「ポストウイルス症候群」とは?|コロナ後遺症(Long COVID)の原因・症状・最新治療を専門医が徹底解説
ポストウイルス症候群(PVS)とは?|Long COVID(コロナ後遺症)との違いと最新の症状・診断・対策を専門医が解説
1. ポストウイルス症候群とは?|COVID-19後遺症の基礎になる重要概念
ポストウイルス症候群(Post-Viral Syndrome: PVS) とは、
インフルエンザ、デング熱、伝染性単核球症、そして新型コロナウイルスなど、
あらゆるウイルス感染の“回復後”に数カ月以上症状が持続する状態 の総称です。
英国では古くから、感染症をきっかけに全身倦怠感が続く病態を
PVFS(ウイルス感染後疲労症候群) や
ME(筋痛性脳脊髄炎) と診断しており、
これは慢性疲労症候群(CFS)の前身ともいえる概念です。
■ 新型コロナと関連する名称(医学的な呼び方)
COVID-19感染後に続く症状は一般に「コロナ後遺症」と呼ばれますが、
医学界では以下の名称が使われます。
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Long COVID(ロングコビッド)
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PASC(Post-Acute Sequelae of SARS-CoV-2 infection)
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PACS(Post-Acute COVID-19 Syndrome)
■ WHOによる定義
SARS-CoV-2感染後 少なくとも2カ月以上持続し、他の疾患で説明できない症状 を「post COVID-19 condition」と定義。
通常、発症から 3カ月経過後 にも症状が残る場合を指します。
2. 主な遷延症状:倦怠感(PEM)と咳が最も多い
ポストウイルス症候群/Long COVIDでは、全身の複数臓器に症状が出ますが、
特に多いのが
✔ 強い倦怠感・疲労感
✔ 長引く咳
■ 倦怠感・疲労感(PEM/PESE)
倦怠感は最も多く、日常生活に深刻な影響を与える症状です。
● 特徴
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休んでも回復しない
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社会生活が困難になるほどの重度の疲労
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特に特徴的なのが
PEM(労作後倦怠感)/PESE(労作後症状増悪)
● PEMとは?
軽い負荷(買い物・短時間の仕事・家事など)の 5〜48時間後に強い倦怠感が悪化。
重症化すると 数日寝込む“クラッシュ”状態 に陥ることもあります。
■ ME/CFSとの関連
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ME/CFSは感染後に発症しやすく、微熱・頭痛・筋肉痛・集中力低下など多彩な症状を特徴とする。
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米国の大規模研究では、
新型コロナ感染者の約4.5%がME/CFSを発症(非感染者の7倍) と報告。
重症度、喫煙・飲酒、ワクチン未接種 が発症リスクを高める可能性があります。
■ 咳(感染後咳嗽)
● 特徴
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倦怠感・呼吸困難・味覚嗅覚障害に次いで頻度が高い
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感染急性期から続く場合/回復後に再燃する場合どちらもあり
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乾いた咳(乾性咳嗽) が多い
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特に 夜間〜早朝に悪化 しやすい
● 機序として考えられるもの
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ウイルスで傷んだ気道粘膜の炎症 → 気道過敏 の状態
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迷走神経や脳内炎症の関与
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喉の乾燥・炎症
● 期間と社会生活
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海外調査:発症2カ月後で17%
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日本の入院患者:6カ月後5%、12カ月後も5%
※ 感染後の咳は他者に感染させない ため、出勤・通学は原則可能(咳エチケットは必要)。
3. 倦怠感・咳以外の遷延症状(多臓器に及ぶ)
| カテゴリ | 主な症状 |
|---|---|
| 神経・精神 | ブレインフォグ、集中力低下、記憶障害、睡眠障害、頭痛、不安、抑うつ、しびれ |
| 呼吸器 | 息切れ、胸痛、痰 |
| 感覚器 | 嗅覚障害、味覚障害、異嗅症 |
| 全身症状 | 微熱、筋肉痛、関節痛、動悸、筋力低下、脱毛 |
4. 診療と管理:鑑別診断と“ペーシング”が重要
ポストウイルス症候群は単一の病気ではなく、
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感染後の臓器障害
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免疫調節異常
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自律神経障害
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血栓形成
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心理社会的要因
が複雑に絡み合っているとされています。
■ 1. 鑑別診断(除外診断)の徹底
後遺症の陰に
心不全、脳炎、甲状腺疾患、貧血、心筋炎 などが隠れていることも。
症状が長引く場合は、
各症状に応じた対症療法+臓器疾患の除外 が必須です。
■ 2. 活動管理(ペーシング):PEM・PESEがある場合の必須戦略
WHO欧州事務局も推奨する**ペーシング(Pacing)**とは、
症状を悪化させないための「活動調整法」です。
● 基本原則(STOP/REST/PACE)
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STOP:無理をしない、限界を超えない
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REST:症状が出る前に休息
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PACE:毎日の活動ペースを最適化
● 重要な3つのP
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Pacing(ペース配分)
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Prioritizing(優先順位付け)
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Planning(計画する)
特にPEMがある人は、クラッシュを避けることが回復の第一歩です。
5. ポストウイルス症候群とは“嵐の後の海”のような状態
ウイルス急性期という“嵐”が過ぎても、
見えない大きな波(倦怠感・咳・ブレインフォグ)が残り、
生活のペースを大きく落とさざるを得なくなります。
突然のクラッシュは、思わぬ大波に飲まれるようなもの。
だからこそ、
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限界を知り(STOP)
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錨をおろして小まめに休み(REST)
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無理のない速度で進む(PACE)
という慎重な“航海計画”が重要です。
