事業所で熱中症の疑いがある人が出たときの具体的対応手順
事業所における熱中症発症時の対応マニュアル
【緊急対応フェーズ】
▶ 状況発見時の即時行動(5分以内)
【現場作業員/目撃者】
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異変を察知したらすぐに声かけ:「大丈夫ですか?気分悪くないですか?」
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明らかに異常(ふらつき・意識低下)であれば、その場で動かさず、すぐに上司・班長を呼ぶ
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同時に以下の3点を報告
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誰が(氏名・年齢)
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どこで(現場名・階数)
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どんな状態(意識がある/ない・嘔吐・けいれん など)
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【班長/主任】
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作業を一時停止させ、全体安全確保(2次災害防止)
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補助者をつけて、患者を搬送(※歩行困難なら担架で)
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避難先の準備指示:
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エアコンが効いた室内 or 日陰で通気のあるスペース
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必要物品(保冷剤・体温計・パルスオキシメーター)を指示
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【応急処置フェーズ】
▶ 5〜15分以内に以下を完了する
【応急処置担当(通常は救護係または安全衛生担当)】
① 冷却処置(同時進行)
| 冷やす場所 | 方法 |
|---|---|
| 首 | 保冷剤・氷嚢をタオルで巻いて当てる |
| 脇の下 | 服の上からでも可。2枚の保冷剤で挟むと効果的 |
| 太ももの付け根 | ズボンの上からでも構わない。体幹部の太い血管を狙う |
※保冷剤がない場合:水で濡らしたタオル+うちわ/扇風機
② 水分・塩分補給(意識がある場合のみ)
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経口補水液(OS-1)、スポーツドリンク(500mlを10分以上かけて少しずつ)
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塩タブレット or 塩飴を併用しても良い
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「冷えたお茶」や「水」は単独では脱水回復に不十分
③ バイタルチェック(専任または救護係)
| 測定項目 | 測定器 | 注意点 | 危険値 |
|---|---|---|---|
| 体温 | 電子体温計(腋下・耳式) | 耳式の場合は正確に挿入 | 38.0℃以上 → 重症疑い |
| 血圧 | 自動血圧計(上腕式) | 電池・カフのずれ注意 | 上が100未満 → 要注意 |
| SpO₂ | パルスオキシメーター | 爪が汚れていると誤差大 | 94%以下 → 救急要請 |
※体温計・血圧計・SpO₂は最低月1回の点検・校正・電池確認をルール化
④ 意識レベル確認(JCS簡易評価)
| 反応 | JCSレベル | 判定 |
|---|---|---|
| すぐに答える・目が合う | 0 | 意識清明(軽症) |
| 呼びかけにやや遅れて反応 | 1〜3 | 意識障害軽度(中等度) |
| 呼びかけに反応しない/開眼せず | 10以上 | 意識障害(重症。即119番) |
【責任者/安全衛生管理者】
🚑 救急要請の判断基準(1つでも該当すれば通報)
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意識がはっきりしない・会話が成立しない
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水分が自分で飲めない
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嘔吐・けいれん・呼吸困難がある
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バイタルで以下のいずれかに該当:
→ 体温38.5℃以上/収縮期血圧<90/SpO₂<94%
📞119番 → 明確に「職場内で熱中症の疑い。現在意識レベルが低下しており、冷却中です」と伝える。
【救急車到着までに行うこと】
| 担当 | 行動 |
|---|---|
| 冷却係 | 冷却処置継続(最低3点) |
| 情報係 | 通報内容を整理/救急隊へ報告用シート記入 |
| 誘導係 | 救急車が建物内に入れるよう、門扉開放・誘導 |
| 記録係 | 処置記録(時間・処置内容・水分量)を記録し、搬送先に引き継ぐ |
1. 【社内報告】
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発生状況、対応経緯、処置内容、バイタル記録、搬送先
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管理者・人事・労基署提出用様式に準拠
