医師監修|過敏性腸症候群(IBS)は食事で改善:低FODMAP食の始め方・3ステップ【きだ内科クリニック】
過敏性腸症候群(IBS)の食事療法|低FODMAP食の始め方とコツ
要点まとめ
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IBSの治療は食事療法が中核。薬物療法より高い症状改善を示す研究報告も。
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世界的に推奨されるのが低FODMAP食(発酵性糖質の選択・調整)。
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初期は「制限 → 再導入 → 個別化」の3ステップで、栄養バランスを保ちながら実践します。
IBSにおける食事療法の重要性
過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛・腹部膨満感、下痢や便秘などのお通じ異常が数か月以上続く機能性消化管疾患です。治療は薬だけでなく、食事・生活習慣の調整が不可欠です。
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有効性:4週間の介入試験では、**低FODMAP食で76%、低糖質食で71%**の方に症状改善がみられ、**標準薬物治療の58%**を上回りました。
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総合評価:メタ解析では低FODMAP食のNNT=4と報告され、**約50〜80%**で症状改善・QOL向上が期待できます。
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国内ガイドライン:日本消化器病学会は、症状を誘発しやすい食品を控える食事指導を提案(推奨度:弱、エビデンス:B)。
当院の考え方
低FODMAP食は「一生の厳格制限」ではなく、**自分の腸に合わない食品を見極めて、続けられる形に“最適化”**するための手順です。
低FODMAP食とは?(発酵性糖質のコントロール)
FODMAP=Fermentable(発酵性)Oligosaccharides / Disaccharides / Monosaccharides / And Polyols。
小腸で吸収されにくく、大腸で発酵→ガス産生、浸透圧で水分が引き込まれることで、IBSの内臓知覚過敏を刺激し、腹痛・膨満・下痢を悪化させます。
高FODMAPと低FODMAPの例
| FODMAP群 | 控えたい高FODMAP食品 | 置き換えやすい低FODMAP食品 |
|---|---|---|
| オリゴ糖(フルクタン/GOS) | 小麦(パン/パスタ/ラーメン)、玉ねぎ・にんにく、豆類(ひよこ豆・レンズ豆)、ごぼう | 米・米粉パン、にんじん、トマト、レタス、きゅうり |
| 二糖類(乳糖) | 牛乳・ヨーグルト・アイス・軟らかいチーズ | 乳糖オフ牛乳、硬質チーズ(チェダー/パルメザン)、アーモンドミルク |
| 単糖類(過剰フルクトース) | りんご・マンゴー・スイカ、はちみつ | バナナ、いちご、オレンジ、キウイ、みかん |
| ポリオール(ソルビトール/マンニトール等) | きのこ、カリフラワー、人工甘味料(ガム/飴) | じゃがいも、ズッキーニ、ピーマン、ほうれん草 |
実践は3ステップ:制限 → 再導入 → 個別化
1)制限期(2〜6週間)
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目的:高FODMAPを一旦広く避け、症状がFODMAP由来かを確認。
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コツ:食事内容と症状を食事日記で可視化。改善が乏しければ他要因(脂質・カフェイン等)も検討。
2)再導入期(トリガー特定)
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方法:低FODMAPを基本に、FODMAPを1種類ずつ少量から試す(2〜3日観察)。
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知見:**フルクタン(小麦・玉ねぎ・にんにく)やマンニトール(きのこ・海藻)**で再燃しやすい傾向。
3)個別化・維持期(長く続ける設計)
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目的:症状を起こす成分だけを必要最小限で調整。
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注意:過度な長期制限はカルシウム・鉄・食物繊維不足や腸内細菌叢への影響が懸念。バランス重視。
FODMAP以外で悪化しやすい食品と工夫
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高脂肪食:揚げ物、バター、脂身の多い肉(ベーコン/ソーセージ等)は腸刺激になりやすい。
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カフェイン:コーヒー・紅茶・エナジードリンクは大腸運動を刺激。
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強い香辛料:カプサイシンで灼熱感・痛みが増すことあり。
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アルコール:多量摂取は下痢を助長。
タイプ別のポイント(便秘型・下痢型)
すべての方に
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規則正しい食事、寝る前の食事は控える、ノンカフェインの十分な水分を。
便秘型(IBS‑C)
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水分摂取の徹底。
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食物繊維や発酵食品(ヨーグルト・納豆・味噌など)で腸内環境を整える。
※一部発酵食品は高FODMAPのため量と反応を個別に調整。
下痢型(IBS‑D)
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消化にやさしい:おかゆ、うどん、豆腐、白身魚など脂質控えめ。
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不溶性食物繊維の摂りすぎ注意(ごぼう・ブロッコリー等)。水溶性食物繊維(海藻・こんにゃく・オオバコ)を適量。
安全に続けるための注意点
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専門家に相談:自己流は栄養バランスが偏りやすいため、医師や管理栄養士の指導で開始を。
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診断の確認:IBSと似た症状は他疾患(大腸がん・炎症性腸疾患・セリアック病など)でも起こります。必要に応じて大腸内視鏡などの検査を。
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公式ツールの活用:モナッシュ大学の低FODMAP公式アプリ(日本語対応・有料)は、最新の食品データと適量目安を確認でき、日々の実践に有用です。
受診の目安(当院でご相談ください)
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食後の腹痛・膨満が3か月以上続く
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下痢・便秘を反復、または交互に繰り返す
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体重減少、発熱、血便、夜間痛など警告症状がある
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低FODMAP食を試したいがやり方が不安・うまくいかない
きだ内科クリニックでは
症状評価、必要な検査(血液・便検査、内視鏡の適応判断など)、食事プランの個別設計まで、医師が丁寧にサポートします。栄養バランスを保ちながら、続けられる現実的な食事をご一緒に作っていきましょう。
まとめ
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低FODMAP食はIBSのエビデンスに基づく食事療法。
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「制限→再導入→個別化」で、あなたの腸に合う食べ方を見つけるのが成功の鍵。
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無理のない範囲で栄養バランスを守り、専門家と二人三脚で継続を。
※本記事は一般的な情報提供です。個々の症状・ご状況により対応は異なります。自己判断での過度な食事制限は避け、医療機関へご相談ください。
執筆・監修:山形県米沢市 きだ内科クリニック 院長 木田 雅文
(医学博士/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医)
