原因不明の腹痛は“腹壁の神経痛”?前皮神経絞扼症候群(ACNES)の症状・診断・治療を専門医が解説【きだ内科クリニック】
【専門医が解説】前皮神経絞扼症候群(ACNES)とは?「原因不明の腹痛」の本当の正体と治療法
前皮神経絞扼症候群(ACNES:Anterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome) は、
腹壁(お腹の表面の筋肉・神経)に生じる慢性的な痛みの中で最も多い原因のひとつです。
しかし実際には、
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胃腸の病気と誤診
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検査が正常で「異常なし」と言われる
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心因性疼痛と誤解される
など “見逃されやすい腹痛” の代表 でもあります。
本記事では、ACNESの【原因・症状・診断・治療】を専門医が最新の医学情報に基づき詳しく解説します。
1. ACNESとは?腹壁神経が「絞扼」されて起こる痛み
■ 定義と別名
ACNES は、肋間神経(T7–T12)の前皮枝が 腹直筋鞘を貫く部位で圧迫(絞扼)される ことで生じる神経障害性疼痛です。
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正式名称:Anterior Cutaneous Nerve Entrapment Syndrome
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別名:腹壁神経痛/腹部皮膚神経絞扼症候群
■ 病態のメカニズム
腹壁の神経は、腹直筋外縁で 90度に曲がり筋膜を突き抜ける構造 のため、圧迫・牽引で障害されやすく、
その結果
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神経虚血
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機械的刺激
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神経の微小損傷
などを起こし、強い局所痛を生じます。
2. ACNESの原因(誘因)|半数以上が“原因不明”だが実は共通点あり
報告では約 57%が特発性(原因不明) とされていますが、以下の因子が強く関与します。
● 手術歴・外傷(最も多い)
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帝王切開
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ヘルニア手術
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開腹手術
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ポート挿入後
術後すぐ発症する例から、6年後に発症するケースもあります。
● 腹壁への負荷・圧迫
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妊娠・肥満・激しい運動
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腹筋の過緊張
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きついベルト・コルセット
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姿勢異常
● 病理学的要因
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脂肪パッドのヘルニア
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局所浮腫
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筋膜の硬化・線維化
● その他
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経口避妊薬
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軟骨の過可動性
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COVID-19後の神経障害 が引き金となった報告もあり
3. ACNESの症状|“内臓痛とは全く違う”特徴がある
■ 主な症状
✔ 1. 指一本分の「狭い範囲」に限定された激痛
2cm²以内の限局した部位に 鋭い刺す痛み・焼ける痛み が持続。
→ 内臓痛との最大の違い。
✔ 2. トリガーポイント(最強点)が明確
腹直筋外縁(多くは臍の高さの右側)に 押すと激痛 の点がある。
✔ 3. 腹筋を使うと痛みが悪化
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起き上がる
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体をひねる
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くしゃみ・咳
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重い物を持つ
で痛み増悪。
→ 腹壁痛の特徴
✔ 4. 皮膚の感覚異常
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知覚過敏
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しびれ
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温痛覚の変化
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Pinchサイン陽性(皮膚をつまむと反対側より痛い)
✔ 5. 消化器症状に似た“擬似内臓症状”
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吐き気
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膨満感
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食欲低下
→ しかし 胃腸薬は効かない のが特徴。
4. ACNESの診断|最重要は「Carnett徴候」
診断は問診と身体診察が中心。
検査が正常でも診断できる数少ない疾患です。
■ ① Carnett徴候(最重要)
腹筋緊張時に痛みが 強くなる/変わらない → ACNES陽性
(内臓痛は腹筋で守られるため“痛みが軽くなる”)
→ 腹壁痛と内臓痛の決定的鑑別
■ ② 画像検査は正常であることが多い
CT・MRI・エコーで異常が見つからないケースがほとんど。
■ ③ 診断的局所麻酔(ゴールドスタンダード)
トリガーポイントに局所麻酔を注射して
30分以内に痛みが50%以上改善 → ACNESと確定
5. ACNESの治療|段階的アプローチが最も有効
● ① トリガーポイント注射(第一選択)
リドカインなどを最強点に注入するだけで、
約1/3の患者が長期軽快。
ステロイド併用で効果持続が期待できる。
● ② 超音波ガイド下ブロック
腹横筋膜面ブロック(TAP)
腹直筋鞘ブロック(RSB)
→ 精度が高く再発率の低下が期待。
● ③ ハイドロダイセクション
神経の周囲を注射で剥離する治療。
難治症例で劇的改善例あり。
● ④ 神経障害性疼痛薬
プレガバリン/ガバペンチン/アミトリプチリンなど
→ 痛みの緩和に有効
※ NSAIDsは効きにくい
● ⑤ 外科的治療(前方神経切除術)
注射で改善しない場合の標準治療。
成功率 約70%
再発例は後方神経切除術や腹腔鏡手術が検討される。
🔚【まとめ】
ACNESは、検査が正常でも起こる 「見逃されやすい腹痛の代表疾患」 です。
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指一本分の鋭い痛み
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腹筋使用で悪化
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Carnett徴候陽性
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胃腸薬が効かない
などの特徴がある場合、ACNESを疑うことが重要です。
適切な治療で改善する可能性が高いため、専門医の診断を受けましょう。