2. 【再発防止対策の立案】
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発生環境の確認(WBGT値・作業内容・時間帯)
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予防ルールの見直し(作業中の服装・水分補給の頻度)
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実効性のある暑熱順化プログラムの導入検討
3. 【復職前評価】
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医師の診断書確認
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面談・業務軽減・配置転換などの措置検討
熱中症の軽症・中等症における事業所での対応
1. 重症・中等症・軽症の目安(簡易判定)
| 項目 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
|---|---|---|---|
| 意識 | はっきりしている | 少しぼんやり/返事が遅い | 返事がない/反応がない |
| 体温 | ~37.9℃程度 | 38.0~39.0℃ | 39.0℃以上 |
| 血圧 | 正常範囲内(上100以上) | やや低下(上90~100) | 上90未満 |
| 呼吸/脈拍 | やや早い | 明らかに速い | 呼吸困難・極端な頻脈 |
| 発汗 | 多い | 多量 or 無汗 | 汗が出ていない |
| その他症状 | だるさ、立ちくらみ、軽い頭痛 | 吐き気、嘔吐、倦怠感、軽い意識低下 | けいれん、意識消失、手足の麻痺 |
2. 軽症〜中等症への基本対応(救急車不要のケース)
▼ 対象:
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意識が明瞭で受け答えができる
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自力で水分を摂取できる
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バイタルが軽度の異常(体温37.8〜38.5℃/血圧正常〜やや低下)
対応フロー(所要時間:30〜60分)
【1】冷却・休息環境の整備
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エアコンの効いた室内/風通しのよい日陰に移動
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安静にして足を少し高くして横になる
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衣服をゆるめて熱放散を促す
【2】身体冷却(体温が下がるまで継続)
| 部位 | 方法 |
|---|---|
| 首・脇・足の付け根 | 保冷剤/氷嚢をタオルで巻いて当てる(15~30分) |
| 全身 | うちわ/扇風機で風を送る、濡れタオルで体表を拭く |
【3】水分・塩分補給(症状が軽快するまで)
| 飲み物 | 量と頻度 | 備考 |
|---|---|---|
| 経口補水液(OS-1など) | 100~200mlずつ、10分おき | 吐き気がなければ継続 |
| スポーツドリンク | 経口補水液がない場合 | 甘味が強いものは薄めて使用も可 |
| 塩タブレット・飴 | 並行して摂取可 | 「水だけ」では塩分不足に注意 |
【4】バイタル確認(初回+30分後)
| 測定項目 | 観察ポイント |
|---|---|
| 体温 | 30分で0.5~1℃下がれば良好 |
| 血圧 | 上100以上に回復しているか |
| 脈拍 | 徐々に下がっているか(安静時60~100程度) |
【5】30分経過後の判断と帰宅可否
| 状態 | 対応 |
|---|---|
| 体温・血圧が安定し、症状が改善 | その日は安静を促し、帰宅を推奨(同伴付き) |
| 軽快しない/再発傾向あり | 上司判断で医療機関受診(市立救急)を手配(社用車or家族) |
| 意識低下/水分摂取不能に進行 | 直ちに救急車を要請(中等症→重症へ進行) |
3. 帰宅後・翌日以降の注意事項(文面渡し推奨)
本日は軽度~中等度の熱中症と判断され、現場で応急処置を実施しました。
帰宅後は以下の点にご注意ください:
再び高熱・倦怠感・頭痛・吐き気があればすぐ市立病院救急を受診してください
その日の飲酒や長時間入浴は避けてください
翌朝の体調確認を行い、不調があれば出勤を控えてください
4. 中等症対応時の記録(書式例)
| 項目 | 記録例 |
|---|---|
| 発見日時 | 2025年7月14日 13:42 |
| 発見者 | 製造3課 山田太郎 |
| 症状 | 顔面紅潮、頭痛、倦怠感を訴え。歩行可能だがふらつきあり |
| バイタル(初回) | 体温38.2℃、血圧104/68、SpO₂ 96%、脈拍112 |
| 処置内容 | エアコン室に移動、冷却3点、経口補水液 300ml摂取 |
| バイタル(30分後) | 体温37.5℃、血圧112/72、脈拍94 |
| 最終判断 | 軽快傾向あり。自宅安静指示し同僚とともに帰宅 |
| 担当者 | 救護係 佐藤花子/記録者 管理係 鈴木健一 |
5. その他補足
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軽症・中等症でも、熱中症を一度発症した人は再発リスクが高いため、1週間程度は作業強度の見直し・時短勤務・午前勤務などを配慮するのが望ましい
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実際の中等症例の約10〜20%が数時間以内に重症化するという報告もあり、「軽いから大丈夫」と放置しないことが肝要
