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胃カメラで「萎縮なし」と言われたのに油断禁物|非萎縮胃炎・除菌後に潜む胃がんリスクを最新研究で解説

[2025.11.23]

胃カメラ(上部消化管内視鏡)検査で「萎縮なし」と言われた場合でも、胃がんリスクがゼロになるわけではありません。

 

 


特に Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染に関連する**「非萎縮胃炎」**の段階や、ピロリ菌除菌後には、見逃されやすい“隠れた胃がんリスク”が存在することが、近年の研究や臨床経験から明らかになってきました。

ここでは、文献データを踏まえて、胃粘膜萎縮がない/軽度であっても注意すべきリスク要因と、最新の研究動向について詳しく解説します。

 

1. 胃粘膜萎縮と胃がんリスクの基本

 

慢性的なピロリ菌感染は胃粘膜に炎症(慢性胃炎)を起こし、その結果として胃粘膜が薄くなる**萎縮性胃炎(前がん病変)**を引き起こし、胃がんリスクを高めます。
一般的に、内視鏡で評価される萎縮が進行するほど胃がんの発見率が高くなることが報告されており、たとえば木村・竹本分類では、

 

  • C-0/C-1(萎縮なし〜ごく軽度)での胃がん頻度:0.04%以下

  • O-3/O-p(高度萎縮)での胃がん頻度:10.3%

とされています。

しかしながら、萎縮の程度にかかわらず胃がんが発生する症例も存在しており、従来の萎縮評価だけでは拾いきれない症例を検出するために、新しい胃がんリスクマーカーの開発が急務とされています。

 

2. 「非萎縮胃炎」や萎縮が軽度な胃粘膜に潜むリスク(ピロリ菌現感染時)

 

H. pylori 未感染者(組織学的に好中球浸潤・萎縮・腸上皮化生のない状態)は、胃がんリスクが極めて低い集団であり、内視鏡ではRAC(集合細静脈の規則的配列)が明瞭に確認できます。

一方で、萎縮が目立たない/軽度であってもピロリ菌現感染がある場合、以下のような内視鏡所見は高い胃がんリスクのサインとなります。

 

A. 鳥肌胃炎(Nodular Gastritis)

 

鳥肌胃炎は、幽門前庭部を中心に白色調の結節状隆起がびまん性にみられる所見で、リンパ濾胞形成が顕著な特殊型胃炎です。原因の多くはピロリ菌感染です。

  • 特に若年者に発生する未分化型胃がん(スキルス胃がんなど)と強く関連していることが報告されています。

  • 未分化型胃がんのリスクは、鳥肌胃炎のないピロリ菌陽性者に比べてオッズ比64.2と極めて高いというデータもあります。

  • 鳥肌胃炎を認める患者では、この所見を認めないピロリ菌陽性者と比べて、胃がんの発見率が有意に高いことが知られています。

 

B. 皺襞腫大・蛇行(Enlarged Folds)

 

胃体部大彎の皺襞が太く、隆起が目立つ「皺襞腫大」も、胃がんリスクの高い内視鏡所見です。

  • 皺襞の幅が太いほど、特に未分化型胃がんのリスク上昇と関連します。

  • たとえば皺襞幅7mmの症例では、4mm以下の症例と比べて未分化型胃がんリスクが35.5倍であったという報告があります。

 

C. びまん性発赤(Diffuse Redness)

 

ピロリ菌現感染胃粘膜では、活動性胃炎の所見としてびまん性発赤がしばしば認められます。

  • びまん性発赤は、ピロリ菌感染胃炎の診断に最も有用な所見の一つとされており、胃炎の活動性そのものを反映しています。

  • 萎縮が軽度であっても、ピロリ菌感染が持続する限り、長期的な胃がんリスクは残存すると考える必要があります。

 

3. H. pylori 除菌後の「非萎縮胃炎」と最新のリスク評価

 

ピロリ菌除菌治療が成功した後も、胃がんが新たに発生する可能性は完全にはなくならず、報告によっては**0.5~1.2%**の症例で原発性胃がんが生じるとされています。
特に、除菌前の胃粘膜萎縮の重症度や腸上皮化生の有無・程度が、除菌後の胃がん発生リスクと密接に関連すると報告されています。

一見すると内視鏡で萎縮が改善したように見える症例や、除菌前に軽度萎縮しか認めなかった症例においても、除菌後の胃がんリスクをどう評価するかが重要なテーマとなっています。

 

A. DNAメチル化マーカーによる「超高リスク」集団の特定(最新研究)

 

近年、萎縮の程度にかかわらず胃がんが発生しうることから、**DNAの異常メチル化(エピゲノム異常)**に着目した研究が進んでいます。

最新の多施設前向き研究では、ピロリ菌除菌後にオープン型萎縮性胃炎を有する健常人を対象に、非悪性胃粘膜(前庭部・体部)のDNAメチル化マーカー 「RIMS1」 を測定することで、初発胃がんリスクを高精度に予測できることが示されました。

  • RIMS1メチル化レベルが最高四分位群の人では、最低四分位群に比べて胃がん発生率が大きく増加しており、
    (10万人年あたり 972.8人 vs 127.1人)という結果が得られています。

  • この研究により、従来ガイドラインが推奨する「2年に1回の内視鏡検診」ではなく、
    「毎年胃カメラ検査を行うべき超高リスク集団」の選別が可能になりました。

  • 今後は、このDNAメチル化マーカーを活用することで、
    検診が不要または間隔を延長できる低リスク群の選別も期待されています。

 

4. まとめと対策:萎縮なしでも「胃がん予防の視点」が大切

 

胃カメラで「萎縮なし」と診断された場合でも、

  • ピロリ菌感染の有無

  • 過去の感染歴・除菌歴

  • 鳥肌胃炎や皺襞腫大などの内視鏡的高リスク所見

を総合的に評価することが非常に重要です。

 

特に、ピロリ菌感染による慢性胃炎が長期化すると、萎縮が軽度でも胃がんリスクは残存し、除菌後であっても発がんリスクはゼロにはなりません。

そのため、

  • 胃がんリスクのある症例を効率よく見つけて除菌治療へつなげる体制

  • 除菌後症例に対する、内視鏡的萎縮度やDNAメチル化マーカーなどに基づく
    個別化されたスクリーニングシステムの構築

が今後ますます重要になっていきます。

 

萎縮性胃炎や高リスク所見を指摘された方は、除菌に成功していても、
年1回〜数年に1回の定期的な胃カメラ(内視鏡フォロー)を継続することが推奨されます。
早期に発見された胃がんであれば、多くの症例で内視鏡治療のみで根治が可能
であるため、継続的な検査が最大の予防策となります。

 

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