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原因不明の腹痛は“腹壁の神経痛”?前皮神経絞扼症候群(ACNES)の症状・診断・治療を専門医が解説【きだ内科クリニック】

[2025.11.19]

【専門医が解説】前皮神経絞扼症候群(ACNES)とは?「原因不明の腹痛」の本当の正体と治療法

 

 

前皮神経絞扼症候群(ACNES:Anterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome) は、
腹壁(お腹の表面の筋肉・神経)に生じる慢性的な痛みの中で最も多い原因のひとつです。

 

しかし実際には、

  • 胃腸の病気と誤診

  • 検査が正常で「異常なし」と言われる

  • 心因性疼痛と誤解される

など “見逃されやすい腹痛” の代表 でもあります。

 

本記事では、ACNESの【原因・症状・診断・治療】を専門医が最新の医学情報に基づき詳しく解説します。

 

1. ACNESとは?腹壁神経が「絞扼」されて起こる痛み

 

■ 定義と別名

 

ACNES は、肋間神経(T7–T12)の前皮枝が 腹直筋鞘を貫く部位で圧迫(絞扼)される ことで生じる神経障害性疼痛です。

  • 正式名称:Anterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome

  • 別名:腹壁神経痛/腹部皮膚神経絞扼症候群

 

■ 病態のメカニズム

 

腹壁の神経は、腹直筋外縁で 90度に曲がり筋膜を突き抜ける構造 のため、圧迫・牽引で障害されやすく、
その結果

  • 神経虚血

  • 機械的刺激

  • 神経の微小損傷

などを起こし、強い局所痛を生じます。

 

2. ACNESの原因(誘因)|半数以上が“原因不明”だが実は共通点あり

 

報告では約 57%が特発性(原因不明) とされていますが、以下の因子が強く関与します。

 

● 手術歴・外傷(最も多い)

 

  • 帝王切開

  • ヘルニア手術

  • 開腹手術

  • ポート挿入後

術後すぐ発症する例から、6年後に発症するケースもあります。

 

● 腹壁への負荷・圧迫

 

  • 妊娠・肥満・激しい運動

  • 腹筋の過緊張

  • きついベルト・コルセット

  • 姿勢異常

 

● 病理学的要因

 

  • 脂肪パッドのヘルニア

  • 局所浮腫

  • 筋膜の硬化・線維化

 

● その他

 

  • 経口避妊薬

  • 軟骨の過可動性

  • COVID-19後の神経障害 が引き金となった報告もあり

 

3. ACNESの症状|“内臓痛とは全く違う”特徴がある

 

■ 主な症状

 

✔ 1. 指一本分の「狭い範囲」に限定された激痛

2cm²以内の限局した部位に 鋭い刺す痛み・焼ける痛み が持続。
→ 内臓痛との最大の違い。

 

✔ 2. トリガーポイント(最強点)が明確

腹直筋外縁(多くは臍の高さの右側)に 押すと激痛 の点がある。

 

✔ 3. 腹筋を使うと痛みが悪化

  • 起き上がる

  • 体をひねる

  • くしゃみ・咳

  • 重い物を持つ

で痛み増悪。
腹壁痛の特徴

 

✔ 4. 皮膚の感覚異常

  • 知覚過敏

  • しびれ

  • 温痛覚の変化

  • Pinchサイン陽性(皮膚をつまむと反対側より痛い)

 

✔ 5. 消化器症状に似た“擬似内臓症状”

  • 吐き気

  • 膨満感

  • 食欲低下

→ しかし 胃腸薬は効かない のが特徴。

 

4. ACNESの診断|最重要は「Carnett徴候」

 

診断は問診と身体診察が中心。
検査が正常でも診断できる数少ない疾患です。

 

■ ① Carnett徴候(最重要)

 

腹筋緊張時に痛みが 強くなる/変わらない → ACNES陽性
(内臓痛は腹筋で守られるため“痛みが軽くなる”)

腹壁痛と内臓痛の決定的鑑別

 

■ ② 画像検査は正常であることが多い

 

CT・MRI・エコーで異常が見つからないケースがほとんど。

 

■ ③ 診断的局所麻酔(ゴールドスタンダード)

 

トリガーポイントに局所麻酔を注射して
30分以内に痛みが50%以上改善 → ACNESと確定

 

5. ACNESの治療|段階的アプローチが最も有効

 

● ① トリガーポイント注射(第一選択)

 

リドカインなどを最強点に注入するだけで、
約1/3の患者が長期軽快

ステロイド併用で効果持続が期待できる。

 

● ② 超音波ガイド下ブロック

 

腹横筋膜面ブロック(TAP)
腹直筋鞘ブロック(RSB)
→ 精度が高く再発率の低下が期待。

 

● ③ ハイドロダイセクション

 

神経の周囲を注射で剥離する治療。
難治症例で劇的改善例あり。

 

● ④ 神経障害性疼痛薬

 

プレガバリン/ガバペンチン/アミトリプチリンなど
→ 痛みの緩和に有効
※ NSAIDsは効きにくい

 

● ⑤ 外科的治療(前方神経切除術)

 

注射で改善しない場合の標準治療。
成功率 約70%

再発例は後方神経切除術や腹腔鏡手術が検討される。

 

🔚【まとめ】

 

ACNESは、検査が正常でも起こる 「見逃されやすい腹痛の代表疾患」 です。

  • 指一本分の鋭い痛み

  • 腹筋使用で悪化

  • Carnett徴候陽性

  • 胃腸薬が効かない

などの特徴がある場合、ACNESを疑うことが重要です。
適切な治療で改善する可能性が高いため、専門医の診断を受けましょう。

 

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