健診で甲状腺腫大と言われたら|まず受けるべき検査と受診の目安を医師がわかりやすく解説
健診で甲状腺腫大を指摘されたら
― 一般内科医が押さえておきたい検査項目と評価の流れ ―
甲状腺腫大を見たときに考えるべきことは、シンプルに言うとこの3つです。
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機能異常はあるか?(甲状腺ホルモンが多い/少ない)
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びまん性か、結節性か?(腫れ方のパターン)
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悪性(がん)の可能性は高くないか?
この3本柱を、
「採血(機能+抗体)+エコー」を中心に整理していくのが基本です。RACGP+1
1.まず行う評価:問診・触診・ベースの検査
1-1 問診・身体所見で必ず確認したいポイント
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いつ頃から腫れに気付いたか(急速?ゆっくり?)
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体重減少・動悸・手指振戦・発汗などの甲状腺機能亢進症状
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倦怠感・体重増加・むくみ・寒がりなどの機能低下症状
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嗄声、嚥下困難、呼吸苦などの圧迫症状
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小児期の頸部放射線照射歴
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甲状腺疾患の家族歴
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触診で
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びまん性か結節性か
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硬さ(硬い・ゴロゴロ)
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可動性の低下
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圧痛の有無
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頸部リンパ節腫脹
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赤信号(あれば早めに専門医紹介)
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急速に大きくなった腫瘤
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非対称性の硬い結節+可動性低下
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嗄声・嚥下困難・呼吸苦
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異常な頸部リンパ節
2.基本採血セット:甲状腺機能検査
最初に行うべきは TSH です。RACGP+1
多くの施設では実務的に
TSH + FT4(+必要ならFT3) を同時にオーダーしてしまう方がスムーズです。
| 検査項目 | 役割(イメージ) |
|---|---|
| TSH | 「脳(下垂体)からの指令の強さ」 |
| FT4 | 甲状腺がどれだけホルモンを出しているか |
| FT3 | 必要例に限る。亢進症の重症度評価など |
※基準値は施設で微妙に違うので、必ず各検査室のリファレンスレンジで判断。
2-1 パターン別のざっくり読み方
| パターン | FT4/FT3 | TSH | よくある病態 |
|---|---|---|---|
| 明らかな亢進症 | ↑ | ↓ | バセドウ病、中毒性結節、無痛性・亜急性甲状腺炎など |
| 明らかな低下症 | ↓ | ↑ | 橋本病(慢性甲状腺炎)、手術・RAI後など |
| 潜在性亢進症 | → | ↓ | 早期のバセドウ病、中毒性結節など |
| 潜在性低下症 | → | ↑ | 橋本病初期など |
TSHが正常で症状もなければ、機能的には大きな問題がないことが多いです。bluecrossnc.com
3.甲状腺エコー(超音波):形態評価の中心
健診で腫大を指摘された患者では、
甲状腺エコーはほぼ必須と考えてよいです。RACGP+1
3-1 エコーで見るポイント
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びまん性腫大か、結節性か?
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結節があれば
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大きさ(mm単位)
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個数(単発か多発か)
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内部エコー(等〜高エコー/低エコー/嚢胞性)
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形状・境界(平滑か、不整か、縦長か)
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石灰化の有無(微細石灰化は要注意)
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血流(カラードプラ)
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3-2 ざっくり印象
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びまん性+内部が粗造でやや高エコー/低エコー → 橋本病をまず疑う
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びまん性+血流増加 → バセドウ病を疑う
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結節主体 → 前回の「結節対応」のフローに沿って評価(良性vs悪性、FNAの適応)
4.自己抗体検査:原因診断の「ラベル付け」
機能異常があれば、自己免疫性かどうかを見極めます。ACR Voice+1
| 検査 | 主にわかること |
|---|---|
| TRAb / TSAb | 陽性ならバセドウ病の可能性が高い |
| TPOAb(抗TPO抗体) | 橋本病の診断に有用 |
| TgAb(抗サイログロブリン抗体) | 同じく橋本病の診断補助。バセドウでも陽性になることあり |
実務上は
「TSH異常+エコーでびまん性→抗体で原因を確定」
というイメージで良いと思います。
5.TSH低値のときに考える追加検査:シンチグラフィ
TSHが明らかに低値で、
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結節性腫大
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臨床的に中毒症状あり
といった場合には、**甲状腺シンチ(アイソトープ)**で hot / cold を見ると診断がクリアになります。RACGP+1
