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健診で甲状腺腫大と言われたら|まず受けるべき検査と受診の目安を医師がわかりやすく解説

[2025.11.23]

健診で甲状腺腫大を指摘されたら

 

 

― 一般内科医が押さえておきたい検査項目と評価の流れ ―

 

甲状腺腫大を見たときに考えるべきことは、シンプルに言うとこの3つです。

 

  1. 機能異常はあるか?(甲状腺ホルモンが多い/少ない)

  2. びまん性か、結節性か?(腫れ方のパターン)

  3. 悪性(がん)の可能性は高くないか?

 

この3本柱を、
「採血(機能+抗体)+エコー」を中心に整理していくのが基本です。RACGP+1

 

1.まず行う評価:問診・触診・ベースの検査

 

1-1 問診・身体所見で必ず確認したいポイント

 

  • いつ頃から腫れに気付いたか(急速?ゆっくり?)

  • 体重減少・動悸・手指振戦・発汗などの甲状腺機能亢進症状

  • 倦怠感・体重増加・むくみ・寒がりなどの機能低下症状

  • 嗄声、嚥下困難、呼吸苦などの圧迫症状

  • 小児期の頸部放射線照射歴

  • 甲状腺疾患の家族歴

  • 触診で

    • びまん性か結節性か

    • 硬さ(硬い・ゴロゴロ)

    • 可動性の低下

    • 圧痛の有無

    • 頸部リンパ節腫脹

 

赤信号(あれば早めに専門医紹介)

  • 急速に大きくなった腫瘤

  • 非対称性の硬い結節+可動性低下

  • 嗄声・嚥下困難・呼吸苦

  • 異常な頸部リンパ節

 

2.基本採血セット:甲状腺機能検査

 

最初に行うべきは TSH です。RACGP+1

多くの施設では実務的に
TSH + FT4(+必要ならFT3) を同時にオーダーしてしまう方がスムーズです。

 

検査項目 役割(イメージ)
TSH 「脳(下垂体)からの指令の強さ」
FT4 甲状腺がどれだけホルモンを出しているか
FT3 必要例に限る。亢進症の重症度評価など

※基準値は施設で微妙に違うので、必ず各検査室のリファレンスレンジで判断

 

2-1 パターン別のざっくり読み方

 

パターン FT4/FT3 TSH よくある病態
明らかな亢進症 バセドウ病、中毒性結節、無痛性・亜急性甲状腺炎など
明らかな低下症 橋本病(慢性甲状腺炎)、手術・RAI後など
潜在性亢進症 早期のバセドウ病、中毒性結節など
潜在性低下症 橋本病初期など

TSHが正常で症状もなければ、機能的には大きな問題がないことが多いです。bluecrossnc.com

 

3.甲状腺エコー(超音波):形態評価の中心

 

健診で腫大を指摘された患者では、
甲状腺エコーはほぼ必須と考えてよいです。RACGP+1

 

3-1 エコーで見るポイント

 

  1. びまん性腫大か、結節性か?

  2. 結節があれば

    • 大きさ(mm単位)

    • 個数(単発か多発か)

    • 内部エコー(等〜高エコー/低エコー/嚢胞性)

    • 形状・境界(平滑か、不整か、縦長か)

    • 石灰化の有無(微細石灰化は要注意)

    • 血流(カラードプラ)

 

3-2 ざっくり印象

 

  • びまん性+内部が粗造でやや高エコー/低エコー → 橋本病をまず疑う

  • びまん性+血流増加 → バセドウ病を疑う

  • 結節主体 → 前回の「結節対応」のフローに沿って評価(良性vs悪性、FNAの適応)

 

4.自己抗体検査:原因診断の「ラベル付け」

 

機能異常があれば、自己免疫性かどうかを見極めます。ACR Voice+1

検査 主にわかること
TRAb / TSAb 陽性ならバセドウ病の可能性が高い
TPOAb(抗TPO抗体) 橋本病の診断に有用
TgAb(抗サイログロブリン抗体) 同じく橋本病の診断補助。バセドウでも陽性になることあり

 

実務上は
「TSH異常+エコーでびまん性→抗体で原因を確定」
というイメージで良いと思います。

 

5.TSH低値のときに考える追加検査:シンチグラフィ

 

TSHが明らかに低値で、

  • 結節性腫大

  • 臨床的に中毒症状あり

といった場合には、**甲状腺シンチ(アイソトープ)**で hot / cold を見ると診断がクリアになります。RACGP+1

  • びまん性取り込み増加 → バセドウ病

  • 限局した取り込み増加 → 機能性結節(中毒性結節)

