胆石がないのに右上腹部が痛い理由|機能性胆道障害(SOD・胆嚢ジスキネジア)の最新診断と治療【Rome IV準拠】
胆石がない右上腹部痛:「機能性胆道障害(FDDS)」の最新診断と治療
胆石も炎症も見つからないのに、右上腹部がズキズキ痛む・背中まで響く・繰り返す。
その背景にある代表的な疾患が、
👉 機能性胆道障害(Functional Biliary Disorders)
・機能性胆嚢障害(胆嚢ジスキネジア)
・Oddi括約筋機能不全(SOD)
です。
これは器質的異常が見つからない機能性疾患で、Rome IV診断基準の整備によって治療戦略が大きく変化しています。
I. 機能性胆道障害とは?|特徴と分類
■ 定義
器質的異常(胆石・腫瘍・炎症など)がないにもかかわらず、
胆道痛と同様の強い腹痛を反復する病態。
国際的には**Rome IV(機能性消化管障害の国際基準)**で定義されています。
■ 2つの代表的病態
① 機能性胆嚢障害(Functional Gallbladder Disorder)
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胆石なし
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胆嚢の収縮能(GBEF)が低下
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以前の名称:胆嚢ジスキネジア、慢性無石胆嚢炎
② Oddi括約筋機能不全(SOD)
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胆汁・膵液の出口の括約筋が十分開かず腹痛を起こす
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胆道内圧が上昇し痛みが悪化
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女性は男性の約3倍
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胆嚢摘出後患者の**10〜20%**で持続痛(胆嚢摘出後症候群)として問題化
II. 症状:Rome IVで定義される「胆道痛」
Rome IVでは、次のすべてを満たす痛みを「胆道痛」と定義します。
✔ 30分以上続く
✔ 不定期に繰り返す
✔ 日常生活を中断するほど強い
✔ 排便・体位変換・制酸薬で軽減しない
支持所見
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吐き気や嘔吐を伴う
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背中・右肩甲骨下に放散
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夜間痛で睡眠が妨げられる
典型例は、中年女性の発作性の激しい心窩部痛・右上腹部痛です。
III. 診断:器質的疾患の除外と機能評価が鍵
機能性胆道障害の診断は、
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器質的疾患を徹底的に除外
-
機能的異常を評価
という2段階で行います。
1. 除外すべき疾患と画像検査
重要な鑑別疾患
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胆石症・胆管結石
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胆管炎
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急性膵炎
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肝腫瘍
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消化性潰瘍穿孔
推奨検査
■ 腹部超音波
■ CT
■ MRCP(胆管膵管の非侵襲的画像評価)
■ EUS(微小結石・胆泥の検出に最優秀)
とくにEUS(超音波内視鏡)は、
通常エコーでは見逃す胆泥症・微小結石の発見に非常に有用で、診断精度を大きく高めます。
2. Rome IVに基づくSOD分類
| Rome IV分類 | 特徴 |
|---|---|
| 機能性胆嚢障害 | 胆石なし+GBEF低下 |
| 機能性胆道Oddi括約筋疾患(旧Type II) | 胆石なし+肝酵素↑または総胆管拡張のいずれか1つを満たす |
| 機能性胆道痛(旧Type III) | 胆石なし+客観的異常なし(肝酵素・膵酵素・胆管径すべて正常) |
3. 機能的評価
■ 胆道シンチグラフィー(HIDA・CCK-CS)
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GBEF(胆嚢駆出率)を測定
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40%未満は胆嚢機能障害を示唆
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ただし非特異的 → 症状との整合性が必須
■ 乳頭括約筋内圧測定(SOM)
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SODのかつてのゴールドスタンダード
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侵襲性高く、**ERCP後膵炎25%**で現在は慎重適応
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基礎圧40mmHg以上で異常
SOMを回避する目的で、DMM(ダブルマイクロトランスデューサー)法の有用性も近年報告されています。
IV. 最新の治療戦略:Rome IVで大きく変化
治療の目的は、
✔ 痛みの軽減
✔ 胆汁・膵液排出の改善
1. 内視鏡的治療(EST)
● 適応あり
機能性胆道Oddi括約筋疾患(旧Type I/II)
-
Type I:EST効果が非常に高く推奨
-
Type II:SOMで内圧亢進があれば有効
● 適応なし(重要)
機能性胆道痛(旧Type III)
-
EPISOD試験で効果なし
→ ESTは推奨されない(Rome IVでカテゴリ削除)
2. 機能性胆嚢障害(胆嚢ジスキネジア)
推奨治療は:
▶ 腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)
適応例
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典型的な胆道痛
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GBEF低下(40%未満)
症状改善率は高いものの、
「機能性疾患である」という特性から、外科適応は慎重判断が必要です。
3. 薬物療法・保存的治療
薬物効果は限定的だが、以下が試されます。
■ Oddi括約筋弛緩薬
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ニフェジピン(Ca拮抗薬)
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硝酸薬(ニトログリセリン)
特にType II SODで有効性を示す報告あり。
■ その他
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トリメブチン(運動調節薬)
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PDE阻害薬(バルデナフィル)
■ 食事療法
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低脂肪食
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非オピオイド鎮痛薬
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心身症的要因にも配慮(抗うつ薬の併用など)
まとめ:胆石なし右上腹部痛は“診断のパズル”を慎重に組み立てる必要がある
右上腹部痛で胆石がない場合、
**機能性胆道障害(胆嚢ジスキネジア・SOD)**が強く疑われます。
■ 診断の要点
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EUS・MRCPで器質的疾患を徹底除外
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胆道シンチでGBEF評価
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SOMは慎重に選択
■ 治療の要点
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Type I/II SOD → EST有効
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機能性胆道痛(旧Type III)→ EST禁忌/保存療法
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胆嚢ジスキネジア → 適切症例でLCが有効
機能性胆道障害は、
まさに**「症状・画像・機能評価のピースを集めて正解にたどり着く」**疾患です。
心身相関も関与するため、多角的アプローチによる疼痛管理が重要です。
