痩せているのに脂肪肝?「隠れ脂肪肝(Lean MASLD)」の正体と危険性を最新研究で徹底解説【きだ内科クリニック】
【専門医が警告】「隠れ脂肪肝」が急増中!痩せていても発症する「Lean NAFLD/Lean MASLD」の正体とは?
近年、健康診断で 「痩せているのに脂肪肝です」 と指摘されるケースが急増しています。
これは 「隠れ脂肪肝(Lean NAFLD/Lean MASLD)」 と呼ばれる新しい病態で、特に アジア人で多く、日本でも深刻な問題 になりつつあります。
従来の「脂肪肝=太った人の病気」という常識はすでに崩壊。
痩せていても発症する Lean MASLD は、むしろ重症化しやすい危険なタイプであり、正しい理解が必要です。
1. 脂肪肝の名称変更と「隠れ脂肪肝」の本当の意味
■ NAFLD → MASLD へ名称変更
これまで、飲酒以外で起こる脂肪肝は NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患) と呼ばれてきました。
しかし
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“脂肪性”“非アルコール性”という言葉は患者に誤解や偏見を与える
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肝臓ではなく「代謝異常」が病気の本質
という国際的議論を経て、2023年に名称が変更されました。
現在の正式名称は:
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MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)
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重症型は MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎) ※旧NASH
■ Lean MASLD(痩せ型脂肪肝)とは?
Lean MASLD とは、
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BMIが正常(日本人は23未満)にも関わらず
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脂肪肝と代謝異常を持つ状態
を指します。
日本では MASLD患者の約20%が非肥満者。
さらに、「2040年に日本人の半数が脂肪肝になる」という衝撃的データも報告されています。
2. 痩せているのに発症する理由(病態生理)
Lean MASLDの原因は、BMIでは説明できない「体の内側の代謝異常」にあります。
① 内臓脂肪の蓄積(隠れ肥満)
見た目は痩せていても、
内臓脂肪だけ多い“隠れ肥満” が頻繁に見られます。
内臓脂肪は悪玉ホルモン(炎症性サイトカイン)を放出し、
肝臓に流れ込むことで炎症・酸化ストレスを引き起こします。
② インスリン抵抗性(代謝異常)
Lean MASLDの核心ともいえる要因。
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肝臓に脂肪が溜まりやすくなる
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脂肪組織から遊離脂肪酸が大量流入
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肝炎(MASH)や線維化の進行
痩せていても糖尿病予備軍タイプの代謝異常が潜んでいるケースが多いです。
③ サルコペニア(筋肉不足)
筋肉が少ないと基礎代謝が低下し、
脂肪が肝臓に蓄積しやすくなります。
Lean MASLDでは サルコペニアが独立した危険因子。
④ 遺伝的体質(日本人に多い)
特に注目される遺伝子:
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PNPLA3変異(日本人の約30%)
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TM6SF2変異
これらを持つ人は、痩せていても脂肪肝になりやすい “体質” があります。
⑤ 不適切な食習慣
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夜食が多い
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菓子パン・麺類中心
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タンパク質不足
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急激なダイエット
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極端な糖質制限による低栄養性脂肪肝
痩せていても脂肪肝が悪化する典型的パターンです。
3. 痩せ型脂肪肝は“重症化しやすい”という事実
「痩せているから大丈夫」は非常に危険です。
Lean MASLDは、肥満型よりも 進行しやすい ことが明らかになっています。
■ MASH(脂肪肝炎)へ進行しやすい
炎症 → 線維化 → 肝硬変 → 肝がん
と進むスピードが速い傾向があります。
■ 死亡率・心血管疾患リスクも高い
Lean MASLDは:
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全死亡率 ↑
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心筋梗塞・脳卒中リスク ↑
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肝臓がんリスク ↑
肥満型と同等、もしくはそれ以上になることも。
■ 他臓器がんのリスクも上昇
大腸がん、膵臓がん、子宮がんなど
肝臓以外のがんリスクも増加 することが報告されています。
4. 診断と治療のポイント
■ BMIだけでは絶対に見抜けない
血液検査(AST/ALT)が正常でも、脂肪肝は隠れていることがあります。
必要な検査
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腹部エコー(脂肪肝チェック)
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肝硬度測定(VCTE)
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MRエラストグラフィ(MRE)
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FIB-4インデックス(線維化のスクリーニング)
5. 痩せ型脂肪肝の治療:体重を減らさず改善する
Lean MASLDは 体重を減らすと悪化する危険性 があるため、治療戦略が重要です。
■ 基本は「内臓脂肪の減少」と「体組成改善」
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タンパク質を増やす
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果糖・砂糖を控える
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夜食・加工食品を避ける
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有酸素運動+筋トレ
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生活習慣の最適化
■ 薬物療法(併存疾患から攻める)
MASLD改善に寄与する薬
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GLP-1受容体作動薬
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SGLT2阻害薬
(※MASH治療薬としての保険適用はなし)
🔚 結論:Lean MASLDは「痩せている人ほど危険」な新しい国民病
Lean MASLDは、BMIでは評価できない“代謝の病気”。
痩せている=健康、ではありません。
健康診断で肝機能異常を指摘されたら、
体重ではなく“代謝の状態”を疑うことが重要。
早期診断・生活改善・正しい運動と食事で、
肝硬変や肝がんへの進行を確実に防ぐことができます。
