婦人科では異常なし…それでも下腹部が痛い?女性に多い“見落とされがちな原因10選”を専門医が徹底解説
婦人科だけじゃない!女性の下腹部痛の原因10選
― 内科で見落とされやすい病気を専門的にわかりやすく解説 ―
女性の「下腹部が痛い」という訴えは、外来診療でも非常に多い症状です。
多くの人がまず「婦人科の病気(子宮や卵巣)」を心配しますが、下腹部には腸・膀胱・尿管・血管・神経など多くの臓器が集まっているため、婦人科以外の病気でも下腹部痛は起こります。
実際に、急性腹症として救急を受診した女性のうち、
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約12%が泌尿器科疾患
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約12%が婦人科疾患
とされており、特に40歳以下では**産婦人科疾患が約45%**を占める一方で、消化器・泌尿器・神経・血管など他科の病気も少なくありません。
このページでは、**「婦人科以外の原因で起こる女性の下腹部痛」**について、内科診療で見落とされがちな代表的10疾患を、医学的観点からわかりやすく解説します。
※この記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、自己診断・自己治療には使わないでください。気になる症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。
婦人科以外の“女性下腹部痛”の代表的原因10選
Ⅰ. 消化器系疾患(Gastrointestinal Diseases)
1. 急性虫垂炎(Acute Appendicitis)
いわゆる「盲腸」です。右下腹部痛の代表的な原因で、見逃しが命に関わることもある重要な疾患です。
典型的な経過
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最初は「みぞおち〜おへそ周囲」がなんとなく痛む
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数時間〜半日かけて、痛みがだんだん 右下腹部に移動・限局
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食欲低下、吐き気、発熱を伴うことが多い
しかし、虫垂の位置が生まれつき変わっている場合や、初期は症状がはっきりしない場合もあり、卵巣の病気や他の消化器疾患と誤診されやすい点に注意が必要です。
診断が遅れると、虫垂穿孔 → 汎発性腹膜炎 → 敗血症と進行し、重篤化・訴訟リスクともに高い疾患です。
「右下腹部の持続する強い痛み+発熱」 は、早急な受診のサインです。
2. 大腸憩室炎(Diverticulitis)
大腸の壁の一部が袋状(憩室)に膨らみ、そこに便や細菌が溜まって炎症を起こす病気です。
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多くは 左下腹部痛(S状結腸)+発熱 として出現
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右側(上行結腸や盲腸)に憩室がある場合は 右下腹部痛 となり、虫垂炎との鑑別が問題になります
腹部CT検査が診断に有用で、穿孔や膿瘍形成があれば緊急対応が必要です。
3. 過敏性腸症候群(IBS)
「検査では異常がないのに続く腹痛・下痢・便秘」 が特徴の機能性腸疾患です。
女性に多く、ストレスや不安、抑うつと密接に関係します。
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慢性的な下腹部痛や張り感
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便秘型・下痢型・混合型の排便異常
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婦人科では異常なし→その後の精査でIBSと判明、というケースも多い
血液検査やCT、内視鏡で明らかな器質的異常を認めないことが多く、「検査は大丈夫と言われたが痛みが続く」女性の下腹部痛の重要な原因です。
4. 便秘・腸閉塞(Constipation / Intestinal Obstruction)
● 便秘
便秘は女性の左下腹部痛の最も一般的な原因の一つです。
S状結腸に便が溜まることで、左下腹部に違和感や鈍い痛みが出やすくなります。
● 腸閉塞(イレウス)
腸管が塞がって内容物が流れなくなる状態で、緊急性の高い疾患です。
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間欠的な差し込むような腹痛
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吐き気・嘔吐・排ガスや排便の停止
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腹部膨満
嘔吐すると一時的に痛みが軽くなることがありますが、放置すれば血流障害や穿孔に進行する危険があります。
5. 炎症性腸疾患(IBD:潰瘍性大腸炎・クローン病)
免疫異常などを背景に、消化管に慢性の炎症・潰瘍が起こる病気です。
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痙攣性の腹痛
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下痢(潰瘍性大腸炎ではしばしば血便)
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発熱・体重減少・倦怠感
特にクローン病では、小腸末端(回腸)の炎症が多く、右下腹部痛が前面に出て虫垂炎と紛らわしい場合があります。若年女性の慢性腹痛では、IBDの可能性も念頭に置く必要があります。
6. 消化管穿孔(Gastrointestinal Perforation)
大腸がん・憩室炎・潰瘍などで腸管に穴が空き、内容物が腹腔内に漏れ出た状態です。
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急激で耐えがたい強い腹痛
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腹部全体が板のように硬くなる(板状硬)
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発熱、ショック
緊急開腹手術が必要な腹部救急の代表疾患であり、見逃しは致命的です。
Ⅱ. 泌尿器系疾患(Urological Diseases)
7. 尿管結石(Ureteral Calculi)
腎臓でできた結石が尿管につまり、突然の激烈な痛みを引き起こします。
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腰背部〜側腹部〜下腹部〜外陰部へと移動する刺すような痛み
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じっとしていられないほどの痛み
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吐き気・嘔吐・血尿を伴うことが多い
結石の位置によっては 右下腹部痛 として自覚され、虫垂炎や婦人科疾患と紛らわしいことがあります。尿検査やCTが診断に有用です。
8. 膀胱炎・尿路感染症(Cystitis / UTI)
女性に非常に多い、細菌感染による膀胱の炎症です。
典型的な症状
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下腹部(恥骨上)の鈍い痛み・違和感
