お酒を飲まないのに脂肪肝?急増する「サルコペニア脂肪肝(S-MASLD)」とは|痩せ型でも危険な理由と対策を専門医が解説
お酒を飲まないのに脂肪肝?急増する「サルコペニア脂肪肝(S-MASLD)」の原因と対策を専門医が徹底解説
お酒をほとんど飲まないにもかかわらず「脂肪肝」と診断される——
その背景に、日本で急増している サルコペニア脂肪肝(S-MASLD) が深く関係しています。
これは加齢や生活習慣により 筋肉量が低下(サルコペニア) し、その結果として肝臓の代謝障害が起こる新しいタイプの脂肪肝です。
本記事では、サルコペニア脂肪肝の仕組み、日本人に多い理由、重症化リスク、そして有効な治療法までを、医学的根拠に基づき詳しく解説します。
1. 脂肪肝の名称変更:NAFLDからMASLDへ(最新国際基準)
従来、お酒が原因でない脂肪肝は NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患) と呼ばれていました。
しかし、
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「アルコール性」との混同
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患者の自己責任と誤解されやすい
という問題を受け、国際的合意により名称が変更されました。
現在は、代謝異常を原因とする肝疾患として
👉 MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)
と定義されます。
MASLDは、脂肪肝に加え 肥満・糖尿病・高血圧・脂質異常症のうち1つ以上 がある場合に診断されます。
2. サルコペニア脂肪肝(S-MASLD)とは?|日本人に特に多い“痩せ型脂肪肝”
■ 定義
サルコペニア脂肪肝とは、
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MASLD(旧NAFLD)
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サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)
が同時に存在する、重症化しやすい脂肪肝の一型です。
■ 日本人に多い理由
日本人は欧米人と比べて特徴的です。
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肥満でなくても脂肪肝を発症しやすい(Lean MASLD)
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内臓脂肪が多く、筋肉量が少ない体質
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筋肉の質の低下(隠れ筋脂肪)が進行しやすい
筑波大学の研究では、非肥満の脂肪肝患者の多くに
内臓脂肪増加+筋肉量減少(プレサルコペニア) が確認されています。
→ 見た目は「痩せている」ように見えても、体組成は
“内臓脂肪が多く、筋肉が少ない”リスク体質
になっているということです。
3. サルコペニア脂肪肝の核心:筋肉と肝臓の“悪循環”
サルコペニアは単なる合併症ではなく、脂肪肝の進行を加速させる 独立した病態 です。
■ ① 筋肉量の低下 → 糖が処理できず肝臓に脂肪が蓄積
筋肉は人体最大の“糖の貯蔵庫”。
筋肉が減ると糖が処理されず、溢れた糖が肝臓で 中性脂肪へ変換 され、脂肪肝が悪化します。
■ ② インスリン抵抗性が増悪し、脂肪肝がさらに進行
筋肉量が減ることで 全身のインスリン感受性が低下
→ 肝臓への脂肪蓄積が強くなる
■ ③ マイオカイン異常による“臓器間コミュニケーション”の破綻
筋肉はホルモンのような物質(マイオカイン)を分泌しています。
サルコペニアではこれが乱れ、肝細胞のミトコンドリア代謝を障害し、
NASH(MASH)や線維化を加速させる ことが判明しています。
4. S-MASLDが危険な理由
最新研究では、サルコペニアを伴う脂肪肝は以下のリスクが有意に高いと報告されています。
✔ NASH/MASHの発症リスク → 約2.5倍
✔ 肝線維化(肝硬変に向かう道) → 大幅に増加
✔ 全死亡率上昇
✔ 長時間座位と組み合わさると
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MASLD発症リスク → OR 3.75
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重度脂肪化リスク → OR 17.58
S-MASLDは脂肪肝の中でも最も注意すべき病態です。
5. 診断と治療の中心は「肝臓リハビリ」
薬物治療が未確立な現在、もっとも効果的な治療は
筋肉量を増やしながら、脂肪肝を改善させる生活介入 です。
■ 診断
日本肝臓学会の
「肝疾患におけるサルコペニア判定基準」 に基づき、
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CT・BIAで筋肉量測定
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握力測定(男性<28kg、女性<18kg)
などで診断します。
■ 有効な治療:肝臓リハビリテーション
① 運動療法(最も重要)
有酸素運動 + レジスタンス運動のハイブリッド戦略
が最も効果的。
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有酸素運動 → 体脂肪を減らす
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筋トレ → 筋肉量を増やす、肝脂肪を減らす
スクワットや軽負荷トレーニングでも
脂肪肝・肝機能・インスリン抵抗性の改善 が確認されています。
② 栄養療法
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良質なタンパク質の摂取
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BCAA不足の補正
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極端な食事制限は逆効果(筋肉量低下→脂肪肝悪化)
③ 長時間の座位行動を避ける
「立つ・歩く」をこまめに入れ、座りっぱなしを避けることが必須です。
🟩 まとめ
サルコペニア脂肪肝(S-MASLD)は、
“筋肉の減少”が脂肪肝を進行させる新しいタイプの肝疾患 です。
日本人に非常に多く、
肥満ではない人でも発症する「痩せ型脂肪肝」の重要な原因です。
早期の診断と“筋肉+肝臓”を同時に改善する肝臓リハビリ が、
重症化を防ぐために欠かせません。