    • hot nodule は悪性のことが極めてまれ → 通常FNA不要

  • 取り込み低下 → 甲状腺炎系(無痛性・亜急性)など

 

非専門医の先生は、
「TSH低値+エコーで結節あり → シンチ or 内分泌専門医への紹介」
というシンプルなルールで十分です。

 

6.腫瘍性病変の評価:結節があれば FNA の適応を考える

 

腫大が結節性で、
エコーで結節を認める場合は、前回の結節記事と同様に、

  1. エコー所見で良性寄りか悪性寄りか評価

  2. サイズと所見に応じて FNA(穿刺吸引細胞診)の適応を判断

という流れになります。PMC+1

 

非専門医が覚えておくべき最低ラインだけ挙げると:

  • 強く悪性を疑う所見(低エコー+不整形+微細石灰化+縦長)
     → 1cm以上なら原則FNA、リンパ節異常あればサイズにかかわらず専門医紹介

  • 典型的腺腫様結節でも 2cmを超えたら一度はFNAを検討

  • 嚢胞のみの病変は、基本的にFNAは不要(治療目的の穿刺排液はあり)

 

「これは悪性評価が必要かも」と思った時点で、
細胞診とその後の手術適応の判断は専門医に任せるのが安全です。

 

7.その他の補助検査(必要に応じて)

 

  • サイログロブリン(Tg)

    • 良悪鑑別にはあまり役立ちませんが、濾胞癌疑い・術後フォローで使用。PMC+1

  • カルシトニン・CEA

    • 髄様癌を疑うときに測定。家族性髄様癌やMEN2を疑う症例など。

  • CT / MRI

    • 巨大甲状腺腫で縦隔進展・気管偏位が疑われる場合や、局所進展評価に。

  • 胸部・縦隔評価

    • 吸気時の呼吸苦、仰臥位での増悪があれば、胸部CTで気道圧迫を確認。

 

8.よくあるパターン別のざっくり対応

 

A.TSH高値+びまん性腫大 → 橋本病疑い

  • TPOAb / TgAb 測定

  • FT4が低下していれば機能低下症としてレボチロキシン開始

  • まだFT4正常なら「潜在性」→ 症状・TSH値次第で経過観察 or 投薬

 

B.TSH低値+びまん性腫大 → バセドウ病疑い

  • TRAb / TSAb 測定

  • 必要ならシンチでびまん性取り込み↑を確認

  • 抗甲状腺薬治療は、基本的には専門医に紹介してスタート

 

C.TSH正常+びまん性腫大 → 橋本病の非機能期/単純性甲状腺腫など

  • 抗TPO/Tg 抗体測定

  • エコーで慢性甲状腺炎様パターンなら橋本病と考え年1回程度フォロー

  • 機能正常で症状もなければ経過観察でよいことが多い

 

D.結節性甲状腺腫(TSH正常 or 高値)

  • エコーで結節の評価

  • FNAが必要かどうか判断(※迷ったら専門医紹介)

  • 良性とわかれば6〜12か月ごとにエコーフォロー

 

E.結節性+TSH低値(機能性結節疑い)

  • シンチで hot nodule か確認

  • 多くは良性。中毒症状があればRI治療や手術を専門医と相談

 

9.非専門医として「ここまでやればOK」というライン

 

日常診療で目標にしたいのは:

  1. TSH+FT4(±FT3)で機能を把握する

  2. 甲状腺エコーでびまん性 vs 結節性、悪性疑いの有無を押さえる

  3. 自己抗体でバセドウ病/橋本病など主要疾患をある程度ラベリングする

  4. TSH低値や悪性疑い、急速増大、圧迫症状があれば躊躇なく専門医に紹介する

 

ここまでできれば、
「拾い漏らしてはいけない危ない甲状腺疾患」 はかなりの割合でカバーできます。

 

10.まとめ

 

  • 甲状腺腫大は健診でよく見つかりますが、
    機能異常の有無・びまん性か結節性か・悪性サインの有無を系統的に見ていけば、非専門医でも十分に一次対応が可能です。RACGP+1

  • 基本は
    「TSH+FT4(±FT3)+エコー」+必要に応じて「自己抗体」「シンチ」「FNA」

  • 赤信号(急速増大・圧迫症状・TSH強低値+結節・悪性エコー所見など)があれば、早めの専門医紹介をルール化しておくと安心です。

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