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排尿痛(しみる・痛い)
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頻尿・残尿感
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血尿
「排尿症状を伴う下腹部痛」 は、泌尿器科的原因を強く示唆します。
発熱や腰痛を伴う場合は、腎盂腎炎など上部尿路感染へ進展している可能性があるため注意が必要です。
Ⅲ. 神経・血管・機能性疾患
9. 前皮神経絞扼症候群(ACNES)
ACNES(abdominal cutaneous nerve entrapment syndrome)は、腹壁(お腹の筋肉や皮膚)由来の痛みで、慢性腹痛の1〜3割を占めるとも言われています。
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痛みは お腹のごく狭い一点(直径2cm程度)に限局
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そのポイントを押すと強い痛み
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咳・くしゃみ・腹筋運動などで痛みが増悪
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体位によって痛みが変化
内臓由来の痛みと異なり、腹筋に力を入れても痛みが増す(Carnett徴候陽性)のが特徴です。
血液検査や画像検査では異常が出ないため、内科や婦人科で“異常なし”と言われた後に見落とされがちな重要疾患です。
10. 骨盤内うっ血症候群(Pelvic Congestion Syndrome:PCS)
PCSは、骨盤内静脈の拡張・逆流 によって起こる慢性骨盤痛です。
婦人科・泌尿器科・消化器内科の検査で原因が見つからない下腹部痛の一因として注目されています。
特徴的なポイント
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6カ月以上続く鈍い下腹部痛・骨盤痛
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立っている・長時間の立ち仕事で悪化し、横になると楽になる
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夕方〜夜に痛みが強くなりやすい
超音波・CT・MRIなどの画像検査に加え、最終的には血管造影で卵巣静脈の逆流を確認することがあります。
原因不明として「気のせい」「うつ病」とされてしまうケースもあり、内科で見落とされやすい疾患です。
内科医・患者さんがともに意識したい診断のポイント
女性の下腹部痛を診るうえで、内科医・患者双方が特に意識すべきポイントは次の3つです。
1. 妊娠の可能性を必ず確認する
閉経後を除き、妊娠可能年齢の女性では妊娠反応の確認が必須です。
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「生理が来ているから妊娠ではない」と自己判断しない
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子宮外妊娠では、不正出血が「生理」と誤認されることがある
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子宮外妊娠は破裂すると致命的になりうる緊急疾患
内科であっても、「妊娠の可能性」を常に頭に置く必要があります。
2. まず“致死的な病気”を見逃さない
突然の激しい腹痛では、
「破れる・裂ける・詰まる・捻じれる」系の疾患 を最優先で除外します。
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腹部大動脈瘤破裂
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腸間膜動脈閉塞
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卵巣腫瘍茎捻転
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消化管穿孔
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絞扼性イレウス など
「今まで経験したことがないような激しい痛み」「急に痛みがピークになる」 場合は、救急受診をためらわないことが重要です。
3. “非特異的腹痛”と経過観察の重要性
急性腹症のうち、25〜30%は原因が特定できない腹痛(非特異的腹痛) と言われています。
その約80%は自然軽快しますが、残りの20%は悪化する可能性があります。
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初診時に「原因がはっきりしない」ことは珍しくない
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大事なのは「いつ再診すべきか」を明確にしておくこと
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悪化のサイン(発熱、嘔吐、痛みの増悪、出血など)があればすぐ受診
「今日は重大疾患が否定的だが、○日以内にこうなったら必ずもう一度受診してください」という方針を共有することが、見落とし防止に非常に重要です。
まとめ:女性の“下腹部痛”は、多角的な視点で原因を探ることが大切
女性の下腹部痛は、
**婦人科疾患だけでなく、消化器・泌尿器・神経・血管・機能性疾患など多くの原因が絡み合う「多層構造の問題」**です。
たとえるなら、
女性の下腹部痛の診断は 「多階建てのビルで起きた火災の原因を探る作業」 に似ています。
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1階(婦人科)だけでなく、
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2階(消化器)、3階(泌尿器)、構造部分(神経・血管)
まで視野を広げて調べないと、“本当の出火元”は見つかりません。
「検査で異常なし」と言われても症状が続く場合、
視点を変えることで初めて見えてくる病気も多数存在します。
こんな症状があるときは早めの受診を
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突然の激しい腹痛
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発熱・嘔吐・血便・黒色便
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排尿時の強い痛みや血尿
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失神を伴う立ちくらみ
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体重減少や食欲低下が続く
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妊娠の可能性がある腹痛・出血
一つでも当てはまる場合は、早めに内科・婦人科・救急外来などで相談してください。
「婦人科で異常なしと言われても、まだ他に原因がないとは言えない」 ― これを覚えておくだけでも、見落とされやすい病気の早期発見につながります。
