胆汁逆流性胃炎(ビレリフラックス胃炎)とは?原因・症状・治療を専門医が最新エビデンスで解説【きだ内科クリニック】
【専門医が解説】胆汁が胃を痛める「ビレリフラックス胃炎(胆汁逆流性胃炎)」とは?|原因・症状・診断・治療のすべて
**ビレリフラックス胃炎(Bile Reflux Gastritis: BRG/胆汁逆流性胃炎)**は、
胆汁が十二指腸から胃へ逆流することで、胃粘膜に炎症・びらん・潰瘍を引き起こす疾患です。
胃酸による典型的な胃炎とは異なり、アルカリ性の胆汁や膵液が胃粘膜を“洗剤のように”溶かしてしまうことが特徴で、日本では見逃されやすい病気の一つです。
本記事では、最新の医学的エビデンスに基づき、
原因・危険因子・症状・診断・治療法・予後を包括的に解説します。
🔍 胆汁逆流性胃炎(BRG)とは?
ビレリフラックス胃炎は、
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胆汁
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膵液
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腸液
などのアルカリ性の十二指腸内容物が胃へ逆流することで、胃粘膜に炎症を引き起こす状態です。
別名:アルカリ逆流性胃炎(ARG)
胆汁酸やリゾレシチンが強力な“洗剤作用”を持ち、
胃粘膜の防御壁(粘膜バリア)を破壊 → 炎症・痛み・びらん・潰瘍につながる
という特徴があります。
🧪 胆汁逆流が胃を痛める“病態メカニズム”
① 逆流が起きる理由
以下の機能異常が逆流の引き金になります:
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幽門括約筋の機能不全
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胃の運動低下(胃排出遅延)
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下部食道括約筋(LES)障害
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十二指腸の運動異常
② 胆汁酸とリゾレシチンの強力な“粘膜破壊作用”
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胆汁酸は粘膜表面の脂質を溶かし、バリアを破壊
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胃酸の刺激が粘膜に直接届き赤み(発赤)、浮腫、びらんを起こす
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膵液中のホスホリパーゼA2が粘膜をさらに損傷
③ アルカリ環境で細菌が増殖し炎症悪化
胆汁が胃に逆流 → 胃内pH上昇 → 胃の殺菌力低下
→ 細菌増殖 → 炎症を悪化させる
⚠️ 原因・危険因子
1. 外科手術後の胆汁逆流(最も一般的)
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胃切除(Billroth II法)
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胃全摘術
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迷走神経切断術
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肥満外科手術
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胆嚢摘出術(胆嚢を失うため胆汁が常時腸へ流れる)
2. 括約筋・運動性の障害
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胃不全麻痺
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胃排出遅延
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幽門・オッディ括約筋の機能障害
3. 併存疾患
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糖尿病
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肥満
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胆道疾患(胆石症など)
4. 生活習慣・薬剤
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NSAIDs・アスピリン
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アルコール
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喫煙
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高脂肪食
5. ピロリ菌との複雑な関係
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BRG患者はピロリ陰性が多いという研究
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しかしピロリによる粘膜障害が胆汁逆流炎症を悪化させる可能性も
🤕 臨床症状
BRGの症状は多彩ですが典型的には:
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上腹部痛(みぞおちの痛み)
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吐き気・嘔吐
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口の中の強い苦味
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胸焼け
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食欲低下
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脂っこい食事で悪化しやすい
※胆汁逆流の量と症状の強さは比例しないことが多い
🧫 診断方法
1. 内視鏡検査(最重要)
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胃内に黄緑色の胆汁が貯留
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発赤・びらん・潰瘍
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胃粘膜の胆汁染色
2. 組織学的検査(生検)
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腺窩上皮過形成
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浮腫
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胃上皮内の胆汁酸結晶
→ 確定診断に不可欠
3. 胆汁逆流の測定(Bilitecモニタリングなど)
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胃内ビリルビン濃度を測定し逆流を定量化
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病的逆流かどうかを判定
💊 治療法|生活改善 → 薬物 → 外科治療の順で検討
1. 生活習慣・食事の改善(まず最優先)
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高脂肪食、チョコ、柑橘、コーヒー、アルコールを控える
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食後すぐ横にならない
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少量頻回食にする
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就寝時は頭側を高くして寝る
2. 薬物療法
● ウルソデオキシコール酸(UDCA)
胆汁酸の毒性を軽減し、炎症改善。BRGの第一選択薬。
● 消化管運動改善薬(イトプリドなど)
胃排出を改善し逆流を減少。
● PPI(プロトンポンプ阻害薬)
胃酸は抑えるが胃酸以外の炎症に限界あり。ただし抗炎症効果の報告あり。
3. 外科治療(重症例)
薬物で改善しない場合:
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**ルーワイ法(Roux-en-Y)**などの胆汁バイパス術
→ 胆汁を胃から迂回させる根治的治療
🔥 合併症と予後(放置は危険)
慢性的な胆汁逆流は以下の重大リスクを引き起こします:
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消化性潰瘍
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胆汁逆流性食道炎(BRE)
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バレット食道(前がん病変)
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胃がん発症リスクの上昇
適切に治療すれば改善が期待できますが、慢性化すると合併症のリスクが高まります。
🧠 まとめ|ビレリフラックス胃炎は「見逃されがちだが重要な疾患」
胆汁逆流性胃炎は、胃酸だけでは説明できない
“強力な胆汁酸の洗剤作用による粘膜破壊” が根本原因。
症状が曖昧で見逃されやすいため、
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みぞおちの痛み
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口の苦味
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胃薬で改善しない胃炎
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手術歴・胆嚢摘出後
などがある場合は、早期に内視鏡検査と適切な治療が必要です。