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びまん性取り込み増加 → バセドウ病
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限局した取り込み増加 → 機能性結節(中毒性結節)
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hot nodule は悪性のことが極めてまれ → 通常FNA不要
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取り込み低下 → 甲状腺炎系(無痛性・亜急性)など
非専門医の先生は、
「TSH低値+エコーで結節あり → シンチ or 内分泌専門医への紹介」
というシンプルなルールで十分です。
6.腫瘍性病変の評価:結節があれば FNA の適応を考える
腫大が結節性で、
エコーで結節を認める場合は、前回の結節記事と同様に、
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エコー所見で良性寄りか悪性寄りか評価
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サイズと所見に応じて FNA(穿刺吸引細胞診)の適応を判断
という流れになります。PMC+1
非専門医が覚えておくべき最低ラインだけ挙げると:
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強く悪性を疑う所見(低エコー+不整形+微細石灰化+縦長)
→ 1cm以上なら原則FNA、リンパ節異常あればサイズにかかわらず専門医紹介 -
典型的腺腫様結節でも 2cmを超えたら一度はFNAを検討
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嚢胞のみの病変は、基本的にFNAは不要(治療目的の穿刺排液はあり)
「これは悪性評価が必要かも」と思った時点で、
細胞診とその後の手術適応の判断は専門医に任せるのが安全です。
7.その他の補助検査(必要に応じて)
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サイログロブリン(Tg)
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良悪鑑別にはあまり役立ちませんが、濾胞癌疑い・術後フォローで使用。PMC+1
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カルシトニン・CEA
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髄様癌を疑うときに測定。家族性髄様癌やMEN2を疑う症例など。
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CT / MRI
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巨大甲状腺腫で縦隔進展・気管偏位が疑われる場合や、局所進展評価に。
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胸部・縦隔評価
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吸気時の呼吸苦、仰臥位での増悪があれば、胸部CTで気道圧迫を確認。
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8.よくあるパターン別のざっくり対応
A.TSH高値+びまん性腫大 → 橋本病疑い
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TPOAb / TgAb 測定
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FT4が低下していれば機能低下症としてレボチロキシン開始
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まだFT4正常なら「潜在性」→ 症状・TSH値次第で経過観察 or 投薬
B.TSH低値+びまん性腫大 → バセドウ病疑い
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TRAb / TSAb 測定
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必要ならシンチでびまん性取り込み↑を確認
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抗甲状腺薬治療は、基本的には専門医に紹介してスタート
C.TSH正常+びまん性腫大 → 橋本病の非機能期/単純性甲状腺腫など
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抗TPO/Tg 抗体測定
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エコーで慢性甲状腺炎様パターンなら橋本病と考え年1回程度フォロー
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機能正常で症状もなければ経過観察でよいことが多い
D.結節性甲状腺腫(TSH正常 or 高値)
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エコーで結節の評価
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FNAが必要かどうか判断(※迷ったら専門医紹介)
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良性とわかれば6〜12か月ごとにエコーフォロー
E.結節性+TSH低値(機能性結節疑い)
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シンチで hot nodule か確認
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多くは良性。中毒症状があればRI治療や手術を専門医と相談
9.非専門医として「ここまでやればOK」というライン
日常診療で目標にしたいのは:
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TSH+FT4(±FT3)で機能を把握する
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甲状腺エコーでびまん性 vs 結節性、悪性疑いの有無を押さえる
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自己抗体でバセドウ病/橋本病など主要疾患をある程度ラベリングする
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TSH低値や悪性疑い、急速増大、圧迫症状があれば躊躇なく専門医に紹介する
ここまでできれば、
「拾い漏らしてはいけない危ない甲状腺疾患」 はかなりの割合でカバーできます。
10.まとめ
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甲状腺腫大は健診でよく見つかりますが、
機能異常の有無・びまん性か結節性か・悪性サインの有無を系統的に見ていけば、非専門医でも十分に一次対応が可能です。RACGP+1 -
基本は
「TSH+FT4(±FT3)+エコー」+必要に応じて「自己抗体」「シンチ」「FNA」。 -
赤信号(急速増大・圧迫症状・TSH強低値+結節・悪性エコー所見など)があれば、早めの専門医紹介をルール化しておくと安心です。
