説
遺伝性大腸がんとは?発症メカニズム・種類・検査と管理まで徹底解説
遺伝性大腸がんとは
大腸がんは多くの場合、加齢・生活習慣・環境因子などが原因で大腸粘膜に遺伝子変異が蓄積し発症します。これを「散発性大腸がん」と呼びます。
一方で、生まれつき特定のがん関連遺伝子に病的変異を持つことで、通常よりもはるかに若い年齢で大腸がんを発症しやすい人がおり、これを「遺伝性大腸がん」と呼びます。
疫学
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全大腸がんの約 5% が遺伝性大腸がん
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大腸がん患者の約 30% に遺伝的素因があると推定
遺伝性大腸がんは、生殖細胞系列(卵子や精子)に存在する病的遺伝子バリアントが、親から子へ常染色体優性または劣性遺伝の形で受け継がれ、がんの発症リスクが著しく高まります。
遺伝性大腸がんの特徴
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若年発症:散発性は50歳以降が多いのに対し、20〜40代での発症が目立つ
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多発・再発:同時性(複数部位同時)や異時性(異なる時期に別部位)発生が多い
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他臓器がん合併:胃、十二指腸、小腸、膵臓、子宮内膜、卵巣、腎盂・尿管、脳など
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ポリープの多発:
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ポリポーシス型(多数のポリープ)
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非ポリポーシス型(少数のポリープ)
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遺伝形式とがん化のメカニズム
原因遺伝子は大きく次の2群に分類されます。
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がん抑制遺伝子群
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例:APC, TP53, PTEN, SMAD4
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DNA修復関連遺伝子群
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例:MLH1, MSH2, MSH6, PMS2, MUTYH
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Knudsonのtwo-hit説
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常染色体優性遺伝:片方のアレルに先天的変異(first hit)があり、もう片方に後天的変異(second hit)が加わるとがん化
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常染色体劣性遺伝:両親からそれぞれ異常遺伝子を受け継ぎ、両アレルに異常が揃ったとき発症
主な遺伝性大腸がんの種類と特徴
1. 家族性大腸腺腫症(FAP)
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原因遺伝子:APC(5q22.2)
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遺伝形式:常染色体優性遺伝
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特徴:
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10歳頃からポリープが出現
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20代には100個以上の腺腫性ポリープ
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放置でほぼ100%が大腸がんへ進展
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合併症:胃底腺ポリポーシス、十二指腸乳頭部がん、デスモイド腫瘍、骨腫、甲状腺がん、脳腫瘍、肝芽腫
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亜型:
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Gardner症候群(骨腫・軟部腫瘍合併)
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Turcot症候群(中枢神経腫瘍合併)
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管理:10〜12歳から1〜2年ごとの下部消化管内視鏡、必要に応じ予防的大腸切除
2. リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)
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原因遺伝子:MMR遺伝子(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2)またはEPCAM
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遺伝形式:常染色体優性遺伝
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特徴:
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ポリープ数は少ないが若年発症(50歳未満)
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同時・異時多発が多い
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生涯リスク:大腸がん最大80%
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関連腫瘍:子宮内膜がん(女性では大腸がんと同等頻度)、胃がん、卵巣がん、小腸がん、胆道がん、膵がん、尿路上皮がんなど
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管理:遺伝子型に応じて20〜35歳から1〜2年ごとの大腸内視鏡
3. その他の遺伝性大腸がん関連疾患
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MUTYH関連ポリポーシス(MAP):常染色体劣性遺伝、大腸腺腫10〜100個、十二指腸がんリスク
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Peutz-Jeghers症候群(PJS):STK11変異、口唇や手足の色素沈着、小腸・大腸ポリープ
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若年性ポリポーシス症候群(JPS):SMAD4, BMPR1A変異、過誤腫性ポリープ多数
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ポリメラーゼ校正関連ポリポーシス(PPAP):POLE, POLD1変異、リンチ様表現型
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Cowden症候群(PTEN過誤腫症候群):乳がん、甲状腺がん、腎がんリスク上昇
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Li-Fraumeni症候群(LFS):TP53変異、多臓器腫瘍
診断の流れ
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リスク評価:家族歴・既往歴の聴取、若年発症や多発がんの有無
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家系図作成:第2度近親者まで
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病理・分子病理検査:ポリープ組織型、MSI検査、MMRタンパクIHC
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遺伝学的検査:原因遺伝子の同定(多くは保険適用外)、マルチ遺伝子パネル検査
定期検査・サーベイランスの推奨例
家族性大腸腺腫症(FAP)
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古典的FAP:10歳以降、1〜2年ごとに大腸内視鏡
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減弱型FAP:18〜20歳以降、2〜3年ごと
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手術後:残存腸管に応じ半年〜年1回内視鏡
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大腸外病変管理:上部消化管内視鏡、甲状腺超音波、デスモイド腫瘍チェックなど
リンチ症候群
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MLH1/MSH2:20〜25歳から1〜2年ごと大腸内視鏡
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MSH6/PMS2:30〜35歳から1〜3年ごと
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関連腫瘍に応じ、婦人科・胃内視鏡・尿路系検査も併用
遺伝カウンセリングと小児対応
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患者本人および第1度近親者への説明と同意
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小児期の発症が想定される疾患では発症前検査を検討(FAPなど)
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一部は小児慢性特定疾病事業の対象
まとめ
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遺伝性大腸がんは**全大腸がんの約5%**だが、若年発症・多発・多臓器がん合併のリスクが高い
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遺伝子変異の種類・家族歴に応じた生涯管理が必須
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早期発見のためには若いうちからの定期的内視鏡検査と多臓器スクリーニングが重要
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